テクノロジー

瀬戸際の東京電力、どうなる再建計画の見直し

 東京電力の再建計画にあたる総合特別事業計画が年内にも改定される。2012年の今頃、東電の広瀬直己社長は「13年の春にも見直される」との見通しを語り、13年の春になってからは「夏にはある程度のことが見えてくる」と話していたが、遅れに遅れ、あっという間に年の瀬を迎えることになった。

大幅な修正が必要となった再建計画

福島第一原発(Photo:EPA=時事)

福島第一原発(Photo:EPA=時事)

 再建計画が遅れた最大の要因は柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市、刈羽村)の再稼働時期が全く読めなくなってしまったことだ。現行の再建計画では今年4月から順次、柏崎刈羽を運転させていく予定だった。燃料コストの安い原発を動かし、大幅赤字の要因となっている火力発電の燃料費を抑制。2013年度から経常黒字に転換し、その後も安定した収益を稼ぎ出して、福島第一原発の廃炉や被災地の除染、賠償などの費用を捻出するはずだった。

 ところが、原子力規制委員会が原発の新しい規制基準を7月に施行。この審査をクリアしない限り、再稼働できなくなった。審査には半年以上かかるとされ、13年度中の再稼働はほぼ不可能となり、この時点で現行計画は破綻していた。

 さらに、東電に立ちはだかったのが新潟県の泉田裕彦知事。1日も早く原発を動かしたい東電が、7月の施行と同時に規制委員会へ審査申請を行おうとしたところ、これに猛反発。多くの報道陣が見守る中、新潟県庁を訪れた広瀬社長に「お金より安全のほうが大事というのは嘘だったのか」と迫り、数十分で追い返してしまった。

 結果的に申請は9月末までずれ込むことになったが、仮にその半年後に審査を通ったとしても、再稼働には泉田知事の了承が必要。知事は今なお再稼働に慎重姿勢を貫いている。東電が再建計画改定の中で、知事の頭ごなしに柏崎刈羽の再稼働時期を明記すれば、火に油を注ぐのは目に見えている。しかし、再稼働時期を設定しなければ、今後の収支計画も描けない。

 今のところ、来年7月に6・7号機を再稼働させ、16年度中には全号機を動かす方向で調整しているが、その体裁だけ整えても、運転資金や再建資金を融資する金融機関は納得しない。広瀬社長は「何度も変更するような再建計画をつくるわけにはいかない。きちんとしたものをお出ししたい」と述べ、デッドラインとされる12月末までの改定にも半ばあきらめの表情を浮かべている。

ネズミ一匹から始まった負の連鎖

 最大の誤算は、やはり福島第一原発における事故収束作業のつまずきだった。11年12月の事故収束宣言以降、今年の初頭までは曲がりなりにも安定した作業を続けてきた。東電社員もマスコミ関係者に「だいぶ状態が良くなってきたので、そろそろ広く取材を受けようかと考えている」と語ったほどだった。

 ところが、3月に最初のほころびが出る。配電盤の故障で停電が起き、使用済み燃料プールの冷却装置などが停止した。これが長期化すれば燃料が溶け、最悪の場合、高レベルの放射性物質が拡散する恐れがあった。もちろん、そうした事態にならないよう二重三重の安全対策は施しており、作業員、そして東電社員もそれほど重要視していなかった。だが、メディアや地元自治体がこれを問題視。東電側からの通報が停電発生から3時間遅れだったことにも非難の嵐が吹き荒れた。おまけに、停電の原因が配電盤の中にネズミが侵入し、これに触れてショートしたことだっただけに、「管理が杜撰だ」といった東電批判が増幅された。

 負の連鎖は続く。メディアの監視の目が厳しくなったこともあり、地下貯水槽からの汚染水漏れに始まり、岸壁側の井戸の中から高濃度汚染水が発見されたり、防波堤内の海水から高濃度のトリチウムが検出されたり、さらにはタンクからも高濃度の汚染水が漏れだし、8月末にはもはや手に負えない状態にまで悪化。ついに安倍晋三首相が「国の責任で対応する」と発言するまでに至った。

 こうした福島第一原発での一連の不始末が、東電に対する世間の印象を一層、悪化させた。広瀬社長も「ネズミの一件に始まった福島の混乱が痛かった」と振り返る。これが再建計画の改定を困難にしているもう1つの理由でもある。東電の経営陣は昨年11月、このままでは除染費用などが10兆円以上に膨らみ、東電単独では到底賄えないとして国による支援を求めた。だが、国費投入には国民の理解が欠かせない。世論が東電に厳しい限り、どんな政治力を働かせてもそれは困難だ。しかも、数兆円単位の支出に財務省は難色を示している。

 また、東電は会計上、除染費用を将来の損失として引当金を積む必要がある。現在は「正確な数字が確定していないため、費用計上できない」としてこの問題が猶予されている。もちろん、これが無条件で確定すれば東電はあっという間に債務超過となり、事実上の破綻となる。国が除染関連費用をどこまで負担するかが決まらないと、新たな再建計画も中途半端と言わざるを得ないのだ。

 ここに来て、ようやく国による関与の方針が定まり、除染や放射性廃棄物の中間貯蔵施設建設費などがある程度、国費で賄われる運びとなった。あとは東電が世論の納得を得られるだけの計画を提示できるかどうかにかかっている。

 国が進める電力自由化に率先して取り組むこと、希望退職者募集や支店廃止などさらに組織を合理化すること、柏崎刈羽原発の再稼働後は電気料金を下げることなど、多くのメニューが挙がっている。

 東電に対する世間の目が穏やかになり、国の支援で福島の事故収束作業が落ち着いてくれば、泉田知事の態度も軟化してくる可能性もある。もちろん、知事が一貫して求めている「福島の事故の検証が先」という声への回答も必要となってくるだろう。

 既に巨額の資金を融資している銀行団は、東電支援継続でほぼ一致。国の関与も定まった今、あとは東電自身が国民に対し、自らを律する姿を虚心坦懐に示すほかない。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る