政治・経済

 少額投資非課税制度(NISA)が今年から導入された。投資額100万円までの株式投資や投資信託による利益や配当金が非課税となる同制度によって、個人投資家の裾野の広がりが期待される一方で、より利便性の高い制度への改善や制度の恒久化など、さまざまな課題が残されている。NISA導入のインパクトや今年の株式市場の展望について、日本証券業協会の稲野和利会長に聞いた。(聞き手/本誌編集長・吉田浩 撮影/森モーリー鷹博)

恒久化が最重要テーマ

-- NISA普及への取り組みに対する評価は。

(いなの・かずとし) 1976年東京大学法学部卒業、野村証券入社。97年取締役、2000年専務。01年野村ホールディングス(HD)取締役を兼務。02年野村アセットマネジメント社長、03年野村HD副社長就任。09年野村アセットマネジメント会長。13年7月日本証券業協会会長に就任。

(いなの・かずとし)
1976年東京大学法学部卒業、野村証券入社。97年取締役、2000年専務。01年野村ホールディングス(HD)取締役を兼務。02年野村アセットマネジメント社長、03年野村HD副社長就任。09年野村アセットマネジメント会長。13年7月日本証券業協会会長に就任。

稲野 国税庁が発表した1月1日時点でのNISA口座数は、約475万でした。われわれの調べでは、475万口座のうち証券会社に開設されたものが約320万。総じて非常に順調に推移していると言えます。NISAの細目が固まって金融機関が本格的に営業活動を始めたのは昨年中盤以降ですから、短期間でこれだけの口座が誕生しているのは大変なことだと思いますし、高い期待の表れでしょう。国民のみなさまがこの制度をきちんと理解し、自助努力による資産形成に役立てていただければと思います。

-- 背景にはユーザーがNISAのような制度を欲していた部分もあると思います。

稲野 ユーザーにとっては、NISAは個人金融資産を円滑に形成していくための1つの道具であると言えます。ご存じのとおり、日本の個人金融資産は約1600兆円ありますが、その構成を見ると預貯金が50%を超えています。その一方で、賦課方式の社会保障制度は少子高齢化時代であるがゆえのさまざまな問題を抱えていて、今や国が用意する制度だけで個人の豊かな生活を持続するのが難しい時代に入っています。だからこそ自助努力で、特にリタイア後に備えた資産形成がきちんとできるようにする必要があります。これまで「貯蓄から投資へ」と盛んに唱えられたわけですが、それを実行していくための器が完備していませんでした。もちろん株や投資信託を買うことはできるわけですが、万人が広く利用できる器をどう整備するかが課題でした。これがNISA導入の意義の1つです。

 もう1つの意義としては、家計から市場にお金が流れてくることによって経済を下支えし、成長を促進するという大きな機能が期待されています。成長マネーの循環という点でも大きな意味があります。

-- NISA口座を開設した利用者の属性は。

稲野 まだデータがないので何とも言えませんが、既にある程度の資産を持っている方々、年齢で言えば60代より上の世代の方々が多いのは当然なので、これから資産形成を考えている30代、あるいは20代の方々への広がりが出てくると非常に良いと思います。制度は今年スタートしたばかりで、1人1口座という制約があります。このため、金融機関側はまず既存のユーザーにNISAを使ってもらうところから始めて、次に投資未経験者層にアプローチしていくので、最初は属性に偏りが出るとは思いますが、金融機関も投資未経験者層への拡大という強い意識を持っているので、新規顧客も増えてくるでしょう。

-- 規制緩和の部分ではまだ課題が多そうです。

稲野 NISAがスタートする前から、われわれはさまざまな要望を出しています。例えば、当初は1つの金融機関にしか口座開設ができませんが、2015年からは年ごとに違う金融機関での新たな口座開設ができるようになる予定です。また、今年から4年間はいったん口座を閉鎖すると再開できませんが、その縛りもなくしていきます。加えて、今は口座開設に際して住民票が必要ですが、共通番号(マイナンバー)制度の利用によって、さまざまな手続きを簡素化していけるよう要望していきます。そして、一番重要なのは「恒久化」ということです。NISAは時限的にスタートした制度なので、すぐに恒久化というわけにはいかないとは思いますが、NISAのお手本となった英国のISAという制度は開始後9年で恒久化しています。NISAも口座開設数や投資実績などによって説得力を加え、恒久化にこぎ着けたいと思っています。

裾野をどう広げるか

-- 口座開設数の目標は。

稲野 アンケートによれば、NISA利用希望者の平均的な投資額は年間60万円程度なので、5年間の累積投資額で300万円。口座数が1千万に達すれば、投資額は30兆円になります。5年間でそこまではいかないにせよ、金融庁が打ち出している20年の投資総額の目標である25兆円は前倒しで達成できるとみています。

-- 新規顧客開拓は今後どのように行っていくのですか。

稲野 金融機関側としては、潤沢な金融資産を持っている60代以上の既存顧客がさらに高齢化していくことに危機感を抱いています。一般的には、金融資産の保有や運用の意欲は年を取ると後退していくので、今のままでは厳しい状況になるという認識はあるのです。ですから、これから資産を形成しようとする人たちを顧客として開拓する意識は、近年特に高まっています。

 ただし、若年層は潤沢な金融資産を保有していないので、金融機関側のさまざまな工夫が求められています。例えばNISAの年間投資限度額は年間110万円までの贈与非課税枠の中に収まっているので、親世代がNISAを始めていただいた場合に別途贈与を行って子どもの口座(20歳以上)を開設してもらうなどし、世代にわたって波及させる工夫が必要だと思います。少額からでも投資を始められる「積立型」の投資スタイルの普及も重要です。

 日証協としては、これまで自らNISAの広告宣伝を行ってきた他、新聞、テレビなどの媒体で取り上げていただく中で、制度の周知や理解を広げるよう努めてきました。日証協のホームページもNISAに初めて接する人たちが分かりやすい形にするよう、工夫しています。

ページ:

1

2

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る