文化・ライフ

2020年東京夏季五輪開催が決まり、帰国記者会見でのパラリンピック陸上走り幅跳びの佐藤真海選手

2020年東京夏季五輪開催が決まり、帰国記者会見でのパラリンピック陸上走り幅跳びの佐藤真海選手(写真:時事)

 職業柄、会う人ごとに「7年後、東京にオリンピックがやってきますね」と言われる。パラリンピックも一緒にやってくるのだが、それについて聞かれることは少ない。

 実は1964年も、東京オリンピックの後にパラリンピックは開催されている。60年ローマ大会に続く第2回大会だった。

 約半世紀前、日本における障害者スポーツの認知度は低かった。パラリンピックがどんな大会なのか、ほとんどの国民が理解していなかったと言っても過言ではない。

 当時を知る関係者から、以前こんな話を聞いた。

 「東京パラリンピックの時、米国やカナダといった先進国の選手たちが職業を持っていることに、日本の選手たちは非常に驚いたそうです。しかも結婚して、子どもまでいる。病院で過ごす自分たちとのあまりの違いに、大きなショックを受けたというんです」

 報道陣が義足や車いすのパラリンピアンにカメラを向けると「障害者を見せ物にするな」と、役員から詰め寄られることもあったという。つまり「障害者スポーツ」とは名ばかりで、パラリンピックと言えどもリハビリテーションの一環という位置付けにすぎなかったのだ。

 現在もパラリンピックは厚生労働省が所管している。その意味では、行政の対応に大きな変化はないのだが、少なくとも選手の意識は様変わりした。

 ブエノスアイレスでの最終プレゼンテーションで名をあげたパラリンピック陸上選手の佐藤真海はロンドン大会後、再渡英し、障害者スポーツを取り巻く状況をつぶさに調査した。

 「あらためて〝英国ってすごいな〟と思いました。パラリンピック後も各地域でスポーツのイベントを行っていたんです。私が訪ねたのは英国パラリンピック協会主催のスポーツフェスタ。パラリンピックの全種目が体験できるブースがあり、そこには代表クラスの選手とコーチがいました。パラリンピックを一度限りのイベントで終わらせるのではなく、その後は一般の陸上クラブに障害のある子が入っていく仕組みになっていました」

 佐藤は、その足で障害者スポーツ発祥の地といわれるストークマンデビル病院をも訪ねた。そこにはリハビリ施設の他、スタジアムや体育館もあり、障害者、健常者の分け隔てなくスポーツを楽しんでいた。それが彼女の目には新鮮に映った。

 「この病院ではリハビリ施設にスポーツタイムテーブルが貼ってあり、月曜から金曜までバスケット、テニス、ラグビー、卓球、車いすの基本操作など、たくさんのクラスが用意されていました。希望すれば、誰でもそこに参加できるのです。

 病院を出てからも障害者はスポーツを楽しむことができます。地域の陸上クラブには障害者も入会することができ、健常者と一緒になって跳んだり走ったりしていました。そこではコーチたちも健常者、障害者の区別なく、普通に指導していました」

 射撃の田口亜希も佐藤同様、アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場している。今年3月、IOC評価委員会が来日した際には、パラリンピアンの代表として東京招致のプレゼンテーションを行い、高い評価を得た。

 その田口がロンドン大会で注目したのが「ボランティア」だ。これを彼の地では「ゲームズメーカー」と呼び、運営を下支えしていたという。

 なぜゲームズメーカーなのか?

 田口の解釈はこうだ。

 「彼ら、彼女らはただ上から言われたことを忠実にこなすのではなく、自発的に行動していた。要するに選手や観客と一体となってゲームをつくるんです。

 私はエアライフルの試合の時、調子が悪くて、一番最後まで撃っていた。撃ち終わった時、最初に称賛の声をあげてくれたのがゲームズメーカーの人たちでした。それを合図に観客から拍手が起きました。点数が悪くてがっくりきていた私が笑顔で会場を後にできたのは、その歓声と拍手のお陰でした」

 彼女は東京オリンピック・パラリンピック開催決定を受け、次のような期待を抱く。

 「日本がひとつになって盛り上がるのではないでしょうか。パラリンピックも障害者だけでなく、子どもや被災地の方々など日本国民全員がゲームズメーカーとなって盛り上げることができれば、と考えています」

 以前にも書いたが、64年の東京大会は開発型だった。戦後の復興と高度成長を世界に発信したという意味では成功だったと言えよう。

 しかし、この手は2度と使えない。前回のキーワードが「成長」なら、今回は「成熟」だろう。障害者や高齢者にもやさしい都市の姿を世界に披露しなければならない。

 ある意味、成功のカギを握るのはオリンピックよりもパラリンピックだとも言える。 (文中敬称略)

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