政治・経済

 日本文化を象徴する存在として、日本の宝、世界の宝と称される京都。山紫水明の自然景観と歴史文化を維持・継承していくために、厳しい景観政策を進めている。「京都創生」の取り組みについて、門川大作・京都市長に聞いた。(聞き手/本誌・村田晋一郎)

門川大作氏の思い 京都の良さを継承し、ブランド力を向上

門川大作・京都市長

門川大作・京都市長

 「京都創生」のPRポスターの「日本に、京都があって良かった。」というコピーは、どこに行って申し上げても、「なぜ?」という質問がありません。みなさん「そうですね」という反応が多く、説明が不要です。これが、京都の総合的な価値だと思います。

 京都は、日本の宝、世界の宝です。しかし全国一律の相続税制度や建築基準法などの制度では、この京都の良さは守れません。戦後の日本の街づくりの根本的な制度は米国から輸入したもので、欧州の歴史都市から輸入したものではないからです。だから京都市も頑張りますが、同時に国家戦略として京都を創生してほしいということを、京都創生の活動でアピールしています。

 今ようやく国にもいろいろ協力していただいて、歴史的な建物を学校の校舎に活用したりしています。仮に建築基準法をそのまま活用すると、窓を全部アルミサッシに変えたり、不燃材を使ったり、非常階段を設けたりしなければいけなくなる。例えば京町屋に適用すると、町屋が町屋でなくなってしまう。そういう条件を除外する代わりに管理責任を京都市が持って、歴史的建物を残しています。こういったことは国の関与なくしてはできません。京都の歴史都市を守るためには、抜本的に国の制度を変える必要があります。

 また、税収の問題があります。例えば、大阪市と比べて京都市は市民1人当たりの税収が7万円少ない。京都市の人口は147万人ですから、毎年1千億円以上、税収が少ないことになります。この理由には建物の管理の問題があります。木造住宅の比率は、大阪市の26・6%に対して、京都市は48・1%あります。景観を重視して木造住宅を維持していますが、木造建築は50〜60年たつと固定資産税の価値はかなり落ちます。基礎自治体の税収に占める固定資産税の比率は多いので、木造住宅の多さが税収に響いています。

 歴史都市を守るために、木造住宅を大事にする、景観を大事にすることは、経済の法則から言えば、すべて逆のことです。京都市は税収が減ることを一生懸命やっているわけです。

 例えば、ドイツのケルンをはじめ、欧州の歴史都市は世界大戦で壊滅的な被害を受けた都市が多い。しかし、それらの都市は、国の威信をかけて、国の宝として復元されている。そこの都市の住民の税金だけでやっているのではありません。

 京都市内には約2千のお寺や神社があります。これらはその時代の人々の信仰心と、時の為政者の権威で造られ、維持されてきたものです。これは大きな財産ですが、この維持を京都市民の税金だけでやることはできませんし、制度的にも無理です。ですから国として特別な制度と支援策が必要です。これが国家戦略としての京都創生です。

 京都市ではさまざまな新景観政策を進めてきています。建物については、都市中心部のビルの高さ規制は45㍍のところは31㍍に、31㍍のところを15㍍以下に引き下げました。また、全市的な建物のデザイン規制を行いました。金閣寺などお寺の背景である「借景」を重視するほか、眺望景観を守るために38カ所の視点場をつくり、そこから大文字山や鴨川の景色を見ることができるようにしました。

 さらに今、全力を挙げているのが看板や屋外広告の撤去です。京都市内約4万カ所にいろいろな看板が付いていますが、大き過ぎる看板や派手な看板、電飾の看板を2014年8月までに全部撤去します。事業者や市民に大きな負担をかけますが、京都の都市格を向上させようということで進めています。

 お陰さまでこれまでの施策により、京都市の都市格、ブランド力が向上しています。米国の旅行雑誌『トラベル・アンド・レジャー』のワールド・ベスト・シティーのランキングで12年、日本の都市で初めて京都が9位に入りました。13年は5位まで上昇しました。また、米国の雑誌『コンデンスト・トラベラー』のランキングでは、アジアの都市部門で1位になっています。

門川大作氏は語る 京都の個性を生かした産業振興

 一方で伝統産業や伝統文化は日本中で非常に厳しい状況におかれています。西陣織の生産量は最盛期の8・8%、京友禅は2・7%まで落ち込んでいます。染め、織りなど、京都の伝統産業は評価されていますが、後継者の問題など非常に難しい状況にあります。世界で評価されている日本のモノづくり、伝統産業あるいは精神文化を多くの日本人が認識していない。これを日本の個性として再認識し、次の世代につなげて、同時に世界に発信していくことが極めて大事だと思います。

 同時に京都には島津製作所や京セラをはじめ、素晴らしい先端産業の企業がたくさんあります。これらの企業のルーツは伝統産業です。例えば、島津は仏壇、仏具、神具が起源。京セラは焼き物で、これがセラミック、コンデンサに変わっていきました。このように伝統産業がイノベーションを起こして、先端産業になっていく。この仕組みを支援するために、大学と協力し、知恵産業融合センターをはじめ、産学公の連携施設を開設しています。これによりグローバルニッチを育てる取り組みを進めています。

 現在、京都の観光は好調です。しかし日本の観光業の労働生産性は低い。観光業は、ほとんどが非正規労働者でもっているのが現実です。観光を安定した雇用先にしていく必要があります。そこで富裕層観光にも力を入れています。しかし富裕層の方が来られるような宿泊施設はパートの人だけでは対応できません。欧米では大学院などを出て専門知識を身に付けた人が観光業に従事しています。そこで京都大学と一緒になって、コンシェルジュを育てる連続講座を設けました。こうした取り組みをもっと充実させようと思っています。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年5月号
[特集]
進化するチーム

  • ・総論 姿を変える日本の組織 個人とチームが互いに磨き合う時代へ
  • ・小笹芳央(リンクアンドモチベーション会長)
  • ・稲垣裕介(ユーザベース社長)
  • ・山田 理(サイボウズ副社長)
  • ・鈴木 良(オズビジョン社長)

[Special Interview]

 南場智子(ディー・エヌ・エー会長)

 「社会変革の今こそ、組織を開き、挑戦を加速する」

[NEWS REPORT]

◆社長になれなかった松下家3代目がパナソニック取締役を去る日

◆DeNAとSOMPOが提案する新たなクルマの使い方

◆ここまできたがん治療 日の丸製薬かく戦えり

◆ブレグジット目前!自動車各社は英国とどう向き合うか

[特集2]九州から未来へ

 九州一丸の取り組みで生まれる新しい産業

ページ上部へ戻る