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朱建栄教授の拘束事件

愛国者で知られる朱建栄教授が拘束

消息不明となっている朱建栄氏(写真:時事)

消息不明となっている朱建栄氏(写真:時事)

東洋学園大学の朱建栄教授(56歳)が、7月17日に中国の上海に渡航した後、消息が分からなくなっている。9月13日付「朝日新聞」は、本件についてこう報じた。

〈日中関係筋によると、朱氏は7月17日、日本から上海に到着した直後、空港で中国国家安全当局に拘束された。上海在住の大学時代の中国人の知人から「話したいことがある」と誘われ、訪中したという。

朱氏は上海出身で中国籍。中国外務省の洪磊副報道局長は11日の定例会見で日本メディアの質問に対し、「朱建栄氏は中国の国民だ。中国国民は国家の法律と法規を順守しなければならない」と述べ、当局の取り調べを受けていることを強く示唆した。

容疑については、中国で複数の軍関係者と接触し違法な情報収集をした疑いや、非公開の情報を日本政府関係者に提供した疑いなどが取りざたされている。朱氏は中国人学者らでつくる日本華人教授会議の元代表。1986年に来日し、東洋女子短期大学助教授を経て、東洋学園大教授を務めている。〉(9月13日『朝日新聞デジタル』)

筆者が信頼できる中国筋から得た情報は、朝日新聞の報道とは少し異なる。朱教授は、上海の空港で拘束されたのではなく、7月18日の午後4時に上海の国家安全局(国家安全部[秘密警察]の出先機関)に呼び出され、その時点から外部と一切連絡が取れなくなったということだ。日本の政府機関に中国の秘密情報を流したという嫌疑がかけられているようだ。

朱教授の政治的立場は、中国政府に近い。評論家の中では朱教授を「中国政府の代弁者だ」と批判する人もいる。朱教授は、中華人民共和国の愛国者である。それだから、いかなる状況においても自国政府の立場をできるだけ日本人に理解させることに発言の力点を置いていた。

もっとも国家安全部からすると、中国政府を熱心に擁護する朱教授の言説が、日本のスパイであることを隠蔽するための偽装に見えるのであろう。

朱建栄教授拘束の背後にある国家安全部の謀略

筆者は、鈴木宗男事件に連座して2002年5月14日に東京地検特捜部に逮捕されるまで『世界』(岩波書店)で、世界論壇月報という連載を朱教授たちと担当していた。

朱教授は私が逮捕されるとひどく心配し、獄中にメッセージと『史記列伝』を差し入れてくれた。苦しい状況に陥ったとき、どのように身を律したらよいかについて中国の先人から学べばよいとの朱教授の配慮だった。

また、筆者が保釈された後、朱教授たちが会食の席を設け、「佐藤さんのように日本の国を深く愛している人がこのようなことになった。僕はほんとうに悲しいです」と声をかけてくれた。当時は誰もが筆者と会うことを忌避していた時期だ。朱先生の温かい言葉がうれしかった。

朱教授が対日政策をめぐる中国政府の内部抗争に巻き込まれてしまったのではないかと筆者は懸念している。中国筋は、段階的に朱教授が拘束された可能性、日本のスパイ容疑がかけられているなどという情報をリークしている。日本の政府とマスメディアがどのような反応をするのか探っているのであろう。

そして、国家安全部は、大きな事件に仕立てるか、それとも、事件化せずに静かに処理するかについて、慎重に検討しているのだと思う。

朱教授は、中国外交部(外務省)とは良好な関係を持っている。朱教授が日本のスパイという話を作れば、対日政策において国家安全局が外交部を牽制することができる。

また、「朱建栄教授のような中国政府よりの知識人でも弾圧されるならば、中国に少しでも批判的な見解を述べたら、どのような目に遭わされるか分からない」と中国の日本専門家は、強い不安を抱くようになる。日本に在住している中国人たちも、政治的発言に関して慎重になる。国家安全部にとっては、一石二鳥の事件になる。

日中の心ある人々が力を合わせ、国家安全部の謀略を粉砕しなくてはならない。

朱教授の夫人は日本人で、2人の子どもも日本国籍を持っている。朱教授も日本の永住権を持っている。政府は人道的観点からも、朱教授を一日も早く日本の家族のもとに戻す努力をすべきだ。

 

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