政治・経済

旭化成・伊藤一郎氏は語る 歴史に残る年に

-- 2013年を振り返って。

「個人も企業もめざすべき道しるべを考えないといけない」と語る伊藤一郎・旭化成会長

「個人も企業もめざすべき道しるべを考えないといけない」と語る伊藤一郎・旭化成会長

伊藤 13年はアベノミクス効果によって株価が上昇し、円安効果もあって、業績も好調な企業が多くありました。今年は、アベノミクスを官民一体となって成功させるための年になると思います。

 ただ、そのための政策課題は山積みしています。社会保障と税の一体改革は始まったばかりで、消費増税後の景気動向はどうなるか分かりません。またエネルギー問題の解決や規制改革、震災復興も重要です。このまま世界の中で日本だけが好調を持続させることはあり得ないので、国際的な協調関係をつくることも必要になります。TPPを含めて、解決すべき課題はいくつもありますが、これらが今年片づけられれば、13年はアベノミクスがスタートした年として歴史に残るかもしれません。

-- それらの中でも最も喫緊に着手しなければならない課題は何ですか。

伊藤 やはり岩盤といわれる農業、医療、雇用といった分野の規制改革でしょう。先日成立した産業競争力強化の関連法案を見ると、必ずしも100点ではないという評価が産業界にありますが、当然それを乗り越えていかなければいけません。

 また、われわれ製造業にとっては特にエネルギー問題の解決が重要です。原発がこれだけ止まってしまうとコストが上がるし、国際競争力の観点からも好ましくありません。これらのことを含めて14年は好循環が生まれるように解決していってほしいと思います。

-- 円安効果以外のプラスアルファとしてはどのような要素がありますか。

伊藤 われわれのような製造業は特に、円安による増収増益効果に助けられていますが、これ以外に自助努力で収益力を向上させる取り組みとして、SLプロジェクトという構造改革の推進を社内で行っています。これは単なる経費節減ではなく、仕事のやり方を変えることで既存事業の基盤強化を図る取り組みです。13年度は前年度比で140億円程度の増益要因になると予想しています。これを14年度に300億円ぐらいにはしたいと思っています。

 したがって、円安効果を喜ぶのではなく、円安で時を稼げたと考え、競争力向上のためにも個々の企業はもちろん業界や産業界全体として、構造改革に取り組むべき時だと思います。

-- 住宅事業が好調です。

伊藤 当社の13年度の住宅事業の営業利益は約600億円で過去最高となる見込みです。ただ、この中には消費増税前の駆け込み需要も含まれていて、13年9月までに住宅を購入した人は現行税率で契約しています。今後その反動が多少のマイナス要因になる可能性はありますが、ローン減税や補助金といった対策が採られているので、前回の消費増税時ほど大きな落ち込みにはならないと見ています。また、請負住宅事業の周辺部分での収益向上を図って、住宅事業全体の利益がなるべく下がらないようにしたいと思います。

-- 他の事業についてはいかがですか。

伊藤 今は国内型事業の医薬も収益に大きく貢献していますし、建材も伸びています。一方、グローバル型の繊維やエレクトロニクスに関しては、販売量の増加というよりは為替の効果が大きいですね。とくにケミカル事業については、海外の景気動向に左右される部分が大きいため、少しずつ伸びているという感じです。

 これからは、ケミカルやエレクトロニクスなどを中心にグローバルに競争力のある事業を伸ばしていく一方で、新しい社会価値をつくっていくことが必要になります。日本は少子高齢化をはじめとした課題先進国ですから、当社ではヘルスケアと住宅事業の融合などで新しい国内需要を掘り起こしていくことが必要になるでしょう。

「雲」は何かを考えると語る旭化成・伊藤一郎氏

-- 14年以降の目標は。

伊藤 バブル崩壊以降のわが国は失われた20年と言われていますが、最近の状況は〝第三の維新〟と位置付けられると思います。最初の維新は明治維新で、この時はアヘン戦争などが中国で起こって、放っておくと日本も欧米の植民地になるかもしれないという危機感がありました。2番目の維新は太平洋戦争の後。当時はその日の生活にも困るという状況で、何とか人並みの生活ができるようにしたいという目標があった。そして、1980年代にはジャパン・アズ・ナンバーワンと言われ繁栄を享受した時期もありましたが、その後はバブル崩壊や金融不安など低成長に苦しんできました。しかし国民はその日の暮らしに困っているわけではありません。こうした先行きの不透明な時代に、明治の頃のように日本全体で「坂の上の雲」を見つけられるか、ということが問われます。14年は個人も企業も、目指すべき道標を考えないといけないと思っています。

-- 伊藤会長にとっての「雲」とは何ですか。

伊藤 やはり私は旭化成という会社で育った人間ですから、会社にとっての雲は何かと考えた時に、若い人たちにもっと挑戦してほしい、そういう人たちの集まる活気あふれた会社にしたいということです。

-- 社員教育の充実という意味でしょうか。

伊藤 私は高度成長期に入社してモーレツ社員としてやってきた経験があります。その時代は右肩上がりで日に日に仕事が増えていくような時代で自然と自分で動かないと仕事がまわらない時代でした。旭化成には多角化の歴史とともに挑戦するDNAみたいなものがあって、それが当社の最大の特徴です。そのDNAをこれからも発揮させていくためには、一人ひとりが自分で考え、行動を起こすことが重要です。

 そういう人たちが少しでも多く出てきてほしいし、そのために経営としては何をするのか考えるのが私の仕事です。どんな立場でも常に挑戦するのが旭化成魂。そういう部分を後世にも引き継いでいかないといけないと思います。(聞き手/本誌編集長・吉田浩)

 

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