政治・経済

コンビナート人材育成講座 講師は経験豊かな企業OB

 わが国最大の重化学工業地帯である京葉臨海コンビナートが揺らいでいる。住友化学、新日鉄住金などコンビナート立地企業がエチレン、高炉など基幹設備の撤退、縮小を相次いで決めたほか、事業の再編・統合に動く企業が現れてきたためだ。危機感を燃やす千葉県、地元市は経済界と連携して新たな産業振興策を練り直すとともに、人材育成や経営支援、規制緩和など企業の枠を超えた競争力強化策を急ぎだした。
 市原市から袖ケ浦市までの臨海部に石油精製や石油化学の巨大設備がひしめく京葉臨海コンビナート。ここで、企業の壁を乗り越えた人材育成・研修事業が行われている。名付けて「コンビナート人材育成講座」。実施主体は千葉県産業振興センターで、講師の派遣やカリキュラム作成など運営面で産学官が協議会をつくり後押ししている。
 市原市の五井会館で開かれた講座「製造現場の安全と責任」を拝見すると、立地企業から派遣された20人の受講生が机を並べて研修を受けていた。研修はテーマごとに90分のコマで仕切られ、1日に4コマずつ朝から夕方まで3日間続く。
 初日の主なテーマは企業の社会的責任、事故・災害の事例とヒューマンエラーの防止策など、2日目は3・11大震災、事故・災害事例の究明と対策、危機対処法などといった具合だ。
 製造現場を知る実務経験豊かな企業OBが講師を務めるだけに、実例を盛り込んだ授業は極めて実践的。講師と受講生が質疑を重ねたり、グループ討議で内容を深めたりと、専門スキルの習得に懸命だ。受講生参加型の研修がここの特色である。
 講座はこの他にも、プラントでの危険の疑似体験をする「安全体験学習」、課題解決への応用力を身に付ける「チームリーダーの育成」など4コースがあり、いずれも2~3日間連続のカリキュラムで構成している。
 富士石油OBで、コーディネーターを務める柳原政義氏は、「製造部門の中核をなす人材の早期育成が講座の狙い」と話すが、この事業に寄せる企業側の期待は高く、2013年度には256人の受講生が殺到した。

教材開発に7社が結集 受講者数は5年間で約千人

 講座で使うカリキュラムと教材を共同で開発したのが出光興産、富士石油、丸善石油化学、住友化学など立地企業7社。06年度から2年かかったが、経産省も資金面で協力し、1億円の補助金を出している。この教材を基に08年度から始まったのが人材研修事業の発端だ。
 受講者数は初年度から尻上がりに増えている。同センター経営支援部によると、12年度までの5年間で参加企業数は延べ128社、受講者数は実に931人にのぼる。「講座改善への意見を企業から聴取したり、受講生の受講状況を企業に報告したりと企業側との双方向の意見交換が研修事業への期待に結び付いている」と白井幸雄部長は話す。
 京葉コンビナートではここ10年ほど、各社が競って設備の自動化や人員削減を進めてきた。要員は1970年代に比べ半減したのに、生産効率は向上しているといわれる。いわば、高効率・低コスト生産への対応が経営側の要請だが、一方で世代交代が進み団塊世代が退職した今、現場を知り尽くす人材が減り力も弱まっているのが実情だ。
 現に事故寸前のヒヤリハット例が最近、急増しており、設備の老朽化や人為ミスが原因の事故が11年度は過去最多となった。三井化学のある幹部は「自動化設備の運転しか知らない要員が増えた。異常事態が起こると混乱する」と背景を話す。
 折しも大規模災害への危機管理が現実の課題となってきた。人材教育はすぐ成果が出るわけではない。成果が出るのに5年から10年かかるのが普通だが、実践教育を展開することで千葉ではグローバルに通用する人材の早期育成を目指している。

コンビナート初の事業撤退 競争力強化へ検討会

 6千㌶の用地が広がる京葉コンビナートには4つのコンビナート、2つの製鉄所、5つの火力発電所が立地し、250近い企業が集積している。エチレン生産で全国首位、原油処理と粗鋼生産ではそれぞれ同2位と、素材・エネルギー分野でわが国最大の工業地帯となっている。
 県経済に及ぼす影響は大きく、県の製造品出荷額で60%以上、従業員数で27%のシェアを占める。市原市では税収の40%を、君津市では同25%を立地企業が賄っているほどだ。
 そのコンビナートで主力企業の事業撤退の動きが表面化した。住友化学は15年9月までに千葉工場のエチレン設備を停止し、新日鉄住金も15年末に3基ある君津製鉄所の高炉1基を休止することを決めたのだ。三井化学も14年度末までに京葉エチレンから撤退する方針だ。
 相次ぐ生産縮小は半世紀に及ぶコンビナートの歴史で初の事態。雇用や税収に直ちに影響が出るわけではないが、屋台骨が揺らいできたのは事実。国内需要の低迷や海外企業との競争激化など厳しい環境を考えると、今後も事業再編や拠点統合の動きが加速すると地元は見ており、立地企業の流出防止策を求める声がとみに高まってきた。
 待ち受ける課題に取り組もうと千葉県は、関係自治体や立地企業と協力して競争力強化に向けた検討会を立ち上げた。人材育成策はもちろんだが、老朽設備の更新支援策、各種法規制の緩和策、工業用水の価格是正、企業誘致優先政策の見直しと既存企業への優遇措置、地震と液状化・安全策などが検討される見通しだ。
 結論は13年度中に策定する新しい産業振興策に盛り込み、具体的な行動に移る。まさに待ったなしの局面を迎える。

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