政治・経済

日本の農業の問題点―海外展開の経験不足による低い競争力

 安倍晋三内閣の成長戦略において、「農林水産業の成長産業化」が掲げられている。

 人口減少社会の日本においては、農産物の国内市場を広げようとしても限界がある。

 しかし、グローバルでは世界的な人口増加、新興国の所得水準の上昇などから、農産物市場は非常に有力な成長市場となる。世界の食の市場規模は現在の340兆円から2020年には680兆円に倍増すると予想されている。特に中国・インドを含むアジアの成長が大きい。

 政府は、10年に発表した「食料・農業・農村基本計画」において、20年までに農林水産物・食品の年間輸出額を1兆円水準まで引き上げる目標を掲げた。

 しかしながら現状では、東日本大震災に伴う原発事故の影響や円高によって、農林水産物・食品の輸出額は停滞傾向にあり、12年で約4500億円にとどまっている。そのうち農産物は約2700億円となっている。

 一方で、日本食の人気はアジアでも欧米でも根強い。昨年末には和食が世界無形文化遺産に登録された。こうした人気に支えられ、中長期的には輸出を伸ばすことができる状況にある。そのブランド価値を生かす戦略次第で、日本の農業は輸出産業として成長産業となり得る。

 農業のグローバル化では、TPP参加に伴う農業への悪影響が懸念される。

 政府試算によると、農林水産品の関税撤廃によって安価な外国産が流入することで、約3兆円の生産額減少が見込まれている。

 20年までに1兆円という目標額の達成だけでは、国内生産の減少を埋め合わせることはできない。このため、政府では農業の競争力の底上げを図り、農産物輸出をさらに拡大する方針を打ち出している。

 また、逆にTPP参加に伴い、関税撤廃のメリットが期待できるTPP参加国市場の需要をどれだけ取り込めるかがポイントとなる。海外からの輸入品から守るという発想ではなく、競争力を高めて世界に打って出る姿勢が重要となる。

 農産物の輸出について言うと、世界第1位の農業輸出大国は米国だが、第2位はオランダである。

 オランダは九州と同程度の土地面積であるのにもかかわらず、12年の農産物輸出額は約9兆円で、日本の約33倍となっている。オランダの農業が高い競争力を有する背景には、少数の農家が大規模化し、IT技術を取り入れて企業家となったからである。

 オランダと比べると、日本は、減反政策や補助金による農地の塩漬けで零細農家を温存させるなど、これまでの政策の失敗が農業の競争力を下げている。

 また、自力で海外展開できない企業・農家が大多数であり、今の農協にも海外展開のノウハウは少ない。

 企業への情報提供、輸出先国ごとに規制緩和や関税撤廃の交渉、輸出先国における販売チャネルの拡大、検疫の問題、現地マーケティングの強化など、政府が支援すべき問題は多い。

 逆に言うと、これらの問題を解決するような政策転換で、日本の農業は競争力を高めることができる。TPPを契機に日本の農業が構造転換を果たし、成長産業へと舵を切る可能性はある。

 

日本の農業の競争力向上に不可欠な企業化

 

 日本の農業が競争力を高め、世界で勝てる農業となるためには、選択と集中が必要となる。

 土地集約型農業の米や小麦といった農産物に関しては、農地の集約・大規模化を図り、少数の農家が効率的な経営を行うように規制や補助金で誘導する。一方で、知識集約型農業の野菜や花、果物などは、民間での成功事例を集積させ、ITなど技術革新の導入を促す政策を進めるべきだろう。

 組織面では、成長戦略で掲げられているのが、農業の企業化だ。企業化により、農地の集約・大規模化を進め、飛躍的な生産性向上を図ると同時に、企業経営ノウハウを農業に活用する。

 今後は農業をいかにビジネスとして成り立たせるかという視点がますます重要になってくる。既に経営能力に長けた農業法人も出てきて、高い収益を挙げている。また、農商工を連携させる農業の6次産業化も企業化により規模を拡大できる。

 さらに企業化の効果として、新規就農の拡大が期待されている。13年の日本の農業就業人口は約240万人で、このうち65歳以上が約148万人で61・8%を占めている。1990年の農業就業人口は約482万人で、高齢化率は33・1%だったことを考えると、この四半世紀で農業就業人口は半減、高齢化率が2倍になったことになる。

 こうした就業構造になった理由としては、農業が儲かる産業ではなかったことと、農家出身でない人の新規就農のハードルが高いことが考えられる。

 農家出身でない人が農業に従事しようとする場合、農地の確保に加え、機械・施設の取得など初期投資が負担となる。また、昔は「水やり十年」と言われ、一人前の農家になるために技術的なハードルが高く、農業技術の取得に時間を要する。

 さらに独立自営で農業を始めようとする場合、農業を営む農村との関係構築も必要となる。これらをクリアした上で収入を上げるとなると、新規就農は非常に難しいのが実状だ。

 このような現状に対して、農業の企業化が進めば、一般的な企業が新入社員を一人前に育てていくように、新規就農者を一人前の農家に育てていくシステムを確立できる。組織として対応することで、ノウハウの伝承・継承、IT設備などの導入も容易となる。

 さらに一般企業の会社員と同様に「土日」、「給料」のある農業を実現することも企業化によって実現できる可能性がある。

 今後の日本の農業を考えると、ここまでの大胆な構造改革が必要となるが、これには農業の企業化が鍵を握っている。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る