政治・経済

日本の潜在力を生かす最後のチャンス

 東京オリンピックが2020年に開催されることが決定しました。このタイミングでオリンピックが日本にやって来るというのは非常に素晴らしいことだと思います。

 本連載でこれまで何度か指摘してきたように、日本という国の潜在能力はものすごく高いのに、政府や企業トップのリーダーシップが弱かったり、企業組織がIT化をはじめとする社会の環境変化に対応できていなかったりという理由で、そのポテンシャルが発揮しきれていません。この問題を解決するために、オリンピックは絶好の機会となるでしょう。

 46年にはわが国の人口が1億人を切るのがほぼ確実な情勢の中、20年までの7年間をどう過ごすかは、非常に重要な意味を持っています。今から20年まで人口減少は300万人程度で済みますが、その後はペースが上がり、10年で1千万人ずつ減っていくとみられています。つまり、これからの7年間は、日本が何とか現在のポテンシャルを維持したまま、人口減少のインパクトも顕著に表れない、最後のチャンスと言えるのです。

 日本は国債の発行残高が1千兆円あると言っても、個人の金融資産がまだ1450兆円、企業の内部留保も250兆円あります。また、人材の面でも競争力はまだ高く、人々のモラルも高い。技術力についても、新たなテクノロジー分野における日本の優位性はまだキープできると思われます。

 もし、20年までの7年間を漫然と過ごしてしまったら、ここから30年代、40年代にかけて経済は縮小していく一方になるでしょう。ここにオリンピックという1つのターゲットができたことによって、余力を生かして予定されていたインフラ整備を前倒ししたり、東京の首都機能を強化したり、何か新たなことを立ち上げようといった前向きな意識が芽生えてくることが予想されます。

 そして何より、これまでの日本社会や経済に最も足りなかった自信と夢と希望を与えてくれることになります。株価ひとつをとっても、将来に対して楽観的に考えられる場合とそうでない場合では、仮に同じ業績だったとしても大きく変わってくるものです。オリンピックの実質的な経済効果は3兆円といわれていますが、それ以上に精神的な部分の影響は非常に大きいと思います。

 この7年間で、後世に残るようなオリンピックにするための準備がどれだけできるかによって、その後50年間の日本の運命が決まると言っても過言ではありません。インフラ整備だけでなく、規制見直しなどの改革をどれだけ進められるかも重要です。普通、規制改革などは痛みを伴うためなかなか前に進まないものですが、大きな目標が掲げられたことによって前向きに改革を進められる可能性が高くなるでしょう。

創造性と実行力のあるリーダーを

 招致活動に関して言えば、今回は招致委員会メンバーによるプレゼンテーションも素晴らしかったですし、珍しく政財界が一体となってしっかりとバックアップしていました。中には、オリンピック招致より原発事故の処理を優先すべきとの批判もありましたが、それはそれでしっかりと取り組めば良いし、むしろ世界的なイベントを開いて外国から重要なお客さまを招くことになったので、責任逃れができなくなったとも言えます。問題解決に向けた大きなモチベーションになるのではないでしょうか。

 首都機能に関して言えば、やはり最優先で強化すべき部分は空港機能でしょう。成田空港は各国からの空の玄関口としては立地があまりに不便ですし、羽田空港のキャパシティーも全く足りていません。東京にとって、そこが一番の問題だと思います。首都圏の地下鉄を24時間運行することも、これまではタクシー業界の反対などで実現してこなかったわけですが、今後は反対ばかりしていられなくなるかもしれません。

 最後に要望を述べるとすれば、ぜひ今回のオリンピックでは日本が世界に誇るコンテンツやIT技術、サービスクオリティーを前面に押し出すような演出をぜひ行っていただきたいと思います。

 今後、組織委員会がつくられてさまざまな活動を始めると思いますが、そこに昔の名前で出ている重鎮のような人物だけではなく、ITやコンテンツなどの専門家をうまく配置してほしい。そして、日本でしかできない、さすが東京だと言われるような大会にすることを切望します。最高のステージで日本のブランドを引き上げるためにも、ぜひ、創造性と実行力のあるリーダーを任命してほしいと思います。

【夏野剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)】関連記事一覧はこちら

【東京五輪】関連記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る