政治・経済

三菱自動車の製品でバッテリーの不具合が起きた問題で、同社は早期の決着を図った。しかし、真の原因究明がなされたかについては疑問が残る。世間を騒然とさせたリコール隠し事件から10年以上たつが、企業体質は本当に変わったのか。 (ジャーナリスト/渡辺丈二)

力づくの再発防止策

 三菱自動車のプラグインハイブリッド車(PHV)「アウトランダーPHEV」に搭載されたリチウムイオンバッテリーで不具合が相次いだ。バッテリーを製造したのは、GSユアサ系列の電池メーカー。GSユアサ製のバッテリーは、ボーイング787型機でも過熱トラブルを起こしているため、丁寧な調査が必要と見られていたが、三菱自動車は原因究明もそこそこに幕引きを図ってしまった。

 PHVは家庭用電源などから直接充電することができるハイブリッド車で、アウトランダーPHEVは「i-MiEVで培ったEV技術、ランサーエボリューションで鍛えた4WD技術、パジェロで築いたSUVのノウハウを結集した」(プレスリリースから抜粋)車だ。三菱自動車が持つ最先端技術の粋を集めた「戦略車」として今年1月24日に発売され、計画を上回るペースで受注が進み、トラブルを受けて3月下旬に生産・出荷が停止されるまでに約7500台の注文があったという。

 その肝入りの次世代車が発売からわずか2カ月で早くも躓いた。まずは簡単に事案をおさらいしたい。

 最初にトラブルが起きたのは神奈川県内の販売会社だった。従業員が納車準備のため3月20日に普通充電で満充電をした後、翌21日に車を移動させようとしたところ、車が動かず異臭が発生。車両の下回りを確認し、バッテリーの一部が溶けているのを見つけた。その後の調査でバッテリーを構成する80個の電池セルのうち1個が何らかの原因で発熱し、バッテリーの一部が溶けたことが判明。三菱自動車は27日に記者会見を開いて事案を公表し、アウトランダーPHEVの所有者に外部充電などを行わないよう呼び掛けた。

 また、東京都内では3月23日、ドライバーが車を発進させようとしたところ、「EVシステム異常」のエラーメッセージが繰り返し表示されるトラブルが発生。3月27日には、納車前の満充電をした岐阜県内の販売会社でも同様のエラーメッセージが表示された。いずれも電池セルの内部で短絡した痕が確認された。

 アウトランダーPHEVに搭載されているバッテリーは、GSユアサと三菱自動車、三菱商事が共同で設立した滋賀県栗東市の電池メーカー「リチウムエナジージャパン(LEJ)」が製造している。ボーイング787型機に搭載されたGSユアサ製のバッテリーが過熱トラブルを起こしていただけに、報道は過熱。朝日新聞は3月28日の朝刊で大々的にトラブルを報じ、ほかの大手マスコミもそれに追随した。

 三菱自動車はGSユアサ、LEJと二十数人の合同チームを作り、原因究明に乗り出す。中尾龍吾常務取締役は当初、「1~2週間以内に原因を究明する」と自信を見せていたが、思った以上に調査は難航。4月10日の中間報告を挟み、発生から約1カ月後の4月24日にようやく「LEJの工場でのスクリーニング検査工程で、従業員が誤って作業台から電池セルを床に落としたことが主な原因だった」とする最終的な調査結果を発表した。

 しかし、この調査結果は推測にすぎず、原因が究明されたとは言い難い。LEJの工場の作業記録では「作業中に落とした電池セルは除外した」と残っており、除外したはずの不具合品がなぜ後ろの工程まで流れ、出荷されてしまったのかは依然、分かっていない。

 さらにスクリーニング検査では、機械の設定ミスが起きていたことも判明。(振動を加えて異物を調べる)振動試験は2・5G以下で行われるが、実際には4倍のGがかけられていたケースがあったという。従業員が検査機に電池セルをセットする際、雑な扱いをしていたことも明るみに出た。こうした検査の杜撰さが浮き彫りになったが、それについての原因や責任の所在は曖昧なまま、三菱自動車はスクリーニング検査自体を廃止するという力づくの再発防止策で幕引きを図ってしまった。

優先される社内事情

 決着を急いだのには、理由がある。

 アウトランダーPHEVは、欧州をはじめとする海外でも展開する計画で「予約受注が各国で積み上がっている状況」(三菱自動車幹部)。欧州の一部では期間限定で次世代車に対して補助金が出る国もあるため、販売スケジュールを変えたくないというのが本音だ。生産再開の時期は明らかにしていないが、社内では「何とか5月中には生産再開にこぎ着けたい」との声が漏れる。

 また、4月25日に2013年3月期の決算記者会見が予定されていたことから、「益子修社長が出席する決算会見までにけりを付けなければ、決算会見でバッテリー問題についての質問が殺到してしまう、と早期の決着を求める声が社内にはあった」(自動車業界関係者)という。

 こうした事情から、三菱自動車は決算会見前日の4月24日夕、駆け込み的に最終的な調査報告結果の公表に踏み切った。5月の大型連休明けに国土交通省にリコールを届け出る予定だが、リコール費用は13年3月期に引き当て済みで今期の損益への影響はない。

 三菱自動車は販売台数の9割弱を海外が占め、特にタイを中心とするASEANが好調だ。今回のトラブルを含めて国内で起きた一連のリコール問題が業績に与える影響は限定的とされ、今期は売上高で前期比25%増の2兆2700億円、最終利益で31・6%増の500億円を見込んでいる。

 ただ、三菱自動車は昨年12月に過去のリコールが不十分だったとして、ミニキャブなど軽自動車8車種約121万6千台のリコールを届け出たばかり。アウトランダーPHEVをめぐっては、今回のバッテリーの問題とは別に、モーター制御プログラムの不具合によるリコールも届け出ている。

 社内事情や販売スケジュールを優先して原因究明をおろそかにしている限り、最大の課題である「信頼回復」への道は険しいと言わざるを得ない。

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