文化・ライフ

 先日、同門(木谷實九段門下生)の小林光一九段と久しぶりに碁盤を離れ、食事をする機会がありました。小林九段と言えば、タイトル獲得数60余り。現役棋士の中で最も多く名誉称号を持っている棋士。(現在は、棋聖、名人、碁聖)名誉称号とは、そのタイトル戦を連続5期保持するか、あるいは通算10回取るかという至難の業、輝かしい戦歴の持ち主です。

 小林九段と私は同世代、私が中学3年生の時、名古屋から上京した頃、彼も北海道の旭川市から上京と、まさに同期です。

 お酒も入り、ふと昔話に花が咲きました。私にとって彼の印象は、いつも碁盤の前に座っている真面目な人。ある冬の朝、お手伝いをするために、5時半過ぎに起きてきた時、既に勉強していた小林九段のシルエットが目に焼き付いています。

 小林九段は当時のことを振り返り、

「僕の家は恵まれていたから周りの大人も気を使ってくれてね。食事の好き嫌いも多くある意味わがままな少年で……。ところが道場に来てびっくり。好き嫌いなど言っていられないし、甘えられない。それより年下ではるかに強い少年(趙治勲九段)がいる。兄弟子も強い。プロになれなかったら旭川には帰れないし、強くならないとどうしようもない。もう必死だったし、謙虚さも知った。僕は碁を覚えていなかったらきっと傲慢な大人になっていたと思うよ。

 子どもにとって環境って大切だね。1つの目標に向かって進める空気が流れていた道場のお陰だよ」と少年のような笑顔で話してくれた小林九段。

 本当にそう。今そのような場所がたくさんあれば目標のために自分自身を律し、生きていくための楽しみがもっと見つけられる。と、ふたりで教育論にも話題が発展した楽しい有意義なひと時でした。

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