政治・経済

 2013年11月に日本商工会議所会頭に就任した三村明夫氏。アベノミクス効果で日本全体の景況感が改善する中、今後は会員の多数を占める中小企業にその恩恵をどう行きわたらせていくかが重要課題となる。地方から見た問題点や、今後の取り組みについて語ってもらった。(聞き手/本誌編集長・吉田浩 撮影/森モーリー鷹博)

消費増税分を価格転嫁できるかが問題

-- 会頭就任以来、地方を精力的に訪れているそうですが、そこで感じた景況感はいかがですか。

(みむら・あきお) 1940年生まれ。群馬県出身。東京大学経済学部経済学科卒業後、63年富士製鉄入社。2003年新日本製鉄社長、08年同会長を経て、12年新日鉄住金相談役に就任。日本鉄鋼連盟会長や日本経団連副会長などを歴任し、13年11月より日本商工会議所第19代会頭の座に就く。

(みむら・あきお)
1940年生まれ。群馬県出身。東京大学経済学部経済学科卒業後、63年富士製鉄入社。2003年新日本製鉄社長、08年同会長を経て、12年新日鉄住金相談役に就任。日本鉄鋼連盟会長や日本経団連副会長などを歴任し、13年11月より日本商工会議所第19代会頭の座に就く。

三村 各地域を訪問しているのは、中央から見える日本経済の実態と各地域から見える実態とでは恐らく違うだろうと思ったからです。会頭就任以来、約1カ月で13カ所を訪れました。行って良かったなというのが正直な感想です。日本全体で景況感が改善していること自体はうれしいですし、アベノミクスの成果が上がっているとは思います。しかし、小さな都市には小規模企業が多く、小規模になればなるほどその恩恵が行きわたっていません。

 小規模企業の多くは円安弱者です。円安によって輸出単価が上がったり、海外事業収益が円換算で膨らんだりするメリットは大きいですが、規模が小さい企業ほど輸出比率が低い。業種によっても違いますが、例えば電機関係の下請けなどは出荷数量も伸びていません。一方、円安のデメリットの最たるものは、原料、エネルギー、食糧などの輸入価格が上昇すること。問題は、それを結局誰が負担するかということです。通常であれば製品価格に転嫁していきますが、実際にはデフレの後遺症がまだ残っているため価格転嫁できていません。原発が停止しているため、LNGなど化石燃料の追加輸入額が3・6兆円に達していますが、これを誰かが負担しないといけない。電力会社は自ら負担できないので、電力価格の上昇分をさまざまな産業がコストアップによって吸収しています。そのコストアップ分を価格転嫁したり、海外に輸出したりできる企業はいいのですが、それをできないところがたくさんあります。円安のデメリットはあれどもメリットのほうが大きいため、全体としてはアベノミクスの好影響を感じていても、地域、企業規模、業種などによって、受け取り方が全然違うということです。

 そして、円安弱者の最たるものは家計です。生活に必要なモノは購入しなければならないので、輸入製品の価格が上がれば支出が増えるのは当然。収入が増えなければ円安のデメリットのみが生じることになります。ですから、賃金の増加は絶対必要なのですが、いくら足下の景気がよくなっても、各地の中小企業にとってその決断は難しいというのが現状です。

-- デフレの後遺症が残る中での4月の消費増税をどうとらえますか。

三村 これについても、消費増税分を価格に転嫁できるかどうかを非常に心配しています。消費税増税については、日商でもこれまで各地の商工会議所と100回以上の対話を行ってきました。その結果、将来世代に負担を先送りせず、持続可能な社会保障制度を確立するためにも、10%までの消費税率引き上げはやむを得ないとの結論に至ったわけですが、一部の力の弱い業者だけに負担が掛かるという不公平なことになっては困ります。

 政府は公正取引委員会150人、中小企業庁450人からなる転嫁対策調査官(転嫁Gメン)を揃えて大企業が優越的な地位を乱用していないか調査しますし、商工会議所でも約3500人の経営指導員が中小企業特有の経営問題の相談に乗る体制を取っています。消費税の価格転嫁は、とりわけ重要な問題であるので、今後もこうした活動を強化する方針です。

消費と投資に対するマインドが変わる

-- 増税直後の消費の落ち込みは仕方ないと予想されますが、それ以後についての見通しは。

三村 ほとんど心配していません。もちろん増税前の駆け込み需要はある程度発生すると思いますが、反動はそこまで深刻にならないと思います。経済が上向きであれば、マイナス影響を十分吸収できると思っています。IMFが先日発表した日本の14年の実質経済成長率予測は1・7%に上方修正されました。消費税だけが景気を左右するわけではなく、全体的な景気動向がどうなっているか、その中で悪影響がどの程度で収まるかということだと思います。商工会議所LOBO(早期景気観測)調査の業況DIでも、今年1月は前月比4・3ポイント改善しています。新しい調査を行うたびに上方修正しているのは良い兆候です。

010_20140304_02 景気回復のモメンタムが広がりつつあるし、IMFは米国の景気も堅調であると指摘しています。米国の政治情勢が不安定なのはリスク要因ではありますが、製造業は米国に回帰しているし、シェールガス革命も好影響を与えるなど、いろんな点で米国の力強さがハッキリしてきています。米国の場合は個人消費がGDPの約70%を占めており、しかも、米国の個人消費は全世界の個人消費の4分の1を占めています。消費が増加すると米国内で生産が賄いきれずにどこかから輸入しなければいけない。日本からの輸出も米国向けは中国向けを抜いて第1位です。こうして世界経済に与えるポジティブな影響が確実に大きくなっているのは良いことです。今までは中国が世界経済のエンジンでしたが、今は双発エンジンになったということ。その中に日本経済もありますから、いろんな意味で改善していくのは間違いないでしょう。

 来年度は、もしかしたら名目成長率が実質成長率を相当上回るのではないかと期待しています。われわれが20年間感じてきたデフレマインドを、完全に払しょくするのは難しいかもしれませんが、消費や投資に対するマインドが確実に変わってくるでしょう。今まではデフレでしたから、お金を使わずに貯めることが合理的な経済行動でしたが、インフレ局面になればお金を使うことが合理的な経済行動になります。そうなれば、日本経済を押し上げる方向に向かうと思います。

ページ:

1

2

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る