文化・ライフ

「いきなはからい」と大岡裁き

 江戸のスローガンとも言える、目に見えない美意識である〝いき〟を、〝はからい〟という目で見える心遣いで体現する「いきなはからい」という思草(しぐさ)は、江戸っ子らしさを鮮やかに表す、日本人の美徳ですね。

 時代劇「大岡越前」などでおなじみのいわゆる「大岡裁き」は、まさに、いきなはからいそのものと言えるでしょう。これは、江戸時代末期の作とされる古典落語「三方一両損」(別名「三方目出度い」)という演目にも描かれています。

 神田白壁町に住む左官の金太郎が3両拾い、落とし主である大工の吉五郎に届けた。しかし、吉五郎は「いったん落とした金だから、もう自分のものではない」と、金太郎に突き返してしまう。一方の金太郎も「せっかく届けたのだから受けとるのが筋だ。この金はもらえない」と啖呵を切って聞かない……。

 やせ我慢と意地っ張りで一歩も譲らない江戸っ子同士のやりとりは、ついに大岡越前守の裁きに委ねられることになります。

 大岡越前守は、問題となっている〝3両〟に自分の金を1両足して〝4両〟にしました。そこから〝2両ずつ〟ふたりに渡しこう言います。

「両者とも本来なら3両受け取る資格があるが、2両しか受け取れない。よって1両の損となる」自分を含めた3人が1両の損をする「三方1両損」にして解決するという噺です。

 誰もが同等に少しずつ負担しているのにもかかわらず、実に爽快でストンと腑に落ちる結末だと思いませんか?

 合理的でスマートな「大岡裁き」は、人の上に立つ者の行動哲学である「江戸しぐさ」としても、「いきなはからい」を象徴する振る舞いとして、目上、年上の者が目下、年下の者に向ける心のあり方であり、方法論を伝えています。

 

「いきなはからい」は人づきあいの隠し味

 

〝いき〟を説明するほど〝野暮〟なことはないと言われますが、さて、どんなことが〝いき〟なのか、あえて考えてみましょう。

①恩着せがましくなく、気遣いを相手にわからせない配慮をする

②相手が喜んでくれるならば、自分は少々犠牲になっても一肌脱ごうという意気込み

③道理にかなっていて、機転が利いている

④世のため人のためをモットーに、そうすることで自分が生き生きと輝いていると感じる

 いかがでしょうか? 〝やせ我慢〟を格好良さとする価値観は、さすが江戸っ子ならではです。

 現代にも通じる日本人らしさは、江戸町方の心意気に根付いていたのですね。時にはスマートにいきな演出をはからって、身近にいる大切な人たちの心を惹きつけることも紳士の役目かもしれません。いきなはからいは、人付き合いの隠し味にもなりそうです。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る