マネジメント

筆者プロフィール

松嶋洋(まつしま・よう) 元国税調査官・税理士。2002年東京大学卒業後、金融機関勤務を経て東京国税局に入局。07年退官後は税理士として活動する傍ら、国税調査官の経験を生かし、税務調査対策のコンサルタントや執筆活動も行う。

 

上司のパワハラを恐れるのは税務調査官も同じ

 前回、税務調査においては法令よりも人柄の問題が大きい、と解説しましたが、この点で踏まえておくべきことが、税務調査官が脅威を覚えるものについてです。税務調査官が恐れているもの、それは上司からのパワハラと審理担当のチェックの2つです。

 税務署においては、非常に多くのパワハラが見て見ぬ振りをされています。私の現職時代の経験を申し上げますと、精神的に病んだ同期職員は数知れず、ひどいときには出勤することすらできなくなる、というケースも散見しました。

 このようなパワハラが行われるのは、税務署の職員が基本的に職員気質だからです。税務調査にはマニュアルがあるとは言っても、やはり税務調査官がケースバイケースで判断しなければならない部分も大きく、結果として経験則が重要になってきます。こうなると、税務調査は職人芸のようになるわけで、職人となれば上下関係が厳格になることも致し方ないでしょう。厳格な職人の世界を考えていただければお分かりになるとおり、パワハラと職人の技術指導の境目は非常にあいまいですから、周囲のブロックも働きにくいのが現状であり、往々にしてパワハラが見過ごされています。

 その他、税務署の人事は1年に1回必ずありますので、どんな状況でも1年間我慢すれば解放される、という側面があります。パワハラを組織的に防止するとなれば事実関係を把握するなど非常に手間がかかりますから、ことを荒立てず1年間辛抱することが奨励されており、幹部職員もパワハラを看過する傾向があります。

 税務調査官もサラリーマンですから、上司を自分で選ぶことはできません。このため、異動の時期の税務調査官の関心事は次の上司がどんな人間か、ということです。仮に異動後の上司がパワハラを行うような人間であれば、非常に憂鬱になるものです。

 このように、税務署ではパワハラがかなり平然と行われるわけですが、パワハラを受けたことがある身から申し上げますと、このようなパワハラを行う上司に仕える税務調査官は、むしろ納税者の味方になりやすい、という側面があります。

 と言いますのも、このようなパワハラを行う上司は、税務調査で一生懸命実績を挙げても、些細なミスを取り上げて怒鳴ったり、ひどいときには事績を泥棒したりすることもあるからです。このため、このような上司のためにあえて一生懸命税務調査を行うよりも、できるだけ簡単に税務調査を終えたいと考えるのが人情でしょう。このため、税務調査の最中に、「上司はどのような方ですか?」と話題を向けると、上司への不満が大きい税務調査官であれば、いろいろとしゃべりだすと思います。

 仮に、このような税務調査官に遭遇すれば、上司への復命がやりやすいようにあえて協力をしてあげたり、復命の手間を掛けないよう、直接皆さま方がその上司と交渉します、と申し出たりすれば、有利な譲歩を得ることも不可能ではありません。

パワハラ以外に税務調査官が恐れるものとは?

 次に、審理担当のチェックですが、税務署において法令の適用に誤りがないかをチェックする担当者を審理といい、彼らは税務調査の結果についても厳しくチェックします。税務調査官には法令の知識がないので、審理担当の審査を受ける段階で、法令の適用誤りを指導されることも散見されます。

 こういうわけで、税務調査官は拙い法律知識に対し、審理担当者のプレッシャーを受けているわけです。この点を踏まえて、根拠が法律的に甘い税務調査官の指摘に対しては、「これで審理担当のチェックを通るの?」と開き直ってみてください。かなりドギマギすると思います。

 このように、目の前では強権的に見える税務調査官も、さまざまなプレッシャーを受けているからこそ、税務調査官も税務調査が怖いわけです。

 

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る