政治・経済

個人投資家の裾野拡大を目的とした少額投資非課税制度(日本版ISA)が来年1月から始まる。昨年末からの相場活況で高まりつつある投資機運を後押ししそうだ。1人1口座しか開設できないため、金融機関同士の競争が激化している。 (本誌/鈴木健広)

ISAが株高に続く第2の〝神風〟に?

 「昨年末から株高という神風が吹いている状況。ISAの開始で、さらに追い風を受けたい」

 大和証券営業企画部の田口宏一副部長は期待を込める。証券会社の多くは市場環境の悪化などが要因で業績が低迷していたが、アベノミクス効果で収益力が回復している。ISAをきっかけに、業績を上昇基調に乗せたい考えだ。

 ISAは、家計の安定的な資産形成の支援と、経済成長に必要な成長資金の供給拡大を目的に、来年1月から導入、今年10月から全国の金融機関で口座開設手続きが開始される。個人が購入した年100万円以内の株式や投資信託の配当や譲渡益が5年間非課税対象になることで、投資の裾野拡大が見込まれている。

 口座を開設後4年間は別の金融機関に変更することができないため、各社は口座獲得に向けてスタートダッシュをかけている。ISA導入による新しいニーズの争奪はもちろん、ISA口座開設による既存顧客の奪い合いも予測され、競争激化は必至だ。

 大和では口座予約の受け付けが数万件規模に達した。田口副部長は「ネットからの申し込みが非常に多く、想定以上に顧客の関心が高い」と手応えを感じている。

 同社は全営業職員約4千人を対象に、ISAの制度概要に関する社内試験を実施。3月末までに全員が80点以上の合格を果たした。「当社の顧客は高齢の方がメーンだが、若年層にもしっかりご案内できるように説明能力を向上させた」(田口氏)。

 同社は通常の証券口座とひも付けされたISA口座を準備中。口座間で振替サービスを行い、投資の待機資金を金利付きの通常口座で運用することができる。また、6月には各支店にISA専用ブースの設置を予定しており、顧客囲い込みに余念がない。

 一方、業界最大手の野村証券は、顧客向けにISAに関するダイレクトメールを送付、専用ダイヤルを開設して50人体制で顧客からの問い合わせに対応している。そのほか、営業担当者による地道な訪問活動でPRを行っている段階だ。「当社の顧客に制度のメリットを一番初めにきっちりご案内したい」と話す芳谷剛伸営業企画課長。山本泰正商品企画部長は、「将来的にはISA口座の枠外での投資を希望される顧客に、総合的なサービスを提供したい」と意気込んでいる。

 証券各社が「顧客接点が広いため、投資未経験者の取り込みにおいては断然有利」(中堅証券広報担当者)と警戒しているのが銀行業界。特にメガバンクグループは、圧倒的な顧客基盤やグループシナジーを生かして、口座獲得に向けて攻勢をかけている。

 三菱UFJフィナンシャル・グループは、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、カブドットコム証券の4社でISAへの取り組みを行う。〝チームMUFG〟で、今年度中に50万口座を目指す構えだ。

 みずほフィナンシャルグループでは、みずほ銀行の168の営業店に設置するみずほ証券の「プラネットブース」を活用する考えだ。「株式で運用したいお客さまは、プラネットブースへご案内する」(同行運用商品開発室の安達星彦調査役)ことで、スムーズな連携を図る。

 「銀証一体運営で、ISAの最適提案を行う」とするのは三井住友フィナンシャルグループ。三井住友銀行の顧客に事前に同意を得て、SMBC日興証券の担当者が顧客への帯同訪問を行っている。当面の目標として、グループで50万口座の獲得を目指す。

証券は新需要創出、銀行は提案力強化を

 証券・銀行各社が顧客獲得に熱を入れる中、課題も少なくない。証券会社にとっては投資未経験者の掘り起こしをどれだけ行えるかが重要になる。銀行関係者からは「証券会社は既存顧客との取引深耕は得意としているが、投資の裾野拡大には十分寄与してきたとは言えないのではないか」という声が上がっている。

 各社とも、まずは既存顧客をしっかり囲い込んで基盤を固めつつ、新しい投資家層を開拓することが求められる。「投資をやったことのない人がいきなり証券会社で口座を開くとは考えづらい」(同)状況で、どうやって新規需要を確保するかどうかが問われるだろう。

 こういった意見に対して、証券各社は、長年培ってきたコンサルティング力を強みに顧客獲得を進めるとしている。証券会社のコンサルティングとは、「リスク説明はもちろん、経済動向や企業などをマクロとミクロ両面で説明できる能力」(証券会社元社長)を差す。「投資をするならやはり証券会社で」と、消費者に感じさせるような安心感を付与する試みが欠かせない。

 一方で銀行の課題となるのは、「金融商品の十分なリスク説明と提案スキルの向上」だ。現在でも、銀行の取り扱う商品はすべて元本保証されていると勘違いしている事例が少なくないようだ。グループ証券と連携しつつ、自行でも説明能力を今まで以上に磨く取り組みが不可欠だろう。証券会社が「本業にかかわる分野では、銀行さんに負けるわけにはいかない」(大和・田口氏)と闘志を燃やす中、今後の真価が問われる。

 民間企業としては収益強化、社会的責任を担う金融機関としては投資の裾野拡大を問われるISA。銀行・証券各社がそれぞれの課題を克服し、「良好な相場環境が続き、投資教育の充実化が実現」(モーニングスターの朝倉智也社長)すれば、リテール市場の飛躍的な拡大が見込めるだろう。

 政府が2020年までの投資総額目標を25兆円と掲げる中、「100兆円規模への市場拡大が期待できる」(朝倉社長)と指摘する声もある。業界地図を大きく塗り替える可能性を秘めており、各社の奮戦が続く。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る