政治・経済

東京・霞が関の経済産業省前に設置された「脱原発テント」の撤去問題がこじれている。損害金と明け渡しを求める経産省は脱原発を求める市民団体の代表らを提訴。被告側は徹底抗戦の構えだ。しかし大手新聞はなぜか報道に及び腰だ。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

「脱原発テント」撤去と損害金を市民団体に請求

 東京都千代田区霞が関1-3-1に位置する経産省本省。北側の歩道に面した角地に問題のテントが設置されたのは東京電力福島第一原発事故から半年後の2011年9月11日のことだ。

 広さ6畳ほどの大型テント内に机やいす、発電機などが持ち込まれ、垂れ幕やのぼりも取り付けられて市民活動家による原発再稼働に反対する活動が始まった。
 同年10月から11月にかけ新たにテント2張りが設置され、3基のテントはツイッターやフェイスブックを通して毎週金曜日の夕刻に首相官邸前を中心に行われている脱原発派のデモの拠点になっている。

 テント前の様子は毎週金曜日の午後4時からインターネットで生中継されているほか、昨年4月中旬から5月にかけてはすべての原発に稼働停止を求める集団ハンガーストライキも行われた。
 こうした事態に経産省は「再三退去を要求したものの、不法占拠が続いている」と主張。今年3月29日、東京地裁に対しテントが立っている土地は国有地だとして「正清太一、渕上太郎」の市民活動家2人を被告に1100万円の「損害金」とテント3基の撤去を求める土地明け渡し請求訴訟を起こした。
 両者の論点はかみ合っていない。被告側の主張はこうだ。
 「テントが1年半余りも立ち続けているのは〝国有地の不法占拠〟のような矮小化された問題ではなく脱原発を願う声が大きいからだ。テントは脱原発を推進する国民のもので脱原発へ向けた発信・交歓の場となっている。経産省の一角に立っていることに重要な意味がある」。
 さらに、「憲法第25条で『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』が保障されているにもかかわらず、東京電力福島第一原子力発電所の事故で16万人の避難者は生存権を失われている。テントは、こうした原発推進と棄民政策を進める国の横暴に対する抵抗だ」とする。

 そして、「憲法12条は『憲法が国民に保障する自由および権利は国民の不断の努力に寄って保持しなくてはならない』とある。日本は国民主権の国だ。テントのある場所は国有地であり、国民のものだ。国民が集い、行動せざるを得なくなった原因をつくったのは国で、国がまず反省すべきだ。テントの排除より原発廃絶が先だ。安全だと原発を推進してきた国の責任を問うべきだ」とも強調する。
 これに対し原告の経産省は「法的手続きにかかわる話なので詳細のコメントは差し控えたい」としている。

 だが、同省関係者は「うちは政治を批判するなとは言ってない。不法にテントを設置するなと言っているだけだ。許可なく設置したのだから撤去しろというのは至極当然なことだ。第一、政治批判する権利はテントを張って居座らなくても行使できる。本当に集まりたいのなら、どこかに事務所を借りて活動すればいい。不法な手段で発する主張は、たとえ内容が正しくても説得力がない」と指摘する。
 別の関係者も「経産省には民間企業の関係者や地方自治体の職員、そして一般の国民が来訪する。海外のビジネスマンや政府関係者もやってくる。日本の行政の中心である霞が関のど真ん中に異様なテントが張られていることは景観を乱すだけでなく、通行の妨げになり、訪れる人に心理的な圧迫感を与える。他者の権利を侵してまで脱原発を訴えること自体が間違いだ」と批判している。

大手紙が「脱原発テント」問題を静観する理由

 にもかかわらず大手の新聞はこの訴訟問題をほとんど報道していない。継続して報道しているのは東京新聞くらいのもので、完全黙殺を決め込んでいる社すらある。
 理由のひとつが各紙の社論だ。1紙しか自宅購読していない多くの新聞読者には判断がつきかねるだろうが、大手一般紙のうち、脱原発の社論を掲げるのが朝日、毎日、東京の各紙で、原発推進が読売、日経、産経だ。それぞれの主張や紙面展開は原発の是非で180度違う。
 新聞は表向き「不偏不党、公正中立」な報道姿勢を謳っているが、こと社論に関してはその範疇ではない。
 インターネット媒体の台頭で、新聞などの紙媒体市場は先細り傾向にある。不特定多数の読者をターゲットに何百万もの発効部数を誇っていた大新聞ほど顕著な部数減に頭を悩ませているのが現状だ。

 頼みの綱は自社の論調を支持し、継続購読してくれる〝同志〟ともいうべき読者だ。意図的ではないにしても、自社の主張にそぐわない記事は黙殺されるか、掲載されても扱いが小さくなってしまう。
 前述したように今回の訴訟で声を挙げているのは脱原発派で、原発を推進する国側は正式なコメントを出していない。原発推進派の新聞が報道に消極的になるのは自明だ。
 もうひとつ、日本の大手マスコミ特有の事情もある。それは今回の問題が「国有地からの撤去」を求めている点だ。
 経産省だけでなく、財務省、外務省、農水省など霞が関の中央官庁には必ず、新聞、テレビ、通信社が加盟する「記者クラブ」が入っている。記者クラブに加盟する大手マスコミは、不法占拠ではないものの、霞が関といういわば国の一等地で家賃を一銭も支払わずに活動しているという点では、脱原発テントと同じなのである。

 大手紙幹部は「この問題をあまりつつくと、やぶ蛇になりかねない」と首をすくめる。
 5月中旬、経産省前のテントは設置から600日を超えた。

 5月23日午前11時間から東京地裁526号法廷で土地明け渡し訴訟の第1回口頭弁論が行われたが、裁判はまだまだ続き、先が見通せないままだ。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る