政治・経済

日本原子力発電が敦賀発電所(福井県敦賀市)地下の破砕帯をめぐり、原子力規制委員会と、その事務方の原子力規制庁への対決姿勢を強めている。国の命運を握る重要課題にもかかわらず、建設的な議論ができない理由はどこにあるのか。 (ジャーナリスト/神田次郎)

敦賀発電所をめぐり原電と規制委の対立は深まるばかりだ(写真:時事)

敦賀発電所をめぐり原電と規制委の対立は深まるばかりだ(写真:時事)

かみ合わない議論

 原子力規制委員会は5月、敦賀2号機建屋直下の破砕帯を活断層と断定。その後、日本原子力発電が活断層ではないとする独自の追加調査結果を提出し、再検討の審議が始まっている。この間、原電が規制委に対して公開質問状や異議申し立て、情報開始請求などを連発。これを規制委がすげなくかわし、再び原電が反発するという構図が繰り返されている。

 両者が直接、対峙する会合でも双方の主張は全くかみ合わない。そもそも両者がどのような目的で話し合うのか、そのスタート時点で情報が共有されていないのだ。典型的なのが、規制庁が8月30日に原電の追加調査報告の中身を吟味した検討会合だ。

 説明の合間に原電側から、何度も「この場の位置付けがよく分からない」「この次はどうなるのか全体像が分からない」など、会合の趣旨を確認する質問が出て、その都度、議論がストップ。揚げ句の果てには、会合が2時間以上も経過してから、原電の幹部が「そういうこと(規制委がこの会合をどう位置付けているのか)を示してほしいと最初から申し上げているが、それがないから、どこまでこの場で説明したらいいのかが分からない」と言い出す始末。敦賀発電所の生死を握る重いテーマの会合とは思えないような有り様だ。

 本来なら、事前に両者の代表者が会合の目的を明確にした上で、議論に入るのが本筋だ。しかし、規制庁は被規制者である事業者との事前折衝を嫌う。両者が一定の人数以上で直接面談した場合はその内容を逐一、報告書にまとめてネット上に掲載しなくてはいけない。トップの田中俊一委員長ですら、公開義務が生じることを気にして、委員同士が3人以上集まって話し合うことを避けているくらいだ。

 しかも、規制庁にとって原電との事前面談では大きなトラウマがある。2月に当時の名雪哲夫審議官が原電に対し、次の会合の報告書案を事前に手渡したとして更迭された一件だ。会合の議論をスムーズに進めるためとして、便宜を図ったものだったが、発覚後は世論から猛反発を受けた。「羮に懲りて膾を吹く」ではないが、こうした件もあって、両者の関係はすっかりさび付いた歯車のようになってしまった。円滑なコミュニケーションがとれず、本来なら事前の打ち合わせで確認するような些細な事項も、原電側は公の会合の場で恐縮しながら尋ねるしかない。

 この結果、当然のように会合時間は延びに延びまくり、会合は4時間超に及んだ。その中では規制庁側から原電に対し、「この(追加調査)報告書をどうするつもりなのか」といった発言も飛び出した。このぞんざいな扱いに、原電関係者も後になって「それを聞きたいのはこっちのほうだろう」と激怒した。

 さらに、議論が佳境を迎えると、規制庁側から原電の報告書について「今、初めて見るので……」「始まる数十分前に頂いたので……」といった発言が立て続けに出て、議論が腰折れした。これには原電もぶち切れたのか、翌日になって、すかさず「報告書の資料提出に係る事実関係について」と題したニュースリリースを配布。そもそも報告書の提出が直前になったのは、規制庁側からの条件提示が前日であり、全く時間がなかったことに加え、規制庁から「当日の資料を事前に説明する必要はない」旨を言われていたと暴露した。リリースの文末には「当社にのみ一方的に非がある、あるいは、出し渋ったかのようにも受け取られかねない発言は、公平・公正さを欠くものである」という強い口調で批判した。

もはや子どもの喧嘩

 ここまで来ると、意地の張り合いを通り越し、もはや子どもの喧嘩の様相を呈してくる。もっとも規制委と規制庁は原電の批判を黙殺し、大人の対応でいなしている。

 しかも、規制委は原電以外にも各電力会社の原発の審査や東京電力福島第一原発の事故収束、敦賀以外での活断層調査など、数多くの業務を抱えている。原電のみにエネルギーを割くわけにはいかない。

 ただ、ここに来て原電側が新たな一手を繰り出してきた。9月13日に規制庁に対する「情報開示請求の結果について」と題したリリースを発表。規制委が活断層と判断した論拠の1つに重大な疑義があると主張してきた。原電は活断層と判断した有識者会合の有識者の1人が、火山砕屑物研究の第一人者である大学教授と交わした電子メールの全文公開を要請。規制庁側はメールが私文書であるという理由でこれを拒否した。このメールで大学教授は、原電の示した反論データの信頼性が低いとの見解を記載。規制委側にとっては、これが「活断層ではない」とする原電の主張をはねつける根拠の1つになっている。

 だが、原電はこのメールの前後に何か重要な文章が記載されていると推測。と言うのも、この大学教授の見解がメールからコピーアンドペーストしたものであり、「規制委や有識者が自らに都合の良い箇所だけを抽出したのではないか」と疑っているのだ。確かに、公開されている大学教授のコメントの書き出しにも「詳細が不明なので、あまり正確なコメントにならないと思いますが……」と書かれている。さらに原電は「百歩譲ってそれが私文書なら、信頼性に足るものではなく、活断層と判断した論拠ともなり得ない」と揺さぶりをかけ、メール全文の公開を迫っている。

 もっとも、規制庁側は「情報公開法に基づいて適切に対応する」「私文書かどうかということが論点ではない」とにべもない。原電側は「情報公開法の原則開示の精神に則り、今後も開示を強く求めていく」方針。状況によっては、子どもの喧嘩で収まらない可能性も出てきた。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る