文化・ライフ

20年越しの悲願達成で観光立国への第一歩となるか

 2013年6月22日、カンボジアのプノンペンで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は、新たに富士山を世界遺産に登録した。

 日本が世界に誇る「フジヤマ」の登録は、観光立国を目指す政府の新たな起爆剤になるのだろうか。

 

長かった道のり

世界遺産登録を喜ぶ地元の人たち(Photo:時事)

世界遺産登録を喜ぶ地元の人たち(Photo:時事)

 京急線で横浜方面に向かい、品川駅を過ぎると右手に品川神社がある。その境内の中に溶岩でできた小さな山が見える。

「富士塚」と呼ばれるその小山は、関東各地にまだ多数残る富士山信仰の遺構のひとつであり、いかに富士への信仰が生活に根付いたものかを物語る。

 富士山の単独峰ならではの雄大な美しさは信仰だけでなく、「富嶽三十六景」に代表されるように浮世絵や日本画などの絵画や万葉の時代から和歌に詠まれるなど、古代より今に至るまで芸術作品の生まれる源泉となってきた。日本人にとって、ひと言で言い表すことができぬほどその存在感は大きい。今回、信仰、芸術の2つの点が後世に残すべきものと評価され、「富士山︲信仰の対象と芸術の源泉」という名で、ユネスコの世界文化遺産に登録された。

 日本の世界遺産は、文化遺産では12年の平泉に続いて13件目、自然遺産を含めても17件目の登録となる。

 日本のシンボルとも言える富士山だが、世界遺産への道のりは長かった。

 1992年の世界遺産条約に日本が批准した時から登録を熱望していたが、「ゴミの山」と呼ばれるほど、環境の問題が露呈しており自然遺産登録を断念した経緯がある。文化遺産への登録方針の変更後、さらに月日を重ねたこともあって、歓喜はもちろんだが、ようやくといった安堵の思いも強かった。

 昔から、どちらのものか、どちらから見る富士山が一番美しいのかと、火花を散らしてきた静岡、山梨の両県も、この時ばかりは友好的で、05年から合同会議を開始するなど共同歩調で進めてきた。

 登録決定も、横内正明・山梨県知事、川勝平太・静岡県知事がプノンペンまで出向くなど、協力しながら観光客誘致に努めている。

 既に登録から半年がたち、現場の雰囲気も一時期に比べ落ち着いてきたが観光客は純然と増えてきているようだ。

 登録に際して富士山からの距離が離れ過ぎていると、除外勧告までされ、土壇場で認められた静岡市の「三保の松原」では、除外勧告のニュースが流れた直後のゴールデンウイークから観光客が殺到し、交通渋滞を引き起こしていた。11月末の週末に再び訪れてみると、大型バスのツアー客や、自家用車で訪れる観光客でにぎわっていた。

 すぐ近くには、新たに大きな駐車場をつくり、今まで細い路地を通りぬけなければならなかった道路も整備され、アクセスを容易にするなど受け入れ態勢も万全にしたようだ。

 毎年30万人ほどいる富士山の登山客に関しては、面白いことに例年に比べ1万人ほど少なかったそうだ。もちろん人気がないのではなく、注目が集まり過ぎたため、今年は「人が殺到するのでは」という思いが、牽制する形になったようである。

 

環境負荷という課題

 世界遺産登録による観光業界への影響は大きく、ブナの原生林など、秘境として知られる白神山地も世界遺産登録後、ピーク時には80万人もの観光客が訪れ、07年に登録された島根県の石見銀山でも登録前後で観光客が倍増したという。

 お隣、中国では国家プロジェクトとして急速に世界遺産登録を増やしており、現在では45件と日本のおよそ3倍もの数に上る。

 当然、観光需要の拡大は多大な恩恵をもたらすが、同時にさまざまな課題も突き付ける。

 創業の精神が「富士を世界に拓く」である富士急行も、世界遺産登録を喜ぶと同時に、環境へのさらなる取り組みを始める。堀内光雄・富士急会長は、

「創業者である堀内良平は、『富士を拓き、富士を守る』ということを申していました。私が社長に就任した昭和37年頃から、既に富士山でのごみ拾いなどを行っていましたし、今も『富士急の森』という森林保全の取り組みを行っています。

 富士と生きる会社ですから、富士を守るためには今後も、損得ではなく、じっくりと取り組んでいかねばなりませんね」

 今後の具体的な取り組みを尋ねると、

「今、富士スバルライン(5合目までの有料道路)を鉄道にする計画があります。自動車に比べ、二酸化炭素の排出を抑えられますし、新たに木々の伐採を行う必要もありません。

 間もなく検討委員会が発足する予定ですが、完成までには時間がかかるでしょう。それまでにも電気自動車などの環境に優しいバスの利用を考えているんですよ」と述べる。

 富士山登山者数も既に飽和状態であるために、これ以上の登山客の増加は難しい。大量のごみや、し尿処理の問題からも、5合目までのアプローチを完全に管理下に置く決断も早急に求められている。

 13年度の訪日外国人観光客数も初の1千万人を突破しそうな勢いだ。ビザの免除や円安を背景にタイやシンガポールなど経済の好調な東南アジアの観光客が伸びてきているのだという。

 19年には、ラグビーワールドカップ、その翌年には、東京オリンピック・パラリンピックが控え、さらなる訪日外国人観光客の拡大が見込まれる。

 富士山は、静岡側にしても山梨側にしても、東京から気軽に訪れることのできる距離であるため、今後も増加が見込まれるはずだ。

 もちろん課題も多い。先ほどの観光地の環境への影響や、治安を不安視する声も多い。観光客を悩ませる道路や案内板の英語表記不足もある。しかし、世界最大の観光国フランスは、日本の8倍もの観光客が訪れる。まだまだ新たな産業に成長させていかねばならない。

 富士山の世界文化遺産登録となった13年が、いずれ日本の観光立国元年と呼ばれるようになるに違いない。

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