政治・経済

作家で、大阪府市特別顧問の堺屋太一氏がミナミの活性化で提案した道頓堀プール構想が暗礁に。2年後の道頓堀400周年を控え、川に巨大なプールを造り観光名所に、という計画に向け準備会社はできたが、資金面などハードルは高い。 (ジャーナリスト/田村浩二)

資金難と地元の反対

 道頓堀プール構想は、堺屋氏が昨年、ミナミの活性化にと阪神タイガース優勝時の〝飛び込み〟で有名な道頓堀川にプールを造り「世界遠泳大会」を開催、観光客を呼びこもうと、「大阪10大名物」構想の1つとして発表した。

 道頓堀川は都心を南北に走る幹線・御堂筋を東西に横切る全長2・5㌔、川幅12・5㍍の川で、江戸時代、大坂城の外堀を造った安井道頓らが私財を投入して掘削し1615年に完成。2年後の道頓堀400周年に合わせ、川幅12㍍、深さ1・5㍍の同川布製シートを張り、水道水を入れた2㌔㍍の巨大なプールで「世界遊泳大会」を有料で開催する計画だ。期間は6月末〜9月初めという。

 川沿いにはかつて道頓堀五座と呼ばれた劇場が並び、対岸には宗右衛門町商店街がある。現在は風俗店などが多く、町の風情を失っているが、地元商店街などが再生に向けて取り組み中だ。グリコの看板や観覧車がある大阪屈指の観光スポットで、作家・宮本輝氏がここを舞台に『道頓堀川』を執筆し映画化されたこともある。また、阪神タイガースが優勝するたびにファンが戎橋から飛び込む川でも知られる〝全国的スポット〟。両岸には数百㍍の遊歩道が設けられ、観光客を乗せた船が行き交う「水の都」の象徴でもある。

 この構想について、大阪市の橋下徹市長は「ヒト、モノ、カネを呼び込むにはやはり、堺屋さんのような発想が必要ですね」と一応は評価するが、資金的には「民間主導でお願いしたい」と言い切る。

 このため準備会社「道頓堀プールサイドアベニュー設立準備会社」が、今年4月に設立された。社長には道頓堀商店会の今井徹会長が就任、十数人が個人資格で出資しているという。地元のまとめ役として、街づくり団体・ミナミまち育てネットワーク会長企業を務める南海電鉄の名前も挙がっている。事業を広げるために地元企業からも出資を募り、資本金3億円程度まで目指している。事業に掛かる経費は約30億円ともいわれ、この夏にも具体的な計画が発表されることになっていた。

 しかし、解決すべき問題は多い。まず30億円の資金調達については民間レベルで出資を募るというが、場合によってはこれ以上必要ともいわれ、巨額の資金を集めることができるのか。また、借り入れならどこが保証するのか。地元企業はもちろん、経済界を中心に企業や市民にお願いすることになるが、地元のリーダー的企業が見当たらない。

 「もし協賛金をお願いするとなれば、その企業が数億円は負担を覚悟しない限りお願いにも回れないでしょう。それとも松井知事、橋下市長を説得して出させる交渉力のある経済人がいるのでしょうか。本気で集めるなら財界活動の経験がある会社か、ない会社かの違いは大きい。今のような経済環境の中、対応できる会社は地元にはそうはない」と、ある財界人は冷ややかに話す。

広がるキタとの格差

 さらに厳しいと思われるのが、大阪商工会議所などこの構想に反対する企業や商店、市民が多いことだ。今回の市のスタンスに加え、財界もミナミ地域の開発や投資についてはこれまであまり関与してこなかった。地元企業と財界との関係や中小商店の多いミナミでは、地域全体のまとめ方が難しいこともある。

 大企業がキタほど多くなく、電鉄会社は除いても流通業など実際の機能は東京に移っており、「大阪の存在感、影響力が落ちている。それに伴い企業の地域に対する愛着心や思い入れが薄れているのは事実だ」と地元の活動家は嘆く。

 同じミナミといっても道頓堀を軸に数百㍍の距離しかない灘波と心斎橋の関係も微妙だ。また、「ミナミの中心の道頓堀や宗右衛門町、心斎橋などの商店街は江戸時代からの老舗の店も多く、それなりに付き合いも難しい。プライドの高い経営者が多く、まとめるのはひと苦労だろう」という。

 別の大きな問題もある。プール営業が6〜9月に行われるため、浪速っ子にとって重要な「天神祭」のメーンイベントである「船渡御」とぶつかる。さらに堂島川、木津川、道頓堀川、横堀川が「ロ」の字型のLOOP(環状)になっており、特に道頓堀川は多くの観光船が往来。「外国人観光客も多い人気コースだけに運航できなければ死活問題にもなる」と、観光船を運航する関係者は構想に否定的だ。観光の目玉としている大阪商工会議所も「この案には反対だ」と意思表示する。2カ月余りも川を占有することの経済への影響も懸念される。

 堺屋氏は「技術的には解決済み」というが、プールの安全・衛生対策、資金の問題などハードルは高い。

 ミナミとキタとの格差は最近、大きく広がっている。この4月にオープンしたJR大阪駅キタの「グランフロント・大阪」や阪急百貨店、大丸梅田店などのダイナミックな商業開発の動きはミナミと比べても圧倒的。それに加え、地域としてのまとまりも違う。関西電力、大阪ガス、住友グループなどの財界活動で、ミナミはこれまた圧倒的にキタに先を越されてきた。その歴史が今日の姿として表れている。

 街づくり団体・ミナミまち育てネットワーク会長企業の南海電鉄は、地元の活性化に取り組んではいるが、活動の舞台範囲は難波駅と隣接の高島屋周辺が中心。今回の道頓堀プールについては、解決すべきテーマが多く対応に困っているというのが本音のようだ。しかし、「地域全体の高い理想の下、納得してもらい、どう収斂させるのがリーダーの役目」と、前出の財界人は指摘する。

 町の活性化のため、快適で住みよい町にするには「何が一番大切なのか」、今こそじっくりと考え、悩み、行動してほしい。

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