文化・ライフ

人を見て法を説いた川上哲治

巨人V9時代を支えた長嶋茂雄(左)と王貞治(右)/写真:時事

 これまで球界の盟主としてプロ野球をリードしてきた。日本一は22回。2位の埼玉西武(西鉄時代を含める)が13回であることを考えれば、いかにこの球団が偉大であるかがうかがえる。

 栄光に包まれた歴史の中でも、1965年から73年にかけてのⅤ9は白眉と言っていいだろう。言うまでもなく、その中心にいたのはON(王貞治と長嶋茂雄)である。

 両雄並び立たず、と言う。しかし、この2人に関しては、まるでそういうことがなかった。切磋琢磨しながら、互いを高め合った。理想的なライバル関係と言っていいだろう。

 東映時代に完全試合を達成したこともある高橋善正は28歳で巨人に移籍した。目の当たりにして驚いたのはONの練習量だった。

 「王さんと長嶋さんはキャンプでも率先して練習し、紅白戦もオープン戦もフル出場する。しかも、あれだけの選手でありながら、少しも偉そうなところがない。ONがあれだけ真剣に練習しているんだから、誰も手を抜くことなんてできなかった」

 天才型の長嶋と努力型の王。だが、こと野球に打ち込む真摯な姿勢だけは一致していた。

 チームを率いた川上哲治の指導法も見事だった。2人の性格を見抜いた上で、要所要所で適切なアドバイスを行った。

 以下は生前、本人から聞いた話。

 「長嶋はね、私が下宿を世話したし、プロ1年生の時は私の車に乗せて一緒に後楽園までつれていった。その行き帰りの中で、プロ野球についての考え方から社会人としての生き方までアドバイスした。

 だから少しぐらい叱ったって平気だろうと思って、私もビシビシやった。まぁ本人も〝またオレのことをダシにして他の選手に聞かしとるな〟くらいにしか受け取ってなかったでしょう。一度も落ち込んだりはせんかったですよ。

 しかし王は、そうはいかない。人前であんまりガミガミ言うと考え込んでしまう。だから王を叱る時にはちゃんと陰に呼んで〝キミのやったことは、このへんが間違っとるんじゃないか〟と理詰めで聞かせた。

 そのかわり、一度納得すると、試合では確実にやってくれる。この姿は見事だったですよ」

 人を見て法を説け――。川上は指導にこの手法を用いたのである。

 2人の背中を追い続けた脇役たち

  主役が決まれば、おのずと脇役も決まる。これは映画と一緒だ。柴田勲、土井正三、黒江透修、森明彦(祇晶)、高田繁、末次民夫(利光)などV9巨人には〝いぶし銀〟の脇役が揃っていた。

 彼らはONを立てつつも、一切、遠慮はしなかった。それがチームに緊張感をもたらせた。

 5年前に67歳で他界した土井はこんなエピソードを披露してくれた。

 「あれは僕がまだショートを守っていた時のこと。長嶋さんはバッティングの調子が悪くなると、守っている時にグラブをバット代わりにしてスイングをチェックするんです。ピッチャーの投球なんてお構いなし。

 そんな時は僕の出番です。〝サード、何やってるんだ!〟。本気で怒鳴りましたよ。長嶋さんは〝ウン、ウン〟なんてうなずいて、バツの悪そうな顔をしていました。

 王さんも同じです。王さんはスランプに陥ると下を向くクセがあった。ファーストを守りながら、ずっと地面をならしているんです。〝ファースト、ピッチャー放るやないか!〟と注意すると、〝いや、オレんとこには飛んでこないよ〟なんて言ってましたよ」

 それでも脇役たちの主役への尊敬の念が薄れなかったのは、冒頭でも紹介した両雄の〝練習態度〟だった。

 「当時、遠征先の旅館は3人部屋でした。バットは床の間に置いてある。夜中にブーン、ブーンと音がして、振り返ると長嶋さんが一心不乱にバットを振っている。起き上がったら(バットが当たって)殺されるんじゃないかと思ったものです。王さんの練習も鬼気迫るものがありました」

 彼らはONの背中を必死になって追い掛けていたのである。

 この先、果たしてV9巨人を超えるチームは出現するのか。強いだけでなく、「巨人、大鵬、卵焼き」のキャッチフレーズに代表されるような国民的チームは現状では困難だろう。というのも、プロ野球の世界において既に〝東京一極集中〟の構図は崩壊し、地域密着の度合いは年々、強くなっているからだ。スターはFA権取得を待たずにMLBに活躍の場を求める。

 ローカルとグローバル。球界には、この2つを視野に入れた未来戦略が求められる。

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