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「オンライン学習時代の鍵はプラットフォームとコンテンツ品質」―ピーター A. オワンス(リアリーイングリッシュCEO)

ピーター A. オワンスCEO

新型コロナウイルスの影響で、仕事や勉強のオンライン化が急速に進んでいる。英語学習においても、現在主流の対面方式からリモート方式への転換がますます加速しそうだ。日本のインターネット黎明期からeラーニングによる英語学習サービスを展開し、この機会にさらなる成長を目指すリアリーイングリッシュのピーター A. オワンスCEOに話を聞いた。(取材・文=吉田浩)

ピーター A. オワンス リアリーイングリッシュCEOプロフィール

ピーター・オワンス

1959年イギリス・ヨークシャー生まれ。上智大学在学中に、日本の大企業を対象に、研修、開発、コミュニケーション、ビジネススキル研修を提供するフェニックス・アソシエイツを共同設立。その後、2009年にベネッセの子会社となり、2012年に同じくベネッセの子会社だったベルリッツ・ジャパンと合併し、同社の副社長に就任した。2014年、株式会社ベルリッツを退社し、日本の大手eラーニング企業であるネットラーニンググループに入社し、同社の100%子会社としてフェニックス・コンサルティングを設立。2020年1月、ReallyenglishのCEOに就任。

新CEOが惹かれた高いIT技術力

 今年1月にリアリーイングリッシュのCEOに就任したオワンス氏にとって、印象深い出来事がある。

 法人クライアントを相手に、英語をはじめとするビジネス関連スキルの研修や、コンサルティング業務を手掛ける企業のトップを務めていた2016年4月のこと。熊本で発生した大地震によって、保険会社に勤務する受講生たちがクラスに顔を出さなくなり、講座がストップした。彼らの大半が、被害状況の調査のために現地に向かってしまったからだ。

 「驚いたのは、彼らがそこでリアリーイングリッシュの講座を受けていたことです。熊本に滞在している期間、ノートPCでリモート学習を行っていました」と、同氏は振り返る。

 オワンス氏が経営していたのはeラーニングを展開する大手企業の100%子会社で、当時からリアリーイングリッシュの事業には関心を抱いていたという。テクノロジーに強い興味を持っていたこともあり、特に注目していたのはその高いIT技術力だ。創業者であるナイジェル・キリック氏と面談した際には、リアリーイングリッシュが導入している技術レベルの高さに非常に驚いたと語る。

 やがて、同社から熱心なヘッドハンティングを受けたオワンス氏だったが、当時手掛けていた事業が順調だったこともあり、しばらくは固辞していた。しかし、プラットフォーマーとしてビジネスを展開したいという強い思いから、最終的に移籍を決意することとなった。

 「リアリーイングリッシュが創業したのは約20年前のネット環境が整っていない時代ですが、それからずっと事業を継続している点にも興味を持ちました。そういう会社に自分が新たな価値を加え、成長につなげることにチャレンジしたいと思ったのです」

リアリーイングリッシュ

アニメーションや画像を駆使した学習しやすいコースが特徴

日本人と学習者1人ひとりに最適化した英語学習コース

 リアリーイングリッシュのサービスの柱は、クライアントの約8割を占める企業向けと、学校法人向けの2つ。TOEIC® L&R、英検、IELTSなどのスコアアップ、コミュニケーション力の向上、ビジネス英語をはじめとする実践的なスキルアップなど、目的に応じて設計された内容をオンラインで受講できるのが特徴だ。

 同社のプログラムが優れているのは、日本人に最適化し、学習者個人への高いエンゲージメントを実現している点だとオワンス氏は説明する。学習者の弱みを理解し、個人にあったやり方に内容をカスタマイズするため、途中で挫折することが少ない。

 例えば、人気の「総合英語コース 7」というコースでは、TOEIC® L&Rのスコアアップと実用的な英語力向上を同時に追求することが可能だ。350あるレッスンの中から、学習者のレベルや弱みに応じて最適なレッスンが抽出され、自分だけの「特注レッスン」を学習することができる。

