政治・経済

2013年12月にカジノ解禁を含む特定複合観光施設(IR)を整備するための法案が国会に提出され、いよいよ日本でもカジノ施設がつくられる可能性が高まってきた。施設の建設候補地として最有力候補と見られているのは、東京のお台場地区。しかし、これに真っ向から異を唱えるのがエイチ・アイ・エス会長の澤田秀雄氏だ。「首都にカジノをつくれば、日本は二等国になる」とまで主張する同氏に、その考えを聞いた。(聞き手/本誌編集長・吉田浩)

 

澤田秀雄氏が「カジノは東京に誘致するべきではない」と言う理由

 

-- カジノ構想は長年にわたって実現しませんでしたが、今回は関連法案が通りそうです。

澤田秀雄 エイチ・アイ・エス会長

澤田秀雄 エイチ・アイ・エス会長

澤田 遅きに失した感はありますよ。本来ならシンガポールなどよりも先に建設に着手すべきでした。カジノ構想は10年前からあるのにいまだに法案が成立していないわけですから、日本はすべてにおいて遅かった。ビジネスはスピードですから、今度法案が通らなかったらもうやめたほうがいいと思います。スピード感がないと結局は二番煎じ、三番煎じになってしまいますから、やるんだったら早くやる。マカオやシンガポールに十分対抗できるものをつくることが必要です。

-- 東京でのカジノ建設に反対されていますが、なぜ駄目なのでしょうか。

澤田 今、カジノの建設候補地として挙げられているのは東京のお台場や大阪。九州であれば、われわれの子会社である長崎ハウステンボス(HTB)、その他に北海道や沖縄などいろいろな候補地はありますが、カジノは地域の活性化と観光の促進につながるものでないといけない。首都につくるほうがビジネスとしてはメリットが大きいので、業者の立場なら絶対に東京でやりたいと思います。

 ですが、カジノはエンターテインメントと言えども賭博性があるわけですから、東京という一番大きなマーケットで、例えば多くの若者や高齢者がカジノ依存症になったらどうするのかといった問題もあります。多くの人々が簡単に行ける場所につくってしまうと、規制が難しくなります。

 僕は東京に住んでいるから個人的には東京につくってもらったほうがうれしいんですが、よく考えると大国の首都にカジノはありません。北京やワシントンDC、パリにカジノはないですよね。そこには、それなりの理由があると思います。少なくとも、これまで大国の首都にカジノをつくった例はありません。ビジネスの観点からも個人としても、東京でのカジノ建設はウエルカムですが、日本のことや国民のことを考えたら東京でやるべきではないというのが持論です。

-- 2020年の東京五輪が決まった関係もあって、カジノをつくるとすればお台場は間違いないといった雰囲気が強くなっています。

澤田 大企業が何社かお台場でやろうとしていますし、政府にもその機運は強くなっています。でも、仮にお台場に決定すれば、日本は二等国になってしまうと思います。

 

ハウステンボスはカジノ事業で儲けようとは考えていない

 

-- 実際にどのようなカジノをつくれば良いと思いますか。

澤田 アジアには、既にカジノはマカオやシンガポールにもあるので、規模の大きなものをやらないと、競争に勝てません。中途半端なものをつくっても観光誘致や地方の活性化にはつながらないと思います。地方につくるにしても3千億〜5千億円を投資して差別化できるものをつくらないといけません。カジノをやったからといって、すぐに観光客が増えるとか自治体の財政が豊かになるとか安易には考えずに、慎重にやったほうがいいと思います。

-- マカオやラスベガスに日本が勝とうとすれば、規模だけでは厳しい気がします。

澤田 あとは、いかに中身で勝負できるかでしょうね。ショーやアミューズメントなどのエンターテインメントが充実していなければ駄目でしょうし、そちらがメーンでカジノは副次的なものというつくり方をしていかないといけないと思います。HTBには既に2500億円の資金を掛けてつくったエンターテインメント施設がありますし、あと1千億円くらい掛ければ立派なものができると思います。ただ、地方ということでマーケットが小さいとかアクセスが難しいという問題もあるので、そこは考えなければなりません。

