マネジメント

多様な資金調達・財務 戦略へのニーズの高まり

 J-REITは、一般投資家でも小額の投資資金で不動産投資ができるようにとの考えから始まりました。J-REITの投資商品としての性格に照らし、例えばJ-REITが転換社債(新株予約権付社債)やワラント(新株予約権)を発行することや、自己投資口を取得(株式会社の自社株買いに相当)することは、必要性がないとの理由から、現行の「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)では認められていませんでした。

 J-REITは、保有不動産からの賃料収入などを利益の源泉にしますが、銀行借入などでレバレッジを40%から50%程度かけることで、投資家のリターンを高めています。リーマンショック後の信用不安の経験を経て、どのような運用資産を保有するかというアセット面だけでなく、デット面の安定性をはじめとする財務戦略の巧拙がJ-REITの運用成績や市場価格に重要な影響を及ぼす、との考え方が投資家・J-REIT関係者に浸透し、より多様性のある資金調達・財務戦略の手段をJ-REITに認めるべきとの声が高まっていました。

来年12月までに施行される改正投信法のポイント

 改正投信法では、J-REITにライツ・イシューによる資金調達を認めるとともに、自己投資口の取得による投資家への還元や名目上の減資という新たな財務戦略の手段が与えられることになりました。公布の日(2013年6月19日)から1年6カ月以内に施行されます。以下、改正投信法を説明します。

【ライツ・イシュー】

 株式会社で既に認められているライツ・イシューとは、株式会社がその既存株主全員に対し、権利行使価格の支払いと引換えに株式を取得できるオプション(新株予約権)を無償で割り当てて、新株予約権を行使した株主から会社が権利行使価格の支払いを受けることで資金調達を行う増資方法です。

 通常、権利行使価格を市場価格より低く設定し、株主に新株予約権を行使するインセンティブを与えます。新株予約権を割り当てられた株主がその行使を望まない場合は、市場で新株予約権を売却できるため、一般的には増資による希薄化を緩和し、既存株主の利益にも配慮した増資方法と言われています。以前はほとんど活用されていませんでしたが、法律や取引所規則の改正により、近年は株式会社で実施例が増えています。

 今回の投信法改正では、J-REITの運営を安定させる資金調達方法の多様化を目指し、信用収縮時にも比較的確実に資金調達を実現できる手段としてライツ・イシューが認められることになり、J-REITでも新株予約権と同様のオプション(新投資口予約権)が発行できるようになりました。

 ライツ・イシューで新投資口予約権を割り当てられた投資主は、行使して権利行使価格を支払い投資口を取得するか、新投資口予約権を市場で売却することができます。また、新投資口予約権には発行者のJ-REIT側のコールオプション(取得条項)を付すことも可能で、一定期間中に行使されなかった新投資口予約権をJ-REITが強制的に取得して証券会社に譲渡し、証券会社がそのすべてを行使する形で資金調達を行う、コミットメント型のライツ・イシューも想定されています。

【自己投資口の取得】

 これまでJ-REITでは、特定の限られた場合を除いて投資法人が自らの投資口を取得することは禁止されていましたが、今回の改正で投資法人は、規約(株式会社の定款に相当)に基づく投資主との合意、取引所での売買や公開買付けなどを通じて、比較的自由に自己投資口を取得できるようになりました。

 自己投資口取得の容認は、金融市場の動向が投資口価格に与える影響を緩和し、流通投資口の削減による1投資口当たりのリターンを向上するとともに、割安投資口の放置を許容しないというシグナリング効果などがあるといわれ、J-REITの運営安定につながることが期待されています。

【減資】

 今回の改正では、J-REITによる投資法人の財産を減少させない出資総額等の減少(無償減資)の実施も認められました。運用不動産の時価が大幅に下落して減損処理が行われた場合、累積損失をその後の利益で解消するのに長い期間を要し、税務・会計処理の不一致からJ-REITに高額の法人税が課される可能性があります。こうした問題を解消するため株式会社と同様、J-REITにも欠損填補目的の減資を認めるべきとの指摘がされていました。

 詳細は今後の内閣府令を待つ必要がありますが、投資法人の損失(貸借対照表の出資総額と出資剰余金の合計額から純資産額を控除した額)の全部か一部を出資総額等から控除することで処理が可能となります。

【見送られた事項】

 法改正を議論した金融審議会のワーキング・グループは、ほかにもJ-REITの転換投資法人債や種類投資口を認める可能性を模索しました。ただ、株式会社に比べて簡素なJ-REITのガバナンス構造では、さまざまな投資家の利益のバランスを図ることが難しいことから、これらの制度の導入は時期尚早とされ、今回の改正では見送られました。

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