
自由化」よりも「米国化」を進展させる側面が強いTPP交渉
TPP(Trans-Pacific Partnership)が日本の重要な経済外交の課題になってきている。TPPは2005年6月3日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国が調印し、06年5月28日に発効した協定に端を発している。これにまず米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムが交渉に加わり、その後マレーシア、メキシコ、カナダおよび日本が参加し、現在合計12カ国で交渉が行われている。
TPP交渉については、日本では関税や非関税障壁の撤廃に注目が集まっているが、24の作業部会が設けられ、首席交渉官会議、横断的事項の特別部会のほか、22の分野(農業、繊維・衣料品、工業など物品市場へのアクセスの部会、金融・サービス部会、政府調達部会、知的財産部会など)が設けられ、同時並行的に交渉が進められている。10年3月、米国、オーストラリアが参加表明してから米国やオーストラリアの交渉への影響力が強くなってきている。日本が参加したのは13年7月の第18回会合から。13年11月には米国のマイケル・フロマンUSTR代表が来日するなど、13年内への妥結に向けて日本などの新しい参加国の決断が必要だと強く主張しているのだ。しかし、関税・非関税障壁の完全撤廃、あるいは22分野での合意を全参加国で取り付けることは容易ではないだろう。壮大な「自由化」プランなのだが、果たしてこれが可能なのか、あるいは望ましいものなのか疑問なしとしない。
日本政府はTPPに参加し、これを積極的に推進するという立場だが、筆者はあまり積極的にはなれない。と言うのは、TPP交渉は米国が主導権を握っているということもあって、「自由化」というよりは参加国の「米国化」を進展させるという側面が強いように思われるからだ。「米国化」が望ましい分野もあるだろうが、これが日本特有の制度を崩してしまう可能性も少なくないと思われる。例えば、郵政や簡保は攻撃の対象になってきているし、日本の健康保険制度が交渉の対象になる可能性も否定できない。また、日本の地方の公共事業では地方の建設会社が優遇されることが少なくないのだが、これも入札制の導入などによる公平性が求められ、大手ゼネコンや外国企業に地方の建設会社が席巻されてしまうことになりかねない。TPPにあえて反対する必要はないにしても、日本が積極的に飛び乗るような協定ではないように思われるのだが……。
アジアシフトを進めてきた日本はTPPに飛び乗る必要はない
米国やオーストラリアが積極的にTPPを推進する背景には、中国や東南アジアを中心とする東アジアの新興市場国の高い成長が今後とも期待されているという側面がある。環太平洋ということで東アジアを取り込み、そのメリットを得るということもTPPの重要な目的の1つだろう。米国やオーストラリアにとっては当然の戦略だろう。しかし、日本の状況はかなり異なる。日本は、既に東アジアの国境を越えた経済統合の重要なプレーヤーだ。13年の日本の輸出総額は63兆7400億円だが、そのうち18%は対中国輸出で、米国への17・5%を超え最大の輸出国となっている。また、全輸出の54・6%がアジア。韓国、台湾、タイ、香港、シンガポールが3位から7位まで並んでいる。
この日本経済のアジアシフトは、ここ十数年、アジアの成長率が極めて高かったことにも起因しているが、日本とアジア、特に日本と中国の経済関係が極めて重要になってきたことにもよっている。今や日本の最大の貿易パートナー・経済パートナーは米国ではなく中国なのだ。このように考えていくと、日本は米国やオーストラリアと違ってTPPに飛び乗る必要はないと言えるのだろう。
確かに安全保障という点では米国は日本の重要な同盟国だが、日本の最大の経済パートナーは中国なのである。日本は一方では米国、他方では中国の双方を重視すべきなのだ。そのことが日本が持っている極めて枢要な外交カードでもあるのだろう。
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