-- 10年にHTBを傘下に収めた頃からカジノ構想はあったのですか。

澤田 いえ、まずは法案が通らないと駄目ですから、具体的なものはなかったです。ただ、HTBがある佐世保市や佐世保商工会議所なども非常に協力的ですし、観光客が増えれば市や県の財政も潤うことになりますからお手伝いしようと。HTBは既存のビジネスで十分利益を伸ばしているので、カジノで儲けるというよりも、そういう部分でお役に立てればいいかなと思います。ただ、カジノができればそのお客さまがHTBにも来てくれるとか、そういう意味でのプラス面は大きくあります。言い方が非常に難しいんですけど、カジノ誘致はHTBにも自治体にとっても大きなプラス、個人的には負担が増えるということですかね(笑)。

-- HTBがかかわる場合、運営ではなく場所貸しに徹するということですか。

澤田 われわれは場所を貸して、運営についてはプロのカジノ業者に任せたほうがいいと考えています。世界で実績のある米国系と欧州系の業者が2、3社入ってくれればいいのではないでしょうか。HTBが運営をやってやれないことはないと思いますが、利益より地域の活性化と観光のインバウンドのほうが重要です。仮にHTBの売り上げが伸びていないなら運営もやりたくなるかもしれませんが、今その必要はないですから。

-- これまで澤田会長は、航空事業やHTBなど新たな分野にも積極的に参入してきましたが、カジノについては若干引いた感じで見ている印象です。

澤田 僕自身はカジノを「ぜひやりましょう」という立場ではないですからね。HTBの売り上げは年率30%ずつ伸びていますし、利益も50%以上伸びていますから、この延長線上にカジノがあってもなくても特に問題はありません。ただ、地域のことや国のことを考えたらやるべきという意見ですね。

 

アジアからどれだけカジノに集客できるかが勝負

 

-- 世界のカジノで日本のモデルケースになるようなものはありますか。

016_20140218_02澤田 米国系は大規模できらびやかな雰囲気、欧州系は落ち着いた雰囲気とそれぞれテイストが違います。HTBの場合は、もともと欧州テイストの施設なので欧州系の業者を入れる一方で米国系の業者も入れて、両タイプのカジノが共存する形がいいのではないかと思います。

 日本でつくるならマカオやシンガポールに負けないもの。デザイン、サービス内容、何でもいいから何かで勝っていないと厳しいでしょう。東京でやる場合は、3千万の人口があってそれなりの集客は見込めるとは思うので、そういう意味では東京が有利です。しかし、政治経済の中心にカジノをつくるのはよくないのはなぜかという議論をもっとするべきです。

-- 今までそういう議論はなかったのですか。

澤田 なかったですね。そういうことを言いだしたのは僕が初めてではないでしょうか。長崎にカジノをつくりたいから東京は駄目だと言っていると思われているかもしれませんが、国益や地方の利益のために主張しているのです。

-- カジノという新しい領域にエイチ・アイ・エスグループが入ることによってどういう特徴が出せると考えますか。

澤田 当社は世界に数多くの拠点があるので、世界中に日本のカジノをアピールすることができます。そして、世界のカジノを知っているので、仮に運営はしなくてもそれらに負けないものをつくるためのアドバイスはできます。アジアから日本に集客する方法を知っているのも強みです。アジアから人々が来たいと思えるものをどれだけつくれるかが勝負ですが、それを本当に分かっておられる方がどれだけいるかということです。

 政府は、まずお客さまを呼べるか、エンターテインメント施設をきちんとつくることができるかを客観的に判断して場所を選ぶことが大切です。そして、日本の観光と地域の活性化のために力を発揮できる業者を選定してほしいと思います。一企業や業界団体のことより国家、国民のことを考えるべきで、お金儲けはその次です。政治的な要因を絡めたり、思い付きのような判断を下したりするのは絶対に避けてほしいところです。

 

【カジノ解禁】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る