文化・ライフ

  人情味にあふれた江戸町方の商家といえども、いざ商売となるとシビアな一面もありました。対人関係においてこのような心構えをしていたそうです。

「人柄の良い相手でも、商品が悪ければ買うべからず。人柄に少々難あれど品物が良けれは採用する」

 その人がいくら優れた人格であっても、必ずしも商売人として目が利くとは限りません。また、考え方が自分と違い少々付き合いづらい相手であっても、良い商品を揃える能力に長けている場合は大いにあります。つまり、商家の主たるもの、店の繁盛につながる重要な相手を常に冷静に見極め、円滑な人間関係を築くことが大切だと考えたのはどの時代のリーダーたちも同じのようです。商品の善し悪しを判断するように、人物を時には厳しく見極める能力がリーダーの必要条件だというわけです。

 経済的変動が大きかったと言われる江戸の町では、商人は時代に合わせて盛んに扱う品を変え、時には商売替えをすることで消費者のニーズに答え、1つの看板を継承しながら店の繁盛を保ちました。そこには、客を喜ばせるための努力と柔軟な心、それに伴うホスピタリティーあふれる身のこなしがありました。

 その継続のためにも、まずは人選と人材育成が主の重要な仕事だったのです。 例えば主には女房役とも言える名番頭が必要です。番頭さんの活躍によって店の浮き沈みが変わってきます。

 しかしながら、あうんの呼吸で分かり合える右腕の存在が、どの主にも最初からいるわけではありません。信頼し共に歩める心強い相棒を得るには、まず自らが人と物を正しく判断できる能力を備え、さらに、そういう人材に育つ人物かどうかを基準に人を見極め育てたということです。

 印象や人柄の良さと、実務能力や技術(またその人の持つ商品力)とは別だととらえたのが江戸の商家。江戸しぐさでは、その人の見た目や肩書だけでなく、人柄だけでもなく、隠せない〝思草(しぐさ)〟からその人を読み取り見極めよと伝えています。

 思草は、頭の中や心が言動に表れるという意味あいから、その人の目つき、表情、ものの言い方、身のこなしを、自分の経験値である五感をフル稼働させて慎重に見極め、相手を選んだと言います。

〝人柄重視〟と言われる昨今ですが、そこにものさしを置いてしまうと肝心なことを見落としてしまう可能性もありそうです。また、あなたの長所から〝人柄〟を取り除いた時、相手にどう判断されるのか、自答するたび量も時には必要かもしれません。

 人柄〝だけでは〟人を選ばない生き方が江戸しぐさ。人柄は良くて当たり前。むしろ人を見極める時に必要な最低条件ということでしょう。

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