政治・経済

2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった。猪瀬直樹・東京都知事は「チームワークの勝利だ」と政財界一丸の取り組みを強調したが、財界の足並みは必ずしも揃っていなかった。東京五輪狂奏曲プロローグは心地良い余韻を響かせて終わったが、本題はこれからだ。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

東京五輪招致に消極的だった経団連

東京五輪開催が決まり歓声を上げる安倍首相(右から3人目)ら(写真:AFP)

東京五輪開催が決まり歓声を上げる安倍首相(右から3人目)ら(写真:AFP)

 9月8日午前5時30分過ぎ、司会のタレントで元テニス選手の松岡修造氏が声を張り上げた。「2020年オリンピック・パラリンピックを開催するのは?」場内は一斉に叫んだ。「東京!」

 東京都千代田区の東京商工会議所ビル4階の東商ホール。東京商工会議所のトップを兼ねる日本商工会議所の岡村正会頭は、2016年五輪東京招致で苦杯をなめ2回目の挑戦に成功しただけに「感慨の極みだ。今にも泣き出しそうだ」と顔をくしゃくしゃにして話した。

 エレベーター前や廊下ではスタッフたちが抱き合い、ハイタッチをしている。「2020年オリンピック・パラリンピック開催都市決定を迎える会」に真夜中の午前0時30分から集まった1200人の感激と興奮は頂点に達していた。

 東京招致成功で首都圏の再開発やインフラ整備、外国人観光客の誘致などに弾みがつく。設備投資や消費が活性化し、関連の雇用も増えるだろう。ゼネコンや流通など関係会社の株は上昇し、アベノミクスで回復し始めている景気にもいい影響を与えるはずだ。安倍晋三首相が10月上旬に最終決断するとしている消費税の増税もやりやすくなる。

 経済3団体も手放しの歓迎ぶりだ。経団連の米倉弘昌会長は「国民に元気と明るさをもたらし、東日本大震災の被災地の方々には、勇気と希望を届けることになる。大変喜ばしい」とコメントを発表。経済同友会の長谷川閑史代表幹事も「これからの日本を支えていく若い世代が活力を持つための希望と夢のきっかけになればいい」と期待をかける。

 だが、招致決定直前まで財界内は一枚岩ではなかった。

 日本商工会議所は、全国514商工会議所の総意として東京招致決議を採択し、お膝元の東京商工会議所でも特別委員会を設置し、東京都などの内関係機関と連携して組織を挙げた活動を展開してきた。ポスターやバッジなどの関連グッズを作成して配布し、東商ビル1階にカウントダウンカウンターを設け、1年前や半年前の節目には関係者や五輪メダリストを集めてイベントを実施するなど世論喚起に躍起だった。

 個人資格の会員で構成するため、かつてこの種の招致活動とは無縁だった経済同友会も今回は熱を入れていた。

 ローソン社長の新浪剛史副代表幹事を委員長とする招致プロジェクトチームには、LIXILの藤森義明社長、リクルートの峰岸真澄社長、森ビルの辻慎吾社長などが名を連ねてアスリートの就職支援など関連キャンペーンを展開。4月下旬の同友会総会後のパーティーには外務省や各国大使館の関係者を招いて東京への招致をアピールした。

 対照的に消極姿勢が目立ったのは経団連だ。

 米倉会長はアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会に旅立つ招致代表団を壮行する8月下旬のイベントまで表舞台に姿を見せず、応援団としてブエノスアイレスに人を送ったのも7日の総会直前だった。数日前から現地入りして投票権を持つIOC委員へのロビー活動に精を出した他団体の関係者とは対照的だ。

 日商の岡村会頭は前述のイベントで最前列に座り現地からの同地中継映像で招致決定の瞬間を見守ったが、米倉会長は4日に北京入りして唐家璇中日友好協会会長と夕食を共にし、東北部の長春市で開かれた国際見本市に出席し7日に帰国するスケジュールを優先した。

東京五輪招致の経緯で財界に溝

 最近でこそ景気回復の兆しが出てきたものの、昨年末までの円高不況のさなかでの資金集めは決して容易ではなかった。しかも資金はいくらあっても足りない。

 各国のIOC委員の背後にはエージェント(代理者)がついており、委員にPR攻勢をかけるだけでは期待する効果を上げることは難しい。

 「猪瀬(東京都知事)君が資金が足りないと頭を下げてきた」と有力財界人は語る。裏方に徹した経団連幹部は「民間企業から招致関連資金を集めたのはわれわれなのに日商はいいとこ取りだ」と不満を隠さない。

 招致は勝ち取ったものの、五輪関係の施設整備や大会運営などの準備と資金集めは「これからが本番」(安倍首相)だ。今年11月に任期切れを迎え、三村明夫新日鉄住金相談役に後を託すことになる日商の岡村氏は「いいバトンタッチができた。次期会頭には2020年の成功のために頑張ってもらいたい」と満足気だ。

 経団連の米倉氏も来年5月に新会長と交代し、同友会の長谷川氏も再来年の4月には退任予定だ。日本が再び輝きを取り戻すには財界ニューリーダーの融和が不可欠だろう。

 

【東京五輪】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る