政治・経済

2段階増税の不安を払しょくし成長を維持できるか

 2014年4月から、消費税が現行の5%から8%に引き上げられることが決まった。政府は同時に5兆円規模の経済対策を打つなど増税ショックの緩和を目指すが、14年以降の景気の腰折れ懸念は依然として残ったままだ。

前回の引き上げほど影響はない?

1997年の消費税率引上げ時における主な経済指標の推移 四半期GDPの動き 消費増税については、もともと2012年の民主、公明、自民による3党合意で既定路線になっていたとはいえ、回復途上にあるわが国の景気を再び冷え込ませかねないとの懸念から、14年4月からの実施について激しい議論が交わされたのは周知のとおり。景気動向次第ではあるが、15年10月には10%への引き上げが予定されている。果たして、本当に景気の腰折れは避けられるのだろうか。

 次回の消費増税が、家計と企業の消費に与えるマイナス影響は8・1兆円に上るとみられている。度々比較されるのが1997年に消費税率を3%から5%に引き上げた時の状況だが、当時は消費増税分だけで約5兆円分の影響があった。これに、特別減税の打ち切りや年金医療保険改革による負担増が加わり、最終的には8・6兆円の影響があったとされる。

 今回は初回の増税分のみでそれに匹敵する額になるため、ようやくアベノミクスの金融緩和と財政出動によってデフレからの脱却が見え始めた日本経済の先行きが不安視されるのも当然だ。

 第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストによると、

「8・1兆円を日本の世帯数で割ると1世帯で年間約15万円弱の負担になる。月に換算すると1万円以上。ただし、企業がフルに価格転嫁するとは考えにくいので、家庭は平均的に8万5千円の負担となり、差額の部分は企業、特に中小企業にしわ寄せがいく形になるだろう」

 という。

 消費増税後は、何もしなければ自動車、家電、住宅といった耐久消費財を中心に、販売が落ち込むのは確実視されている。これをカバーするために、政府は5兆円規模の経済対策を打つことを決めた。また、アジア通貨危機や金融システム不安などが重なった97年当時とは違い、外部環境の不安は今のところ少ない。こうしたことから、エコノミストなどの間では、影響は意外に小さいのではないかと見る向きも多い。

 さらに、一部住宅販売などで駆け込み需要はみられるものの、住宅ローン減税の拡充などで、97年の時ほど反動減はないとみられている。自動車や家電についても、これまでに実施されたエコカー減税やエコカー補助金、エコポイントシステムや地デジ化などによって需要を既に先食いしており、駆け込みとその反動の影響はそれほど大きくないとの見方が優勢だ。

 とはいえ、この時期の増税決定は本当に正しいのか。税率を一度に3%上げるというのは、消費税が定着している欧州でさえ、ほとんど前例がない。

 次に控える10%への引き上げタイミングも問題となっている。予定では、14年内に実施の是非を判断することになっており、仮に実行される場合は15年10月からとなる。このタイムスケジュールについて、永濱氏はこう指摘する。

「10%への引き上げを判断するためのGDPのデータは、来年7〜9月の数値が使われることになる。来年の4〜6月は増税の影響で間違いなくマイナスになるだろうが、7〜9月はその落ち込みから以前の水準に戻りきれていない可能性が高いため、果たしてそこで引き上げの判断ができるのか。もしかしたら、今回の5兆円の景気対策も、初回増税の悪影響を吸収するというよりも、来年2回目の引き上げ判断をやりやすくするために実施するのではないかと思えてしまう」

 初回の増税ショックから立ち直る前に2度目の増税に踏み切るとなれば、追加の経済対策の必要性が当然出てくるだろう。もしくは追加の金融緩和が行われる可能性もゼロではない。しかし、そうまでして15年10月からの10%への引き上げにこだわる必要があるのか、疑問は残る。

 

トラウマ払拭はできるのか

第一生命経済研究所の永濱利廣氏

第一生命経済研究所の永濱利廣氏

 まず現行の5%から3%引き上げ、次に2%引き上げるという順序についても、合理的に判断した結果とは言い難い。恐らくは、先に1%でも多く税率を引き上げておきたいという財務省の思惑があったのかもしれないが、

「本来は順番が逆のほうが良かった。この先、持続的に消費税を上げていくためには、最初に97年のトラウマをどれだけ取り払うかが重要で、そのためにも先に緩やかな増税を行ったほうが良かったのではないか。先に何が待ち受けているか分からない洞窟に入る時、最初は慎重に歩くものでしょう」

 と、永濱氏は言う。

 97年の増税時と違うもう1つの点は、手法についてはさまざまな意見があるものの今回は産業界も消費増税率上げそのものについては、ほぼ賛成の姿勢を見せていることだ。日本にとって財政再建が喫緊の課題であるという意識が浸透しているせいもあるが、安倍政権による産業界へのさまざまな優遇策がセットになっている点も考慮されたと見るほうが良いだろう。

 皮肉な話だが、消費増税が決まったのは、民主党政権があまりにも経済無策だった反動とも見ることができる。恐らく、今も民主党政権が続いていれば、消費増税は猛反発を食らって延期になっていたとしても不思議ではない。

 いずれにせよ、これまで日本が経験したことのない超短期間での2段階増税。アベノミクスを大失敗に終わらせる要因にならないことを願わずにはいられない。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール事業プロデュー…

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る