政治・経済

 百貨店最大手、三越伊勢丹ホールディングスの業績が好調だ。同社が3月14日に発表した2月の売り上げ確報によれば、全店合計の売上高が106・2%と12カ月連続で前年を上回るなど復調軌道に乗っていることが見て取れる。好業績の要因はひとえに、同社を率いる大西洋社長が推進する〝百貨店改革〟の成果が現れているためと言ってもいいだろう。

 その大西氏が百貨店復権へのキーワードとして掲げるのが「原点回帰」。詳細はインタビューを読むことで認識できると思うが、同氏は百貨店が低迷してきた数多くの悪弊に次々とメスを入れ、百貨店の本来あるべき姿を愚直なまでに模索している。

 とはいえ、旧態依然の体質に慣れきってしまった自社スタッフはもちろん百貨店業界内には、この〝大西カンフル剤〟に対する抵抗感は強く、すんなりと推進できないという一面も否定できない。

 消費増税というマイナス要因の中、大西氏は、真骨頂とも言える突破力を武器に、いかに戦っていくのか興味をそそられる。  (聞き手・本誌=大和賢治 写真=西畑孝則)

大西洋氏は語る 顧客起点は百貨店の常道

-- 第3四半期としては最高益となりました。さらには、年明けからも売り上げは堅調に推移しています。好況感に後押しされている実感はありますか。

大西洋
おおにし・ひろし──1979年慶応義塾大学商学部卒業、伊勢丹入社。2008年三越常務執行役員百貨店事業本部MD統括部長・伊勢丹常務執行役員、10年三越伊勢丹ホールディングス取締役・三越伊勢丹代表取締役社長執行役員兼営業本部長を経て11年三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長執行役員。12年三越伊勢丹代表取締役社長執行役員(現任)

大西 あまりありません。むしろ、昨年からの業績好調は、自分たちが取り組んできたことに対し、お客さまのご評価を頂けた結果だととらえています。われわれが意識している百貨店の全国平均売り上げの伸びに対しても、数ポイント上回っていることが何よりの証左だと思います。

-- 基幹3店舗の中で、三越銀座店と伊勢丹新宿店は好調ですが、三越日本橋本店が波に乗りきれていない印象です。

大西 2店と比べ厳しいことも事実です。リモデルが遅れていますが、16年の秋、17年の春をめどに何らかの形を示したい。ただ、日本橋三越は銀座や新宿とお客さまが明らかに違います。日本橋はロイヤリティーの高いお客さまにご来店いただいておりますので、その方たちに、より満足していただける店づくりはもちろん、さらには新しいお客さまにも来店していただかなければなりません。

-- 具体的なMD戦略は描けているのですか。

大西 新宿や銀座では、ファッションにフォーカスすることに尽きますが、日本橋の場合は、それだけでは駄目です。そうすると真っ先に挙ってくるのが、文化・カルチャーです。例えば衣料品を売る時にも、〝日本橋ならでは〟の売り方や雰囲気を取り入れていく必要があるでしょう。日本橋というと呉服、宝飾、美術のようなイメージが強いですが、今度こそ、逆に衣料品という主力アイテムで日本橋らしさを出せるかが課題ですね。

ミスマッチは早急に修正したい大西洋氏

-- リモデルした伊勢丹新宿店も1年が経過しました。

大西 伊勢丹新宿店ファンは多いですが、一方で厳しい目を持たれているお客さまが大変多く、少しでも施策がズレていると感じると、たちまち厳しいご意見も頂くことになります。一方で流動性が高い店舗でもありますから、その按配が非常に難しい。常に、新しいものをやり続けていかなければいけない宿命を背負った店舗が伊勢丹新宿店なのです。1年前のリモデルで実施した自分たちの仮説と答えが違った場合は、早急に修正を加えなければなりません。

-- 具体的には。

大西 2階のフロアは、ターゲットとして考えていた20~30代の客層以上に40~50代のお客さまが多かった。売り上げ好調とはいえ、仮説とは違います。早急に修正して20代の方への訴求を行わなければなりません。