 学習を継続してもらうための工夫として、企業クライアントの学習者に対してはコーチングサービスも行っている。eラーニングは孤独な作業になることが多く、最初のモチベーションがなかなか保てないという状態になりがちだ。そこで、海外在住のバイリンガルコーチが一人一人について、学習者からの質問を受けたり、現地の話題やニュースを発信したりといった形でサポートする。

 こうした取り組みにより、受講した生徒の約9割がコースを修了(一般的な通信教育では5~6割)。継続率においても他のオンライン英語学習サービスを大きく引き離している。

総合英語コース 7

人気の「総合英語コース 7」では、学習者のレベルや弱点に応じて最適なレッスンが抽出され、自分だけの「特注レッスン」を学習することができる。

グローバル化が遅れる日本

 主力の企業向けサービスでは、トヨタ、日立グループ、村田製作所、武田薬品工業、日本電産といった有名企業がクライアントとして名を連ね、導入実績は880社以上を誇る。

 数多くのクライアントと関わってきたオワンス氏が、日本企業共通の課題として指摘するのは、グローバリゼーションの遅れだ。現在、日本企業の多くがグローバル展開をしているものの、ビジョンや価値観、戦略、ガバナンスの手法といった重要な事項が、海外拠点にまで浸透していないケースが頻繁に見られるという。

 「原因は技術力や製品ではなく、コミュニケーション不足です。以前と比べれば日本人の英語力は確かに上がっていますが、ビジネス英語とプライベートな会話は違いますし、コミュニケーションスキルにも課題があります。私達が普通の英会話学校と違うのは、仕事の現場でも使える実践的な語学センスを磨けるという点です」

 新型コロナ騒動によって、オンライン会議を導入する企業が増えたため、会話は通訳任せにして後で議事録を見る、といったやり方が今後は通用しなくなる。オワンス氏によれば、コミュニケーション力を高める観点から、文化交流やマインドセットを鍛える要素を含んだプログラムも開発中だという。

 もう1つの柱である学校向けも既に220校以上への導入実績があり、継続的に成長を続けている。特に新型コロナ騒動が起きて以来、問い合わせが以前の30~40%程度増えているとのことだ。

 「日本は海外諸国に比べて、デジタルトランスフォーメーションが遅れています。例えば、韓国は新型コロナ騒動が起きてすぐに、学校の授業や会社の仕事がオンラインに切り替わりましたが、日本は非常に苦しんでいました。ただ、今回のパンデミックで、私達のビジネスモデルがいかに優れているかが証明されたと考えています。対面学習のほうがオンラインより良いとずっと思われてきましたが、いつでもどこでも学習可能なプログラムの提供は、さらに大きなビジネスに成長すると確信しています」と、オワンス氏は言う。

マーケット拡大を見据え新たな挑戦も

 新型コロナという予期せぬ要因が日本のデジタルトランスフォーメーションを早め、なかなか進まない企業の働き方改革も、これを機にペースアップする可能性が高い。労働や学習の生産性がよりフォーカスされるようになれば、オンラインプラットフォーマーのビジネスチャンスは拡大していくとみられる。

 そうした世の中の流れを見据え、リアリーイングリッシュでは語学にとどまらない新たなコース開発にも次々に取り組んでいる。今年秋を目標に、財務・会計・コンプライアンス・プライバシー・データ保護法などについて学べる複数のコースをリリースする予定だ。この中には、短時間で受講できるマイクロラーニングのコースも含まれるという。

 世界的なeラーニングサービス企業と日本における独占契約を結び、日本人学習者向けに特化した質の高いコンテンツを提供する計画も進行中だ。

 英語学習はまだ対面方式が主流で、eラーニングに取り組んでいるのはまだ学習者全体の2割程度に過ぎない。だが、それだけにマーケット開拓の余地は大きいとも言える。競争環境はますます厳しくなることが予想されるが、最後にモノを言うのは、やはりコンテンツの質だ。

 「日本のお客様に、より良いサービスを提供し続けるために、今後とも引き続き、国内、海外を問わず、魅力あるコンテンツ提供者が見つかれば、積極的に提携を進めていきたい」と、語るオワンス氏。時代の変化を見据え、さまざまな仕掛けを行っていく考えだ。

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