テクノロジー

事業者の勢いを削いだネット販売再規制

 わが国の医療界における2013年最大のテーマは「いかに医療を成長産業に育てるか」だった。

 高齢化社会を迎える日本では年々医療費が高騰、医療機器に関しても輸入超過が続くなど、これまで「金食い虫」として見られてきた医療だが、アベノミクス第三の矢では成長産業として変貌させる意図がハッキリと打ち出された。医療を社会福祉の視点からだけでなく、ビジネスとしてとらえようとする本格的な動きへの転換である。

「待ち」の姿勢から「攻め」へ。象徴的な動きの1つが、13年4月に組織改編したメディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)の役割変更だ。従来MEJは、海外から日本の医療機関への患者受け入れなどを担ってきたが、日本の医療機関や医療機器メーカーが一体となって海外へ打って出られるよう、体制を整えた。日本が持つ高度な医療技術、サービス、製品を武器に、海外市場でのシェア拡大を目指す。

 一部の病院や医療機器メーカーは既に積極的な海外進出に取り組んでいるが、「オールジャパン」としてチームを組むことで、より効率的かつ大規模に展開できるようにする。医療機器メーカーをはじめ、これらに部品などを提供する下請け企業からも歓迎の声が上がる。

 既にいくつかの日本の医療機関は、ロシア、中国、東南アジア等に進出実績があるものの、14年以降はMEJのプロジェクトとして、具体的な海外進出事例をどれだけ増やせるかが鍵になる。一方、機器メーカーに比べて、医療機関はまだまだ様子見のところが多いのも事実だ。法律の違いやスタッフ育成のむずかしさなどを考慮して、海外進出に消極的な医療関係者のマインドをいかに変えていくかが重要になる。

 もう1つ、越えなければならない壁が、硬直した制度の変更だ。医薬品のネット販売解禁をめぐる厚生労働省と事業者側の戦いは、現在第2幕を迎えている。

 13年1月には、ネット販売に対する現行の厚労省の省令による規制を違法とする最高裁判決が出たものの、今度は議員立法で再規制する動きが開始。12月に成立した改正薬事法案では、医療用から一般用への転用に際して、市販直後品については安全性評価が終わるまでネット販売を禁止、処方薬についても対面販売を義務付ける内容となったため、事業者側は激しく反発した。

 三木谷浩史楽天会長は代表理事を務める新経済連盟のホームページ上で、

「今回の改正薬事法は、合理的な理由のないまま、スイッチ直後品目等(要指導医薬品)と処方箋医薬品の対面販売規制を内容とする点において、大変遺憾」

 と、コメントした。子会社のケンコーコムも、処方箋薬をネット上で販売できる権利の確認を求めて国を提訴した。ネット販売の規制をめぐる綱引きは、今後も長引きそうな気配だ。

 

医療機器メーカーと再生医療には追い風

 一方で、医療機器や再生医療などの分野については、法改正によって事業環境がこれまでと比べかなり改善されるとの期待が高まっている。

 従来の薬事法では、医療機器もカテゴリーに含まれていたため、それゆえに起こる不便、非効率が避けられなかった。例えば、薬の場合は一度成分が決まるとその後の変更はほとんどないが、機器については使い勝手を良くしたり性能を向上させたりするためのリニューアルが頻繁に行われるのが通常。これまでは、その都度承認を取りなおさなければならないという不合理な状態にあった。

 薬事法改正によって新たに「医薬品・医療機器等法」が成立したことで、これまで医薬品と同列に扱われていた医療機器が独立した項目として扱われることになった。具体的には、高度管理医療機器に対する第三者認証制度の導入、製造業の許可制から登録制への転換、品質管理の監査を個別製品から製品群へ変更することなどが定められることとなった。ポイントは、製品の実用化を迅速に進めるための制度の簡素化と新規参入のハードルを下げる点にある。

 再生医療については、改正薬事法に盛り込まれた早期承認制度によって、これまで製品実用化への大きな壁となっていた承認プロセスの短縮化が図られる見込みだ。

 新たに設けられた制度では、製品の有効性と安全性の確認のために10年近くかかっていた治験のプロセスを、有効性については推定できた段階で条件付きながら市販が可能になる。その後も市販データから有効性と安全性を検証しながら販売を続けていくことになるが、いち早く患者の元に製品が届くという点で、これまでとは大きく状況が変わりそうだ。

 こうしたさまざまな変化が医療分野で起きているが、最終的には日本の医療制度の根幹をなす国民皆保険制度をどうするのか、というところに議論は行きつく。環太平洋経済連携協定(TPP)との絡みで、自由診療や混合診療が拡大するのかどうかという点も含めて、避けては通れないテーマだ。

 医療を成長産業に育てるためには、高度医療や最先端医療分野における競争力強化が必要というのは当然。特に再生医療などの最先端分野では、現状では保険適用が難しいため、混合診療が解禁されれば市場が大きく広がる可能性もある。ただ、国の医療費削減を目的に、将来的に混合診療の保険適用部分が減らされたり、安全性に疑問のある治療が安易に導入されたりすることを懸念する声もある。

 規制を緩める部分と現状維持を図る部分のバランスをどうするかで、医療が産業としてどれほど伸びていくかが決まっていくだろう。それは、日本人が最終的に医療に何を望むのかという根源的な問いに対する答えを探すことでもある。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る