政治・経済

エネルギー供給構造高度化法により、石油精製工場の閉鎖が相次いでいる。強制的な需給調整の裏側では元売り同士の提携など、縮小する市場での生き残りを懸けた動きが活発化している。 (ジャーナリスト/森光二)

減りゆく石油製品需要

 石油元売り大手が2014年3月末までに相次いで製油所の石油精製工場を閉鎖する。最大手のJX日鉱日石エネルギーは室蘭製油所(北海道室蘭市)で、出光興産は徳山製油所(山口県周南市)でそれぞれ石油精製を停止。コスモ石油は坂出製油所(香川県坂出市)を今年7月に閉鎖する。昭和シェル石油は約1年半前にグループ会社の東亜石油京浜製油所扇町工場(川崎市川崎区)閉鎖を完了。東燃ゼネラル石油は川崎市と和歌山市にある製油所の精製装置を1基ずつ廃棄する。

 こうした動きの背景にあるのが、経済産業省による「エネルギー供給構造高度化法」。製油所に対し、より付加価値の高い石油製品の製造設備を増やすよう義務付けたものだ。具体的には、全体の石油精製能力に占める重油分解装置の能力の比率を一定レベルまで引き上げるよう義務化した。だが、ガソリンなど石油製品の需要は今後、人口減少や自動車の低燃費化などもあり、減っていくのは確実。しかも、分解装置の新設となると投資に数百億円掛かる。多くの会社は高度化法をクリアするため、全体の精製能力を落とすことで現在の分解装置装備率を引き上げる手段に出ている。

 つまり、法律名にある供給構造の高度化というよりも合理化と言うほうが実態に近い。バブル崩壊以降、石油業界は供給過剰の状態が長く続いており、いわば法律による強制的な需給調整とも言える。一部の元売りからは「本来、設備の淘汰は需給バランスによって決められるべきものであり、民間の自主性に任せるものだ」という批判もあったが、「供給過剰による無益な乱売が減り、各社が適正な収益を上げられるようになる」と歓迎する声も少なくない。

 実際、現在のマーケット、とりわけガソリンスタンド間ではし烈な安売り競争が繰り広げられている。元売りが系列の販売店に卸すガソリンとは別に業者間転売の安い製品(業転玉と呼ばれる)が大量に出回っており、これが一部で価格破壊を引き起こしている。その出所は元売りの余剰品とされ、商社経由で安売り業者に流れているとみられている。元売りは基本的に自社系列スタンドに対し、業転玉の取り扱いを禁じているため、系列スタンドでは不満が鬱積している。こうした事態が起きているのも供給過剰が原因であり、「高度化法で需給が均衡すれば業転玉も減り、マーケットは適正化する」(元売り関係者)と期待されている。

 だが、市場の減少スピードはそれをも上回るペースで進んでいる。現在の国内の石油精製能力は日量で約447万バレル。これが14年3月末には約392万バレルまで約12%削減される見通しだ。その一方で、ガソリン需要は年率2%前後のペースで減っていくと予測され、5年で1割も減る計算となる。経済産業省は昨年、30年度にガソリンの需要が10年度比6割減るとの予測を出し、関係者を驚かせた。これほどではないにしても、石油連盟では現行のエネルギー政策が続けば、ガソリンを含む石油製品全体の内需が20年に10年比3割減るとの試算を発表している。

 他方、中国などアジアの新興国では巨大な製油所建設が相次いでいる。既に競争力のある韓国からガソリンの輸入が増え、業転玉と同様に市場をかく乱した時期もある。現在は円安の進展で一服しているが、今後、価格競争力を増した新興国が日本のマーケットを狙う可能性も否定できない。減少の一途をたどるとはいえ、ボリュームだけとってみれば、日本の総需要はまだまだ巨大だ。高度化法後、マーケットが適正化され、価格が安定すれば、今度は内外価格差により、輸入品に割安感が生まれかねない。

企業統合の呼び水に

 一方で、製油所の相次ぐ閉鎖は元売り同士の関係にも微妙な変化をもたらし始めている。元売り各社はこれまでも合理化の一環として、競合他社と石油精製委託や物流共同化などを進めてきた。既にA社の製油所や油槽所からB社のタンクローリーが給油をして出ていく光景は珍しくない。ところが、製油所の閉鎖となるとそれでは済まない。製油所のある地域での供給能力が激減するため、競合他社との相互融通がますます必要になる。

 室蘭を閉めるJXと徳山を閉める出光は、北海道と西日本で石油製品の相互融通に合意。来年4月から年間230万㌔㍑をそれぞれの近隣の製油所から供給し合うことを決めた。具体的には、JXは大分製油所(大分市)から、出光は北海道製油所(北海道苫小牧市)から相手先に出荷する。続いて、東燃ゼネラルと昭和シェルも原料や石油製品の相互融通のほか、油槽所の共同運営化などで協業を拡大することを決めた。コスモも西日本で他社からの融通を増やすほか、石油化学事業で提携する韓国のヒュンダイオイルバンクと協力体制を構築。自然災害など緊急時に限ってはいるが、原料・製品の相互融通や精製委託などを行う協定を結んだ。

 こうした動きは今後もさらに広がりそうだ。ある元売り首脳は「取り扱っている製品はどこも同じもの。合理化推進のため、競合他社との連携をもっと深めていく」と言い切る。そこから大型再編の芽が再び現実味を帯びてくる。

 高度化法は元売り各社に事実上、合理化を強いるだけではなく、さらなる企業統合の呼び水ともなっている。80年代前半まで17社あった元売りは10年のJX誕生で7社まで統合が進んだ。しかも、各社は13年度からの経営計画において、石油化学へのシフト加速や、太陽電池・燃料電池など新エネルギー機器の拡充、液化天然ガスや石炭など他資源への参画など、脱・石油戦略を多数、盛り込んでいる。先細りが確実な石油事業は他社との連携でしのぎ、新分野で勝負をかける方向に舵を切っている。

 石油業界が14年以降、新たな再編ステージに入るのは間違いない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る