 一方、4階ですが、仮説でのターゲットは50~60代。お買い場の面積を縮小し、限られたスペースでお買い上げいただくという発想でした。ところが面積を35%縮小したのですが、対前年比の売り上げは100%を超えてしまいました。自分たちの思っていた以上にニーズが高かったということになりますから、「お買場(売り場)」を拡張することが必要です。

 また、1階のハンドバッグ売り場を大きな平場(自主編集)にしたのですが、逆にそれがお客さまにとって分かりづらいという声が出ています。ここも少しずつ修正していかなければなりません。

-- 5階のリビングもリモデルするとか。

大西 これから〝住〟というのは今後、生活の中心になってくる。しかし、現状の売上比率は1ケタしかありません。これを少なくとも10%以上にもっていきたい。リビングイコール百貨店というイメージを定着させる狙いもあり、今春にエスカレータ周りの情報発信スペース「パーク」をオープンし、今秋から本格的にリモデルしていきますが、完成後は来店客数の3割増を見込んでいます。

-- 1階のバッグ売り場ですが、好きなブランド1点狙いの顧客には買いづらいかもしれません。

大西 そういう指摘があることは承知しています。ですが、われわれとしては数ある商品の中から価値のあるものをお客さまに選んでいただきたいという思いがあるのです。1階のバッグ売り場は、ブランドにこだわらず、目で見て価値を見いだして購入される層が明らかに多い。しかし、これこそが百貨店の存在意義だと思うのです。1つ言えることは、百貨店のラグジュアリーブランドの在り方自体が、今後10年、20年で大きく変わっていくのではないでしょうか。だからこそ、自分たちが日本で作った〝ジャパンラグジュアリー〟に徐々にですが、取り組んでいるのです。

〝自主〟へのこだわりが強みと語る大西洋氏

-- 注力する自主編集売り場や自主企画商品の実現にはバイヤーの手腕が大きく左右します。業界でも御社のバイヤー評価は総じて高いですが、育成手法は。

大西 「オンリーMI」というオリジナルキャンペーンがあります。これはバイヤー自身、あるいは店頭スタッフと相談しながら商品化に取り組むものですが、本当に独自性の高い商品しか認められない。結局、この年に2回開かれる審査が難関です。現在では、営業本部長や統括部長が最終承認しています。これは人材育成の面では大変有益でした。糸の種類、それをもとにしたらどんな生地が生まれ、どんな着心地を持った商品に仕上がるか等、モノづくりを本当に勉強しないと審査は通りません。

 ただ一方で、デメリットもあるんです。「オンリーMI」の選定会の審査を通ったバイヤーが優秀なように見られる。しかし、バイヤーというのは別に、1年間にわたり、商戦を勝ち抜くための戦略である「シーズンプラン」の策定など、通常業務も存在します。余談ですが、私がバイヤーの頃、当時、MD統括部長だった武藤(信一氏・前社長)の抜き打ち面接がありましたが、これは厳しかった。絶対に褒めない人でしたから(私の部下に、反面教師と言っていたことは忘れません)。(笑)。

 言うなればそういうことを愚直にやってきたことが、人材育成につながったのではないでしょうか。とはいえ、時代も変わってきていますから、モノづくりだけではなく、販売も大事です。アシスタントバイヤーになるまでに、現在では、最低2年(通常3年程度)は販売の現場を経験させています。

-- 自主企画商品や自主編集売り場など・自主・へのこだわりは、売れなければメーカーに返品できる「消化仕入れ」という構造を変革する狙いと理解してもよいのですか。

大西 百貨店が低迷してきた原因の1つに同質化があります。仕入れ先にMDを丸投げしてリスクを負わなかった。返品に耐えられる大手は生き残ることができましたが、逆に規模の小さいところは淘汰されてしまった。生き残ったメーカーの商品を百貨店が一律に仕入れた結果が同質化の背景にあります。

 ですからこの同質化を崩していかない限り百貨店の再生は覚束ないと思います。お客さまのニーズをつかんで、自社で高品質の商品を作る。そういう意味からも自主企画・自主編集は、これからは重要だと思います。

