政治・経済

金融政策の手足を縛るシステム

 共通通貨ユーロの「狙い」とは、何だろうか。

 2012年6月26日、英国の大手紙「ザ・ガーディアンズ」のグレッグ・パラスト記者が「Robert Mundell, evil genius of the euro(ロバート・マンデル、ユーロの邪悪なる天才)」というタイトルで、共通通貨ユーロの「設計者」であるマンデル教授の「構想」をスクープした。ロバート・マンデル教授は、新古典派経済学の権威で、金融緩和論者が好む「マンデル・フレミング・モデル」の産みの親でもある。共通通貨ユーロの基盤となっている思想は、マンデル教授の最適通貨圏の理論、すなわち「同一通貨を使用する地域がどのような条件を満たせば最適な規模になるか」なのである。

 パラスト記者が直接マンデル教授から聞いた話によると、ユーロは最適通貨圏理論とは無関係に、そもそも「危機の時に真価を発揮する」システムとして設計されたとのことである。現在のユーロの経済的混乱は、別に「想定外」というわけでも何でもない。むしろ、現在の状況を引き起こすためにこそ、ユーロは設計されたと、マンデル教授は解説する。

 つまり為替レートに対する政府の干渉を排除することで、不況期に「ケインズ的な金融、財政政策」を採りたがる厄介な政治家を「妨害」することができる、という話なのだ。「政治家の手が届かないところに、金融政策を置く。金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持する唯一の解は、競争力を高めるために規制を緩和することのみである」と、マンデル教授は語っている。

 経済危機に陥っても、民主主義により選ばれた政治家がケインズ的(あるいはアベノミクス的)な政策を打てないとなると、マンデル教授の言葉どおり、政府は「規制緩和」を推進するしかない。規制緩和や公共サービスの民営化が推進されれば、もともとは無関係だったグローバル資本の「ビジネス」が生まれる。ユーロの加盟国が危機に陥り、手足を縛られた政府が規制緩和、民営化をすることで、「所得上位層1%」のグローバル投資家の所得が拡大するわけだ。

 そもそも、ある国が「金融政策」「財政政策」「規制緩和」等の経済政策を実施するか否かは、各国の主権の問題である。安倍政権のアベノミクスの「第一の矢」と「第二の矢」、金融政策と財政政策のパッケージは、正しいデフレ対策になる。わが国がデフレに陥っている以上、正しいデフレ対策を実施するか否かは、わが国の主権の問題だ。

 少なくとも日本国民は、12年12月の総選挙で「正しいデフレ対策」を訴えた安倍自民党を選択した。インフレ率期待が高まると、円安になる。わが国の為替レートが下がると、ドイツ、中国、韓国などが文句をつけてくるが、

「別に、わが国は為替介入を実施しているわけではない。デフレ脱却を目指し、正しいデフレ対策を実施しているにすぎない」

 と、突っぱねれば済む話だ。わが国が「正しいデフレ対策」を実施するか否かは、まさしく「日本の勝手」なのである。

規制緩和で得をする「1%所得者層」

 とはいえ、バブル崩壊でデフレに陥った国が「正しいデフレ対策」を実行に移すと、困った立場に追い込まれる人々が出てくる。すなわち、政府の規制緩和や公共サービスの民営化により、「レント・シーキング」を狙っていた「1%所得者層」あるいはグローバル投資家、グローバル企業である。

 日本が「正しいデフレ対策」でデフレから脱却すると、名目GDPが成長を始める。名目GDPが成長すると、税収増により財政が健全化してしまう。財政が健全化すると、「1%層」及び彼らの「ポチ」である政治家、経済学者、評論家たちは、「政府はムダを削減しろ! 公共サービスの民営化だ! 各種の規制を緩和しろ!」と主張できなくなってしまうのだ。

 というわけで、規制緩和や民営化で「1%層」のビジネス拡大を狙っている人たちにとって、政府に「金融政策」と「財政政策」のパッケージ、すなわちケインズ的、アベノミクス的政策を採られるのが最も困る。ならば、政府から金融政策、財政政策の主権を奪ってしまえばいい。というわけで、設計図が描かれたのが「共通通貨ユーロ」なのである。

 図のとおり、現在のギリシャは完全にデフレ化している。とはいえ、ギリシャ政府は独自の金融政策を採ることができない。すべてのユーロ加盟国は、金融政策の権限をECB(欧州中央銀行)に委譲している。さらに、ギリシャ政府は財政的な主権も奪われつつある。EUやIMFから緊急融資を受けた代償として、公務員削減などの緊縮財政を強要されているのだ。

 金融、財政という二大主権を喪失している以上、ギリシャ政府の雇用対策は限定されざるを得ない。すなわち、規制緩和だ。さらに、ギリシャ政府は莫大な対外負債を返済するために、国内の公共サービスを民営化し、国有財産を切り売りしている。ギリシャの公共サービスや国有資産を買ったのが「誰」なのか、今さら言うまでもない。

 信じられないかもしれないが、これがユーロの現実だ。そして、日本国内においても、やたら「規制緩和」「公共サービスの民営化」を叫ぶ人たちがいる。彼らの後ろに「誰」がいるのか、一度、ぜひとも考えてみてほしい。

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