マネジメント

 再上場から1年が過ぎ、再建の陣頭指揮にあたった稲盛和夫氏も取締役を退いた。数字を見れば好調そのものだが課題も多く抱える。植木社長のもと、社員の結束が強固になった印象が強い新生JAL。人が、組織が変わる時、そこに何があるのか。植木社長に聞いた。(聞き手/本誌・古賀寛明)

植木義晴・日本航空(JAL)社長プロフィール

 

植木義晴・JAL社長

(うえき・よしはる)1952年生まれ、京都出身。航空大学校を卒業後、75年に日本航空入社。94年にDC10の運航乗務部機長に。ジェイエア副社長を経て、JAL経営破綻後の2010年2月に執行役員運航本部長に就任。同年12月から専務執行役員路線統括本部長となり、12年2月から現職。

植木義晴氏が語るJAL社長就任後の取り組み

 

社長就任後に降りかかった様々な課題

-- 就任して1年8カ月がたちましたが振り返って。

植木 ゆっくり立ち止まる暇はなかったですね。

 就任当初は社長業に慣れるのに精いっぱい。するとすぐに上場に向けて動き出し、何とか上場にこぎ着けたと思ったら、尖閣、竹島問題、787のトラブル、円安での燃料費用の高騰など、立て続けに問題が起こりました。

 また、そうこうしているうちに羽田の発着枠の配分が行われるなど、息つく暇もないというのが正直な感想ですね。

 それでも東京オリンピック、パラリンピックの決定や久しぶりの大型契約であるA350の導入を発表できたことなどうれしい話題もありました。

-- 羽田の発着枠問題が出ましたが。

植木 今まで羽田の国際線発着枠は、日本航空と全日空とで半分ずつ使っていました。新たに40枠でき、日本と海外の航空会社でまずは20枠ずつの配分、そしてこの20枠をこれまでのルールで言えば均等配分で頂けるものだと思って、計画を進めていたわけです。しかし、残念ながら11対5の傾斜配分になりました(残り4枠の配分は2013年11月12日現在未決定)。

羽田発着枠に対する疑問

-- 不自然さを感じましたか。

植木 貴重なので、ひとつでも多く欲しいのはどこの航空会社でも当然だと思います。

 3年半ほど前に経営破綻して、「何を今さら」と言われる方が多くいらっしゃるということは認識をしておりますが、公的支援を頂いて立ち直った当社だからこそ、新たな国際線の発着枠を国民の貴重な財産ととらえたときに、どういう配分があってしかるべきか。国民の利便性、国益の最大化を考えた結果、均等配分であるべきだと、そう主張していたわけです。お客さまの目線に沿ってお話しさせていただいたわけです。

-- 決定の経緯、判断基準について国土交通省に要望書を提出しましたが。

植木 是正申し入れ書を提出したのは、個社の利益をベースに申し入れさせていただいたわけではなく、これが本当に正しい姿かということを問いたいと思ったからです。

 もちろん、今回の傾斜配分に対する合理的な説明も頂きたいですし、さらに発着枠配分の考え方、従来示されていた(昨年8月に出された国交省のガイドライン)内容に加えて、今回新たに「新規路線に関しては『抑制的』に判断する」という一文が突然加えられています。その文書は初めて見ましたし、説明を受けたこともなかったもので、承服しがたい部分があります。

 その文書をそのまま理解すると、今後われわれはどの空港においても、新規路線は飛ばせない。自由な事業運営に制約がかかってしまいます。文書の意味を明確にしなければ、来年の計画も作れないということです。そこをハッキリさせなくてはいけないと思っています(11月12日現在、国交省からの回答に対し、対応を検討している)。

 

植木義晴・JAL社長の信念 

 

意識改革によって社員が変化

-- 社内に目を向けて、会社が随分変わった印象を受けますが。

植木 構造改革では、部門別採算制度をとるなど確実に利益を生み出せる仕組みに変えていきました。また、社員が変わったといわれるのは、意識改革に取り組んでいるからではないでしょうか。

-- 以前のような官僚的な面がなくなった気がしますが。

植木 会社が潰れたんだと、認識したことが一番大きなことだと思います。1便も欠航することなく、再建の道を歩ませていただいているんだ。潰されたのではなく、私たちが潰したんだ。私たちに責任があるという自覚をしたんです。

-- 意識改革といえば、JALフィロソフィが話題になりましたが。

植木 JALフィロソフィの前に、10年の夏頃からJALグループ企業理念をもう一度考え直しました。以前も企業理念はありましたが、心の底まで沁みこんだものではなく、理念が存在することすら忘れていました。

