政治・経済

岩盤規制は崩せず「国家戦略特区」は不十分な内容に

 

 民間企業が持てる力を可能な限り発揮でき、かつ海外からの投資も呼び込める魅力ある地域を作る。世界で一番ビジネスのしやすい環境を作るための「国家戦略特区」構想は、アベノミクスにおける成長戦略の大きな柱でもある。

 具体的に何をするのか。端的に言えば、さまざまな分野における規制緩和が中心である。

 小泉純一郎政権時代や民主党政権時代にも特区構想はあったが、規制緩和に対する関連省庁の抵抗などもあり十分に機能したとは言い難い。

 従来の特区は地方からの要望・提案を国が拾い上げて対応する形だったが、今回は国が主導権を握って、最終的に特区の選定や内容を決めるという点が大きく違っている。

 2013年10月に国家戦略特区ワーキンググループが指定した規制改革の検討領域は、医療、雇用、教育、都市再生・まちづくり、農業、歴史的建造物の活用の6つだ。

 例えば医療では国内外の優れた医師を集めて最高水準の医療を提供する「国際医療拠点」の設立や、病床規制に特例を設けて、病床の新設・増床、混合診療の解禁などが提案された。

 雇用については有期雇用の特例設置、教育については公立学校運営の民間開放、都市再生については、都心への居住促進のために土地利用規制を見直すといった施策が提案されている。

 国家戦略特区法案は13年12月に可決され、今後は5人の民間議員で構成される国家戦略特区諮問会議で該当地域やプロジェクトを決定。その後に関しては、統合推進本部がプロジェクトの詳細を詰めて実施するという流れとなっている。

 アベノミクス第一の矢である金融政策と第二の矢である財政政策が市場から高評価を受けたのに比べ、肝心の成長戦略である第三の矢はいまだに具体像がはっきりと見えず、手詰まり感が漂っている。

 特区構想はこの状況を打破する切り札となるはずだが、早くも不安要素が浮上している。

 まず、産業界が強く要望していた「解雇ルールの明確化」、つまり企業側が従業員を解雇しやすくする措置については、厚生労働省が強く反発し、導入は見送られた。

 結局、法改正まで十分に踏み込んでいないという点で産業界からは不満の残る形となった。

 また、政府の産業競争力会議は年収1千万円超の労働者に対して、労働時間の規制を緩和し、残業代を支払わない、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションの試験導入を求めているが、実際に導入されるかは今のところ未定である。

 特区内における法人税免除も検討の対象となったが、こちらも財務省の強い抵抗に遭ったため、当面の導入は見送られ、その代わりに設備投資減税や研究開発投資に対する減税が盛り込まれる形となった。

 この他、医療分野における混合診療に関しても、ごく一部に限られる見通し。総じて言えば、「岩盤規制」と呼ばれる部分に関しては、踏み込み不足との印象がぬぐえない。

 

規制緩和とデフレ脱却は両立するのか

 

国家戦略特区諮問会議のメンバーとして名前が挙がる竹中平蔵氏

国家戦略特区諮問会議のメンバーとして名前が挙がる竹中平蔵氏

 特区創設そのものに対して、そのデメリットを指摘する声も挙がっている。

 まずは、国が主導するプロジェクトであるため、都市部への集中投資が進む一方で、地方との格差がますます広がっていくという指摘だ。

 特区に選定された地区とそれ以外の地区で、格差が広がっていく可能性がある。実際に特区の候補として真っ先に名前が挙がっているのは、東京や大阪といった大都市だ。

 雇用規制のさらなる緩和や残業代ゼロに関しては、将来的に特区以外でも適用されることに対する警戒感から、根強い反対が残ると予想される。法人税免除に関しても、恩恵を受けるのは一部の大企業だけという指摘があり、仮に実行されても波及効果は小さいとの見方もある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が進行中という状況もあるため、将来的にはさまざまな規制緩和措置が、特区を皮切りに広がっていく可能性は否定できない。逆に企業への優遇措置が特区内だけにとどまれば、一部の大企業や外資系企業だけが恩恵を受けるという事態も想定される。

 規制緩和や自由競争の容認は、デフレ脱却を至上命題とする安倍政権の方針とは基本的に真逆を行くもの。むしろ、第一次安倍内閣が進めようとしていた小泉構造改革路線の踏襲に近いと言える。

 しかし、小泉路線ではデフレ脱却どころかむしろ長引かせる結果に終わってしまったのは周知のとおり。この記事が出るころには決定しているとみられるが、前述の国家戦略特区諮問会議のメンバーとして竹中平蔵氏の名前が挙がるなど、バリバリの改革派のみで会議が構成されることもあり得る。

 それで果たして、持続的な成長につながる特区を構築できるか、今後も議論を呼びそうだ。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る