文化・ライフ

坪田一男(つぼた・かずお)慶応義塾大学医学部教授。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術における世界的権威。再生角膜移植のほか、近視・乱視・遠視・老眼などの最先端の治療に取り組む。近年は研究領域を抗加齢医学=アンチエイジング医学に広げ精力的に活動。日本抗加齢医学会理事、日本再生医療学会理事など。著書に『老けるな!』(幻冬舎)、『長寿遺伝子を鍛える』(新潮社)、『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』(文春新書)ほか多数。

 

睡眠中にナイトレンズで角膜の形を矯正

 強度近視の人が「牛乳瓶のような」分厚いレンズのメガネをつけるしかなかったのは、もう昔話だ。今や、強度近視対応のメガネレンズも薄型・軽量が当たり前だし、コンタクトレンズも酸素透過率などの向上で、裸眼に近い感覚の装用感で使えるようになってきた。さらに、眼内レンズやレーシックなど、裸眼で生活するための医療技術も日進月歩で進んでいる。

 視力の矯正や治療法は皆さん自身が選ぶ時代。選択肢もさまざまなニーズに対応してますます増え続けている。

 そんな中、またひとつ、新たな選択肢が加わった。「手術をせずに近視を治し、裸眼で暮らせるようになりたい」という願いをかなえるオルソケラトロジーという治療法だ。

 オルソケラトロジー治療は、夜間睡眠中にナイトレンズと呼ばれる角膜矯正用のバードコンタクトレンズを装用することで角膜の形を平坦化して近視を矯正する治療法で、翌朝レンズを外した後も一定時間角膜の形がそのまま保持されるため、昼間コンタクトレンズやメガネを装用せず裸眼で生活できるようになる。

 実は、ナイトレンズの歴史は意外と古く、原理そのものは1960年代に誕生し、90年までに専用レンズも開発され、世界各国の臨床の現場で既に活用されている。

 当初はレンズの安定性や耐久性の問題や、効果の持続時間が短く軽度の近視治療しかできないといった課題があったが、技術の進歩でこれらの問題が改善され、中等度の近視矯正が可能なレンズが開発されて、2002年には米国食品医薬品局(FDA)が認可。日本でも09年以降、ナイトレンズによる治療がスタートしたのだが、いかんせん、欧米人の角膜の形状に合わせて開発された輸入レンズしかなかった。日本人の角膜は欧米人の角膜に比べて中央部の突出が少ないため、日本人の角膜へのフィッティングが難しいという問題点が残されていたのだ。

 そこで、日本人の角膜に適した高品質で安全なナイトレンズの登場が待たれていたのだが、12年3月に初の日本人向けナイトレンズ「ブレスオーコレクト(東レ)」が医療機器認証され、このたびようやく眼科医療への導入が本格的にスタートしたのだ。

ナイトレンズで近視の進行も抑制できる!?

 ナイトレンズは、治療開始直後は矯正効果が弱く持続時間も短いのだが、毎晩装用し続けることで1~2カ月後には良好な裸眼視力を得られるようになる。また、視力の持続時間も次第に延びていき、個人差はあるものの、2~3カ月後には週に数日ナイトレンズを使用するだけで終日良好な視力を維持できるようになるケースもある。

 レーシックなどの視力矯正手術に抵抗感のある方だけでなく、ドライアイ等で日中コンタクトレンズが調子よく使えない人、メガネやコンタクトの使用が難しいスポーツをする人には、おすすめの選択肢と言えるだろう。

 ナイトレンズは基本的には軽度~中等度までの近視しか治療できないため、強度の近視や乱視の人は治療の適応外となる。

 また、継続的にナイトレンズを装用して角膜を矯正する必要があるため、睡眠時間を十分にとれない人や、忙しくて定期的に検診できない人には向かない。重度のドライアイやアレルギー疾患、自己免疫疾患などの持病を持っている人には不向きな場合もある。気になる方は、まずナイトレンズによる矯正治療を行っている専門クリニックで検査してもらおう。

 日本の近視人口は世界的にみても非常に多く、ますます高度な視覚情報社会へと向かう中、強度近視人口の増加も危惧されている。

 あまり知られていないが、強度近視は緑内障、糖尿病、網膜色素変性症、加齢黄斑変性に続く、日本の失明原因の第5位だ。そのため、子どもの頃からの近視予防と強度近視への進行抑制は、失明予防の重要なテーマのひとつと言えるだろう。その点、ナイトレンズには近視の進行を抑制できる可能性があることも分かってきた。

 欧米では既にナイトレンズによる子どもたちの近視矯正も行われており、近視の進行抑制効果を示す臨床研究結果も報告されている。日本では僕が手術顧問を務めている「南青山アイクリニック東京」で、既に中学生に対するナイトレンズ治療を開始しているので、気になる方はぜひお問い合わせを。

◆南青山アイクリニック東京

http://www.minamiaoyama.or.jp/index.html

★今月のテイクホームメッセージ★

 近視治療の選択肢がまたひとつ増えた! それぞれの状況に合った選択を。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る