文化・ライフ

パ・リーグMVPに選ばれた田中将大選手(写真=時事)

パ・リーグMVPに選ばれた田中将大選手(写真=時事)

 新ポスティング・システムをめぐる日米の交渉が大詰めを迎えている。移籍先はまだ未定だが、東北楽天イーグルスのエース田中将大が来季メジャーリーグでプレーする可能性は日に日に高くなってきた。

 今季の田中のピッチングはパーフェクトだった。28試合に登板し、24勝0敗1セーブ、防御率1・27。昨季からの連勝記録は28。この先数年、いや数十年は破られそうにない大記録だ。

 沢村賞、MVP、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、ベストナイン、ゴールデングラブ賞、ジョージア魂賞年間大賞とタイトルも、ほぼ総ナメにした。

 ポストシーズンゲームでも田中は2勝(1敗)2セーブをあげ、楽天初の日本一に貢献した。

 辛口で鳴る星野仙一監督も、田中に対しては手放しの褒めようだった。

 「私が今まで巡り合った中では最高の投手」

 日本球界ナンバーワン投手が海を渡るのは少々、寂しくもあるが、球団がポスティング・システムによる海外移籍を認めれば、それを阻止する手立てはない。

 では田中は、メジャーリーグでどのくらい活躍できるのか。入った球団にもよるが「2ケタ(勝利)を下回ることはないだろう」と、かつてメジャーリーグの球団に籍を置いた日本人スカウトは明言する。

 「ストレートの速さはメジャーリーグのローテーションピッチャーと同等だが、スプリットの切れとコントロールは頭ひとつ抜けている。年齢的にも、これから数年間がピーク。将来はダルビッシュ有(レンジャーズ)同様、サイ・ヤング賞が狙える逸材」

 ただし、と言葉を切り、不安材料も挙げる。

 「日本では一発のないバッターに対しては、6分から7分程度の力で投げていた。で、ランナーが出てからギアを切り換えていた。しかし、日本ではヒットで済んでいた球がメジャーリーグではホームランになる。アメリカの野球に慣れないうちは、何回か高い授業料を収めないといけないかもしれません」

 日本人メジャーリーガーのパイオニアと言えばドジャースやレッドソックスなどで活躍した野茂英雄だが、彼が口ぐせにしていたのが「キープ・ダウン(低めにボールを集める)」という言葉だった。

 スターターとクローザーは役割が違うとはいえ、田中が参考にすべきは今季、レッドソックスを6年ぶりの「世界一」に導いた上原浩治のピッチングだろう。

 レギュラーシーズンの成績は73試合に登板し、4勝1敗21セーブ、防御率1・09。ディビジョンシリーズ、リーグチャンピオンシップ、ワールドシリーズと3度もファイナルゲームの締めくくり役を担った。

 今季のNPBの主役が田中なら、メジャーリーグシーンで最も輝いた日本人は上原だった。

 上原のピッチングを見ていて感心するのは、高めに浮いたボールがほとんどないことだ。ストレートもスプリットも、まるで定規で測ったかのようにバッターのヒザから下に決まっていた。

 日本にいる頃から〝立ち投げ〟のようなフォームだった上原だが、海を渡ってから、さらに重心が高くなったように映る。米国の硬くて傾斜のきついマウンドを考慮して、今のフォームに落ち着いたのだろう。

 メジャーリーグで通算84セーブをあげた斎藤隆(現東北楽天)から、日米のマウンドの違いについて、こんな話を聞いた。

 「日本のマウンドは比較的、傾斜が緩やかです。こうした形状をいかすため、踏み込んだ時、(右投手は)左ヒザをグッと前に踏み出すように指導を受けます。実際、そのほうが〝球持ち〟は良くなる。

 ところが、この日本流の投げ方だと硬くて傾斜のきつい米国のマウンドでは、ボールが抜けていく。踏み出した前足で突っ張り、その反動を利用してテコの原理でバーンと上から上体を倒すような投げ方をしないとスピードも出ないし、ボールも低めに集まらないんです」

 周知のように田中はスタンスを広く取り、腕が遅れ気味に出てくる典型的な力投派のピッチャーだ。その安定感あるフォームはアマチュアのお手本と言っていい。

 しかし米国の硬くて傾斜のきついマウンドに、この投げ方がマッチしているかとなると話は別だろう。

 第2回WBCで日本代表の投手コーチを務めた山田久志が、いみじくもこんな不安を口にしていた。

 「松坂大輔も日本では重心を低くして投げていたが、アメリカのマウンドに合わなかったらしく最初のうちは〝ヒザが痛い〟〝内転筋が痛い〟とよく言っていた。力投派のピッチャーはアメリカのマウンドに慣れるまでに、ちょっと時間がかかるのかもしれないね」

 用意周到で鳴る田中だけに、既に先輩の斎藤あたりから、メジャーリーグのいろいろな情報を入手しているに違いない。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る