 日本航空は誰のためにあって何を目標にするのか。シンプルな文章をつくりました。今、どの社員に聞いてもそれを答えられるはずです。

-- どのような言葉ですか。

植木 まず「全社員の物心両面の幸福を追求する」という言葉を掲げました。当然ですが、かなり反発がありました。

 これから大きなリストラが始まりますし、債権放棄のお願いなども始めなくてはならない時です。多くの方からの支援を頂かなければならない会社が、最初に「社員の幸せ」を願うことを掲げていいのだろうかと。

 しかし、JALが一番失っていたものこそが、それだったんです。

 もう一度この会社を立て直すために必要なものがここにあるんだ。反発を受けるかもしれないけど、冒頭に掲げようと、経営の決意を表明しました。

 会社として「社員を大事に思っているよ」「社員が一番大事だよ」と、そのような状態でなければ、お客さまに対して最高のサービスをご提供することはできないじゃないですか。

-- 株主の反応は。

植木 「お客さまに最高のサービスを提供します」、「企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します」と続くのですが、この言葉を実現するために、社員と会社が一体化する、それによって最高のサービスが生み出せる。それが、企業価値を向上させ、その結果、株主の方々に還元して喜んでもらうことができると考えたんです。だから、最初に必要だったのが社員へのメッセージだったんです。

JALフィロソフィを実践するための取り組み

-- JALフィロソフィは何が書いてあるのですか。

植木 40項目あるのですが、難しいことは書いていないんです。「それ違うよ」なんて思う言葉はないですね。だけど、実践することは難しい。シンプルなだけに難しいんですね。

-- 実践するためにどんな取り組みをされていますか。

016_20131217_02植木 今までJALになかったことですが、職種も年齢も役職も会社も違うJALグループの社員3万2千人が「JALフィロソフィ教育」と呼ばれる同じ教育を年4回受講しています。しかも職種の異なる社員が1つのテーブルを囲み、ディスカッションを中心に学んでいます。当然、私も含めて役員も交じって学んでいるんです。

 さらに、どうすればより良い仕事ができるか、自主的に勉強会を行っていますね。朝礼なんてものもない会社でしたが、社員同士で情報を共有する文化も生まれています。そうすると、面白いもので、メールのやりとりをしても文面にフィロソフィの言葉が使われるんですね。

 例えば、フィロソフィの中に「土俵の真ん中で相撲をとる」という言葉があります。土俵際に追い込まれる前に日々努力して、ちゃんと真ん中で相撲を取りましょう、という意味なんですが、報告書の提出ってだいたい締切り間際になって、深夜にメールで届くんですね。そこに、「今回も土俵の真ん中で相撲が取れませんでした」という一文が入ってくるわけです(笑)。

 頭の中に入っているだけではだめで、自然に出てくるようにならなければだめですね。

-- 社長自身はどのように使っていますか。

 

一番必要なのは社員が幸せを感じること

 

植木 僕自身は、いつもひとつのフィロソフィ「人間として何が正しいかで判断する」を思い出します。

 多くの会議に出て、一つひとつ社長として結論を出していかなければなりません。そんな時に、「この決断は人として正しいのかな?」と思い返し、そこに他のフィロソフィをひも付けて正しい結論を導き出していくようにしています。

-- 今後、破綻を知らない社員が増えた時にこの文化を残せますか。

植木 私の話でいえば、何かの役職に就いた時、例えば社長になった時から自分の後継者を考え続けるようにしています。

 JALのパイロットには常に後進を育てる文化があります。万一機長がフライト中に倒れた時には副操縦士が1人で着陸を行うわけですから、機長は常に副操縦士を育てるわけです。そういう文化を共有できればいいのですが、人間には慣れやおごりがあります。だからこそ社員が破綻を経験して危機感を共有している今、学びの姿勢、お客さまへの感謝の気持ちをJALの「文化」、「風土」にまで高めていきたいと思っています。

 構造的には部門別採算制度、精神的にはJALフィロソフィを受け継いでいきたいと思っております。また、トップの本気を社員にどれだけ感じてもらえるかも重要なことですね。

-- 「世界一選ばれ、愛される航空会社」を目指していますが、何が一番必要ですか。

植木 社員が幸せを感じることだと思います。

 「自分の会社好きじゃないや」、「この仕事面白くないや」と思う集団にお客さまが魅力を感じてくださることはないんですから。そして、わが社が破綻前と比べて変わったところが、まさにこの部分だと思っています。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る