政治・経済

対策を強化するも問題は金融業界全体へ波及

 金融機関のコンプライアンス体制が改めて問われるキッカケとなったみずほ銀行の反社取引問題。問題は暴力団との取引そのものだけでなく、もっと複雑な社会問題へと余波が拡大していく可能性がある。

銀行業界全体の問題へと発展

佐藤康博・みずほ銀行頭取 (Photo:時事)

佐藤康博・みずほ銀行頭取 (Photo:時事)

 2013年の金融業界を直撃し、さらに14年にも余震が続かざるを得ないのが「反社会的勢力」、つまり、反社取引の問題だ。発端は、みずほ銀行とオリエントコーポレーションとの提携ローン「キャプティブローン」で発覚した反社勢力による利用だった。中古車ローン購入などで総計2億円強、件数にして230件の利用という実態が金融庁検査で明るみになった。

 キャプティブローンは、オリコが保証し、みずほ銀行がローンを実行する仕組みだ。ローンの窓口となるのは、オリコの加盟店であり、そこで受け付けた申し込みをオリコが審査してローン実行の有無を決定する。万が一、利用者がローンの返済ができず、不良債権化する場合には、みずほ銀行はオリコにローン債権を買い取らせて、オリコは回収手段として代物弁済に向かう。この一連の保証提携のために、みずほ銀行はオリコに対して保証手数料を支払っている。

 13年9月末で同ローン残高は8千億円規模に達していた。05年に取り扱いが本格開始されたことを考えると、小口ローン商品としては、なかなかの急成長だったと言っていい。だが、その背景には、みずほ銀行、オリコの双方に、独特の無責任感覚があったと言わざるを得ない。要は「いけいけドンドン」の商品だった。

 これは、経営悪化していたオリコをみずほ銀行が支援するという発想があったことと無縁ではない。みずほとしては「不良化しても自行の決算を汚すわけではない」という甘い考えがあり、オリコは「伸ばせば保証料が着実に積み上がる」というそろばん勘定があった。

 そんな姿勢だったからこそ急成長した後に生じたのが今回の出来事だった。常に「反省は後からやってくる」ことを地で行ったことになるが、その代償は経営陣には痛かった。

 みずほ銀行、オリコは、その責任の明確化として経営陣の報酬カットなどを既に発表し、みずほは業務改善計画をまとめて実行に移しつつある。言ってみれば、これによって、本件はほぼ一件落着ムードだが、反社取引という問題は今後も厄介な問題として金融業界で尾を引くことは間違いない。

 みずほ銀行のケースが「発端」だったと言えるように、実は、みずほ事件以後、多数の銀行、保険会社が反社取引の存在を公表したからだ。つまり、反社取引の存在は、みずほ銀行特有の問題ではなかった。そこで、全国銀行協会は、警察庁が有する反社データと同協会のシステムを接続すること、さらに、銀行の関連データを信販会社などグループ会社と共有化することなどの対策を決定した。みずほ事件は結局、銀行業界全体を覆う大問題へと発展したわけだ。

問題は暴力団との取引だけではない

 ところで、反社取引がこれほど問題視されるようになったのは近年のことと言える。テロ集団の撲滅の一環として、1990年代以降、テロ資金の根絶が国際的に提唱され、その対応が各国に迫られるようになったという国際的な流れが背景にある。その具体策のひとつとして、不正資金のマネーロンダリング(資金洗浄)が犯罪行為として明確に位置付けられた。

 そうした中で、わが国では、テロ集団という問題もさることながら、暴力団の封じ込めという側面が大きくクローズアップされた。政府指針でも、反社会的勢力という定義の筆頭に挙げられているのはそのためだ。暴力団の資金源のひとつである麻薬取引が社会悪を生むとともに最終的にテロ集団の活動資金につながっている可能性があるだけに、確かに、その資金の流れを把握し、根絶させる社会的な必要性があることは否定の余地はない。

 だが、その一方では、「反社会的勢力」という概念規定が暴力団に限られておらず、対象がかなり幅広くなっている。したがって、「反社取引」イコール暴力団取引と単純化すると的を外すことにもなってしまう。例えば、過去に暴力沙汰を起こして逮捕されたような者もこの対象となっている場合がある。さらに言えば、そうした事件を10年前に犯しても、データが残っている限り、金融機関を利用しようとしても門前払いされるケースも考えられないわけではないという。

 それらをことごとく金融機関利用から排除する仕組みは、かえって事件を引き起こした過去を有する者を社会から切り捨てて、ヤミ金利用などに追い込んでしまうリスクもある。その意味でも、みずほ事件で明らかになった230件の中で、暴力団関係者の利用はその一部にすぎないことはもっと注目されてよかった問題だ。さらに、金融機関の利用が反社会的な行為のためであれば絶対に看過できないものの、単なる生活のためだった場合にはどう考えるのかという問題も論議から完全に抜け落ちている。預金口座の開設もできないとすると、対象者はその子どもの学費、給食費、あるいは、電気代、ガス代などの公共料金を口座引き落としで行うことすらできない。

「もちろん、不正利用は遮断しなければならないが、警察当局とデータを共有することになれば、そのデータに基づいて厳格に対処することが求められるようになるのではないか」

 ある銀行の幹部は、それによる副作用を真剣に懸念している。確かに、その余地はあるだろう。下手をすると、「なぜ。私はいつまでも銀行を利用できないのか」という訴訟が全国の銀行に襲いかかることもあり得るだろう。果たして、その場合、銀行など金融業界はいかに対処していくのだろうか。

 振り込め詐欺など金融機関のATMを悪用した悪質犯罪は後を絶たず、大きな社会問題となっている。金融機関の周辺から、それらの反社会的勢力を一掃することが重要であることは間違いない。そのために、銀行など金融業界と警察当局の連携は欠かせないことだが、果たして、行き過ぎという問題はどのように考えられていくのか。みずほ銀行で生じた「総計2億円強、利用件数230件」足らずの事件は、思いの外、金融業界全体を巻き込んで、これからも大きな論点に発展していくことはまちがいない。

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