政治・経済

中間地点に差し掛かかりいまだ着地点は見えず

 今年の流行語大賞候補にもなった安倍晋三内閣による経済政策「アベノミクス」。長年日本を苦しめてきたデフレからの脱却と景気回復への期待感が高まっているが、そろそろその着地点にも想像力を働かせる時期にきているのかもしれない。

 最大の焦点は成長戦略の具現化

安倍晋三首相(Photo:時事)

安倍晋三首相(Photo:時事)

 アベノミクスがスタートして1年がたとうとしている。

 もともとこの言葉自体は、2006〜07年の第一次安倍晋三内閣の時に生まれたものだが、当時は公共事業の縮小を掲げるなど、現在の政策とは異なる様相を呈していた。第二次安倍内閣によるアベノミクスは、既にほとんどの読者諸兄がご存じのとおり、大胆な金融政策(第一の矢)、機動的な財政政策(第二の矢)、民間投資を喚起する成長戦略(第三の矢)を柱とする。

 このうち第一の矢である金融緩和と第二の矢である財政出動は、期待どおりの成果を今のところもたらしていると言ってよいだろう。特に、日本銀行の黒田東彦総裁が今年4月に表明した異次元金融緩和の効果は絶大だった。

 ポイントは2%のインフレ目標を達成するまで金融緩和を継続する意思を示している点で、これにより円安が進行し、輸出関連企業を中心に株価も上昇。足下では1㌦=103円台まで円安が進み、日経平均株価は1万5千円を超えた。

 今後の理想的なシナリオは、資産価格上昇→実体経済への拡大→失業率低下と賃金上昇→継続的な物価上昇のサイクルをつくることで、今はちょうどその中間地点に当たる。現在、不動産価格が上昇の兆しを見せているほか、失業率も若干ではあるが低下、賃金も大企業を中心に増加の傾向が見られるなど、まずまずポジティブな要因が増えてきている。

 このままジワジワと持続的な景気拡大が実現するのが理想的ではあるが、課題も多い。最大の懸念事項は、いまだ具体像が見えてこない第三の矢の成長戦略がどうなるかだ。医療、農業、観光、エネルギーシステムなど、重点分野を掲げてはいるが現状では中身に乏しく、評価はイマイチ。さらに、デフレを促進させかねない規制緩和が中心となっているという点で、物価上昇率2%の達成というそもそもの目的と相容れない部分も多い。

 さらに、14年4月から実施予定の消費増税も景気のマイナス要因となる。消費税率8%へ引き上げ直後の4〜6月期は成長にブレーキがかかるのがほぼ確実と見られるため、その前後に政府がどんな手を打ち、どの程度の効果が現れるかによって、その後に控える10%への引き上げ決定にも影響を与えることになる。

 このため、財政的な後押しを含めて再び大規模な経済政策が導入される可能性は高い。いずれにせよ、第三の矢の具現化とプラスアルファの対策が求められるのは確実で、アベノミクス後半期は今年以上に難しいかじ取りが求められると予測される。

 

ミニバブルはいつ起きる?

楽天証券経済研究所の山崎元氏

楽天証券経済研究所の山崎元氏

 2%の物価上昇率達成に向けて、持続的な成長による実現が難しくなった場合は、どこかでミニバブルを起こす必要性が出てくるかもしれない。現在の状況は、1987年から88年にかけての状況に近いと指摘するのは、楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏だ。

「当時の日本経済は85年のプラザ合意後に円高が進み不況になったが、86年以降の金融緩和で株価が上昇。そして87年にブラックマンデーが起きて世界の需要を日本が引っ張る形になったため、金融緩和がやめられなくなって内需が拡大、バブルが本格化しました。今の状況は民主党時代に円高になり、アベノミクスの金融緩和で株価が上がり、これを2%のインフレ目標に到達するまで続けるということなので、プロセスが似ています。かつては世界のために、今回はインフレ目標達成のために行うということで動機は異なりますが、バブルが起きやすい環境であるのは間違いありません」

 その上で、

「バブルに全く至らないで景気がジワジワ拡大することはないと思います。為替も1㌦=102円くらいまで来たがリーマンショックの前は110〜120円くらいだったので115円くらいまでは行くのではないでしょうか。株価にしてもあと3千円くらいの上げ余地は十分ある。最終的には、2万円くらいまでいってもおかしくはない」

 と説明する。

 成長戦略の中身次第では新たな産業分野でバブルを起こすのも可能かもしれないが、現状ではやはり不動産価格の高騰などが、最も現実的に想定できるシナリオだろう。東京オリンピック招致も決定したことから、東京周辺の不動産に投資が集中し、不動産価格が高騰、それを鎮めるために金融引き締めを行い、それで終了というアベノミクスの着地点が想像できる。問題はそれがいつになるのかということだ。

 最悪のシナリオは、物価上昇率が急激に上がって2%を超え、コントロールが効かなくなることだ。こうなると、金融引き締めを図らざるを得なくなり、資産価格が急落。実体経済に恩恵がいかぬまま終了ということもあり得る。

「資産価格高騰とわずかながらの失業率低下などで、一部が恩恵を受けるほかは果実が得られないという事態も想定されます。中間層の格差はますます拡大し、そこをカバーするだけの再分配政策が今のところ見えません。経済政策だけですべてがカバーされるわけではないので、政策パッケージとして分配政策の拡充が必要です」

 と、山崎氏は指摘する。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

永田町ウォッチング

一覧へ

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る