マネジメント

都市問題解決にビジネスの視点を

 

 イノベーションとは壮大な技術革新だけでなく、身近な問題を小さなアイデアで解決することも立派なイノベーションである。

 そうした小さな取り組みが、新たな技術や社会基盤に支えられているならば、インパクトも大きい。今回は、米国フィラデルフィアにあるテンプル大学の友人であるヨンジン・ヨー教授が始めた画期的取り組みについて紹介してみたい。

 米国大都市における黒人やヒスパニックさらにはアジアや中東系移民が集まるマイノリティー居住区は危険地帯の代名詞でもある。

 貧困の悪循環、銃犯罪、麻薬取引などがあふれるイメージが強い。そんな場所には近寄るのも恐ろしい。

 しかし、スラム化する都市が抱える問題は、米国ばかりでなくあらゆる国において大きな問題となりつつある。この問題に、新しいテクノロジーを使って切り込もうという試みがフィラデルフィアで始まった。

 テンプル大学のフォックス・ビジネススクールでは地域の多様なコミュニティーを巻き込んだ都市型ベンチャーを創出するプラットフォームづくりが進められている。都市型ベンチャーというと何かソフトウェア開発を中心とした若者ベンチャーを思い浮かべるが、ここでいう都市型ベンチャーとは、深刻化する都市問題を、大学教員や学生だけでなく地元コミュニティーリーダーや一般市民が立ち上げるベンチャー企業のことである。

 こうしたアイデアが生まれた背景には最近の3つの大きな変化があるという。

 1つ目の変化は都市問題をイノベーションの源泉と見る考え方の登場である。このコラムでも述べてきたように、インドやアフリカといった新興市場の超低所得者層BOP(ベース・オブ・ピラミッド)が21世紀イノベーションの温床として見直されている。

 ヨー教授は、都市部の深刻な問題も同様にイノベーションの源泉だと説く。

 確かに、大都市で深刻化する高齢者問題や医療費の急増、老朽化した建物や放棄された空き家や空き地、貧困や犯罪によって中退(ドロップアウト)してしまう多くの高校生、さらには仕事とチャンスを求めてやってくる移民たちが形成するマイノリティー居住区。こうした問題は米国だけでなく、世界の大都市が抱える深刻な問題である。

 日本では問題がそれほど顕在化していないが、実は東京・池袋周辺の高齢者の独居問題や大久保周辺のマイノリティー居住地も既に危険水域を超えている。

 したがって、往々にして海外の新興国マーケットに向きがちなビジネスの視点を、もう一度自分たちの足下にある都市問題に向けようという変化が出てきているのである。

 

都市問題解決にアプリ経済のインパクトを応用

 

 2つ目の変化の背景は、アプリ経済の誕生である。

 ヨー教授たちは都市問題をこれまでの延長線上で解決しようとしているわけではない。この問題解決に、これまで存在しなかったスマートフォンによってもたらされたアプリ経済のインパクトを応用しようとしているのである。

 このアプリ経済とは、アップルやグーグルの提供する簡単なソフトウエア開発ツールとインターフェースを使って、ユーザー自身がそれぞれ独自のアプリケーションを開発し、有料あるいは無料で公開することによって回り始めた経済社会のことである。今後スマートフォンの普及とともにアプリ経済は新たなスマート機器の続々と生み出しながら継続的に拡大すると考えられているのである。

 ヨー教授たちは、このアプリ経済の成長は、広がり続ける経済格差に取り組む上で、ユニークな切り口を提供してくれると考えたのである。スマート機器に組み込まれたアプリの組み合わせは、以前は不可能だと思われていたイノベーションの創造を可能にするからである。

 3つ目の背景は、政府系機関や地方自治体による積極的なデータ開示という変化である。米国では多くの政府機関が彼らのデータベースをネットで公開している。例えば連邦政府が公開しているサイトでは、13年7月時点で172政府機関による18万3708以上のデータベースを公開しているという。

 ヨー教授たちはテンプル大学で教職員・学生に加えて地域コミュニティーのメンバーからなるワークショップを開催し、こうしたデータとグーグルマップなどの既存アプリを組み合わせたアプリ開発のアイデアを募り、地域を活性化し始めたのである。

 具体的には、都市部で放棄された土地を自治体のデータと連携して検索し、それらを農地に転換するオークションサイトであったり、地域老人の健康をチェックする高校生を組織化するソーシャルネットワークを形成し、彼らのモチベーションを高めるためのゲーム化(いわゆるゲーミフィケーション)アプリを開発させたりしているのである。

 日本でもアプリ開発が盛んになってきているが、ゲームや利便性追求アプリが多い。都市問題など社会的課題を解決するようなアプリ開発を大学や地域コミュニティーが中心になって行い始めた米国のダイナミズムは見習いたいものだ。

 

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