政治・経済

大統領就任前のプーチンに真っ先に会った森喜朗氏

森喜朗元首相

森喜朗元首相

 米国の経済誌『フォーブス』が毎年選んでいる「世界で最も影響力のある人物」の2013年番付が発表されると、皆は驚きもし、納得もした。

 一昨年と昨年の1位だった米国のオバマ大統領が2位に退き、ロシアのプーチン大統領が堂々の1位に躍り出たのである。

 フォーブス誌は、選考理由について「プーチン氏はロシア国内の統治を強めている。一方、オバマ氏は任期2期目の大統領としては異例の速さで影響力を失いつつある。最近では米政府機関閉鎖の混乱が良い例だ」としている。

 そしてこの世界で最も影響力のある人物と、恐らく最も長い時間を過ごしたと思われる日本人の政治家に本誌はインタビューした。森喜朗元総理大臣である。

 「小渕総理が、僕が幹事長だった時に、『ロシアをやろうと思うんだけど、手伝ってくれ』というんだ」と、森氏は個人事務所で語ってくれた。立派な体躯。声はよく通る。

 「で、僕は喜んでやらせていただきますと答えたんだ。小渕総理は鈴木宗男君を総理の特使として出していたんだ。しばらくして小渕君は倒れる。鈴木君はモスクワで画策していたわけだけど。小渕君は亡くなってしまって、僕がバトンタッチすることになった。いわゆる、『密室』と呼ばれたけど、密室でも何でもない。打診されて、自民の役員会があって両院議員総会で新総裁を選出することを決めて、その役員会が始まる直前にモスクワの鈴木君から電話があった。

 そして、『これからプーチンに会って森さんが次期首相になると言っていいですか?』 と彼が聞くんだよ。『総会で決める候補者であるとなら言っていい』とは言ったけど、鈴木君から恐らく当時の外務省の分析官の佐藤優さんを通じてプーチンに説明したのだろう。プーチンは恐らく僕に興味を持ったと思うんですよ。

 とにかく僕は、まだ大統領になる前のプーチンに日本の首相として真っ先に会ったんだ。日本はゴールデンウイークで、その1週間の連休を使って。普通、日本の首相は米国からカナダへと回るんだが、僕はサンクトペテルブルクのプーチンに真っ先に会った。食事したり、いろいろなことをやって、一日一緒に居て、夜はアイスホッケーを観戦したから、恐らく10時間以上会っていましたよ。それで何となく人間的に理解し合ったんです」

プーチン大統領も森喜朗氏に倣いコートとマフラーを脱ぎ日本人に黙祷

 お互いの第一印象を問うと、「KGBの中枢にいた人だから、どれだけ恐ろしい人物かと考えていたら、何だか、憂いを帯びた男で、やけにメランコリーだなと思いました。だから割と自由に話しましたよ」と、森氏は言う。

 「やがて大統領になってしまえば、外務省からアレを言うなコレを言うなと雁字がらめになるのでしょうが、まだプーチンは大統領になる前でしたから、あなたの父親はシベリアに拘留されたのか? 何て聞いてきました。『いや、うちの親父はトラック島で米国と戦っていました』と僕は答えました。ウチの親父は軍人でしたから共産党は嫌いで、『ロシア人は明るくて楽しくてほがらかで良い人々なんだが、共産主義が人々を暗くした』と言っていたと伝えたんだ。そしたらプーチンが『どこが暗いんだ?』というから『それが自分で分からないくらい暗いんだ』と重ねると、『ロシアは民主主義だ。米国と同じだ』と苦笑していました」

 「どうやって国を正していくかということについても話しました。『役人の賄賂や汚職や共産主義の負の遺産から抜け出すには大変な努力が必要だ』というような話です」

 「その後、シベリアで亡くなった日本人のお墓参りをしました。そこで僕がマフラーと手袋を脱いで祈っているとプーチンが、どうしたのか、と聞くので、『あなたの責任じゃないが、寒さで死んだ日本人たちのことを思うと、暖かいコートやマフラーや手袋をしてお祈りする気にはならないからだ』と説明すると、プーチンも脱ぎ始めて、そして黙祷していました」

森喜朗氏の首相就任と辞任をいち早く知ったプーチン大統領

048_20140107_03

 時は流れて01年3月、森氏は首相退任前の最後の外遊でもロシアを訪問し、イルクーツクでプーチン大統領と会談を行っている。

 「その時に『僕は日本に戻ると辞意を表明することになる』とプーチンに明かしました。私が首相になることをいち早く知ったのもプーチンならば、私の辞意をいち早く知らされたのもプーチンでした」

 安倍晋三首相の特使としてロシアのモスクワを訪問中の森喜朗元首相が、13年2月21日午後、クレムリンでロシアのプーチン大統領と約1時間、会談している。公開されたプーチンと森氏のツーショットは満面の笑顔で、やはりこの2人は気が合っているとしか思えない。

 北方領土問題に話が及ぶと、プーチンは紙に鉛筆で枠を書いて、枠の外に日本とロシアがいると印を付け、「ここに両国がいる。これじゃプレーができないので、真ん中に引っ張ってこないといけない。そこから『ハジメ』の号令をかける」と、述べたのだという。

 そして、「引き分けとは、勝ち負けなしの解決だ。双方、受け入れ可能な解決を意味する」と、言ったとのことだ。

 

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る