マネジメント

日本の新興企業にメリットが豊富なタイドルⅠ

 2012年4月5日に成立した米国「新規事業活性化法(the Jumpstart Our Business Startups Act)=JOBS法」は、近年の米国の証券規制の枠組みの中で非常に重要な改革の1つです。

 JOBS法に基づいて改定された規制は多岐にわたりますが、その中でも「新興成長企業(emerging growth companies)=EGC」に該当する企業が新規上場(IPO)時や上場後にも活用できる新たなIPOプロセスや開示体制を確立したJOBS法タイドルⅠは、日本企業にとって最も重要性があるといえるでしょう。

 タイドルⅠは、IPO市場の専門家グループが作ったIPOタスクフォースが、EGCによる米国の公開市場へのアクセスを改善する際に直面する課題を調査し、その結果に基づいて制定されました。

 タイドルⅠはJOBS法の中核として、EGCのために次の規制緩和措置を制定しています。

⃝米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)=SEC=によるIPOに関する登録届出書のドラフトの非公開の審査

⃝開示要件、内部統制監査要件および監査基準の緩和

⃝一定の機関投資家との予備調査的(test︲the︲waters)コミュニケーションに関する制限の撤廃

⃝オファリング前後のリサーチ・レポートに関する制限の軽減

 SECは、EGCに該当する非米国企業も米国のEGCが享受するこれらの規制緩和措置を利用できることを明らかにしています。

 さらに非米国企業は、従来米国企業に適用される一定の定期的開示義務や臨時報告義務が免除される「外国民間発行体(foreign private issuer)」として届け出が可能となっており、それらの規制緩和措置に加えてEGCに関する規制緩和措置も受けられます。そのため、タイドルⅠは、非米国企業にとっての潜在的メリットは豊富であると言えるでしょう。

EGCの定義と地位喪失

  日本企業と投資家がEGCの地位を活用している2つの事例を挙げます。13年5月に東京証券取引所とNASDAQグローバル・マーケットへ同時に上場したUBICは、SECに登録届け出をした日本企業初のEGCです。

 同年12月には、日本の大口投資家の資金で起業した米国に拠点を置くバイオテクノロジー企業のAcucelaが、東京証券取引所のマザーズ市場へのIPOに伴い、EGCとしてSECに登録届出書を提出しました。

 これらから分かるように、EGCの地位には米国での日本企業の株式公開費用および時間のコストの削減だけでなく、米国企業に投資した日本の投資家にとっても出口の選択肢を広げる大きな可能性があります。

 今回から3回にわたり、企業がEGCとしての適格を得るための重要な要件や、日本企業を含むEGCが享受できる重要な規制緩和措置について紹介します。

 タイドルⅠでEGCは、直近1会計年度中の年間売上総額が10億ドル未満の発行体と定義されています。SECは、「年間売上総額」とは米国で一般に認められた会計原則(GAAP)に基づく損益計算書に表示される発行体の収益合計を意味するとしています。

 外国民間発行体がその表示基準として、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board)=IASB=が発行する国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)=IFRS=を使用する場合、IFRSの収益項目が使用されます。

 発行体は米ドルで表示される収益に基づいてEGCの地位を判断する必要があることから、SECは非米国企業の収益の換算は当該会計年度末日現在の為替レートによるべきとしています。

 EGCとしての地位は次のうちいずれか早い時期まで維持されます。

⃝発行体の年間年間売上総額が10億ドル以上となった会計年度の末日

⃝IPOにおける最初の売付の日の5年目の応当日を含む会計年度の末日

⃝発行体が直近の3年間中に10億ドル超の非転換型負債証券を発行した日

⃝発行体がSEC規則に定義する「large accelerated filer(早期登録大規模会社)」となった日

 EGCとしてIPOを行った発行体は、EGCの地位を一度喪失した場合、再び取得することはできません。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る