 ただ、これも構成比を50~60%にするとなると現状の数倍の販売スタッフが必要となりますから一度にはできません。直近の目標としては20~25%くらいまでに引き上げたい。また、一方、売り上げ仕入れにしても、仕入れ先に丸投げせず「この商品を納入してください」と自分たちの〝Will〟を入れた発注を実践していきたい。

-- 苦戦していた地方店の下げ止まり感も出てきました。CPCC(商品の中央コントロール)の成果ですね。

大西 グループ23店舗のMDを横串でコントロールする支店グループ統括部の設置が大きいですね。仕入れ先も100%を消化できる店舗に優先的に商品を納入しますから、必然的に地方・郊外店の商品力は弱くならざるを得ませんでした。これが苦戦の要因でしたが、支店グループ統括部が、ここに介在、一括して商品を発注し、グループ店へ供給することで、ようやくMD格差を是正できました。

大西洋氏の思い 垣間見られる〝原点回帰〟

-- 営業時間を短縮し、休業日も設けました。

大西 出勤シフトが思うように組めない規模の小さいお取組み先様には、休業日がないと労働環境が過酷になりがちです。そういったお取組み先様に少しでもいい人材が集まるように働く環境を変えていきたいのです。当社の従業員についても同様です。これは最終的には、お客さまに十分なおもてなしとなって帰ってくるはずです。とはいえ、まだ2月と8月に、各々2日程度なので、もう少し増やす努力は必要です。

-- 〝原点回帰〟という意味ではクリアランスの後ろ倒しが波紋を呼びました。

大西 クリアランス云々と言いますか、百貨店は1年間52週あって、例えば4月の1週目なら、こういう商品が店頭に展開する、というように計画をしています。そうすると、一番寒いのは2月ですから、お客さまにコートを購入していただくためのMDをとるわけです。それを1月2日からクリアランスで安く売るのであれば、最初から正々堂々と上代の7割でプロパーで出せばいいのではないですか。クリアランスと銘打ち、上代から3割安く売っておいて、百貨店もお取引先も利益が出るのであれば、プロパーの価格が相当高く設定されていることを、お客さまに告白しているようなものです。われわれはそうではなくて、2月1日の一番寒い時期からクリアランスをやりたい。百貨店の本来あるべき姿を言っているだけなのです。

-- Eコマースにも注力すると宣言されています。

大西 〝リアルからネットへ〟みたいな言われ方をしていますが、最終的にはお客さまが使い分けることですから対立軸のようなとらえ方はしていません。ただ、伸びているチャネルであるので、力を入れていきます。これまでは、恥ずかしい話ですが、サイト上ではSKU(在庫の最小管理数)が5万~6万点しかありませんでした。早急に20万~30万点に増やし、現在の売り上げ100億円を300億円に伸ばしていきます。

 しかし、究極的にはITを使って自分たちがかかわれる何らかの新しいビジネスモデルを模索したい。そういう意味では一昨年、メディアの会社をつかったり、昨年は米国のSNSと組んで、当社の商品をプラットフォームに展開するなど、さまざまな試行錯誤を行っています。

 また、1月31日に発表しましたが、シリコンバレーに本拠を置くベンチャー支援会社WiLが設置した「WiL 1号ファンド」への出資を決めました。これはリターンを期待するわけではなくて、次世代型のビジネスモデルを模索することが狙いです。ネット上でリアル店舗と同じくらいのソフトあるいはサービスを付加できれば、消費市場で優位性を持つことができます。

-- 4月から消費増税が実施されました。

大西 もちろん経済環境や経済要件はこの商売では大事な要因ですが、それで一喜一憂していてもしょうがありません。それ以上に、百貨店が低迷を続けてきた本質的な課題の克服に注力すべきです。

 消費増税があったから売り上げが落ちたと言われないためにも、現在取り組んでいる仕入構造改革をさらに加速させ、販売についても百貨店でしかできない〝おもてなし〟を可能にする仕組みのもとで、最低でも増益は確保したい。

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