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初優勝目前の東北楽天を率いる星野仙一監督(写真:時事)

初優勝目前の東北楽天を率いる星野仙一監督(写真:時事)

 80年近い歴史を誇るプロ野球において、3球団にまたがって優勝を果たした監督は三原脩(巨人―西鉄―大洋)、西本幸雄(大毎―阪急―近鉄)の2人しかない。

 この秋、星野仙一が東北楽天をリーグ優勝に導けば、史上3人目の3球団制覇監督となる。

 周知のように星野は中日で2回(1988年と99年)、阪神で1回(2003年)、リーグ優勝を果たしている。

 昨季まで15年間の監督生活で優勝3回、優勝確率2割という数字は、名将と呼ぶには少々寂しいが、再建人としての腕は確かである。

 18年も優勝から遠ざかっていた阪神に続き、新興球団の楽天にもチャンピオンフラッグをもたらせば、再建人としての評価は、いや増すばかりである。

 しかし、星野には未達成の目標がある。日本シリーズは3戦全敗。まだ1度も日本一になっていないのだ。

 なぜか短期決戦に弱く、日本代表を率いた08年の北京五輪も、決勝トーナメントで韓国、米国に立て続けに敗れ、メダルなしに終わっている。

 こうした戦歴を見ていると、同じ〝闘将〟の異名をとった西本幸雄を思い出す。大毎を1度、阪急を5度、近鉄を2度、リーグ優勝に導きながら、結局、西本は1度も日本一になれなかった。そのため、〝悲運の闘将〟と呼ばれたのは、プロ野球ファンなら誰でも知っている話だ。

 西本野球の原点は「育成」にある。無名の選手を徹底的に鍛え上げ、一人前にする。そのためには鉄拳も辞さず、という一面もあった。

 現オリックス監督の森脇浩司は、近鉄時代の西本門下生のひとりである。

 こんな思い出がある。

 「当時、(近鉄の本拠地の)藤井寺球場のライトスタンド下の室内練習場には2つだけバッティングの鳥かご(ケージ)がセッティングされていた。バッティングが下手クソな僕は黙々とそこで打ち込んでいました。

 ふと向こう側を見ると柱の後ろに人影がある。誰だろうと思って目を凝らすと西本さんでした。

 当時の藤井寺の室内は土が深く、普通の靴だと汚れてしまうんです。ところが西本さんはスラックスに革靴姿のまま、駆け出しの選手の練習を最後まで見守ってくれていた。これには感動しました」

 森脇は、ある日、西本が腕組みをしたままポツリとつぶやいた一言を今でも覚えている。

 「世の中には無名でも陰日向なく一生懸命働いている人間がいる。オレはそういう人間の努力は、いつか報われるということを野球で証明したいんだよ」

 自分の姿は、選手たちに、どう映っているか。西本ほど、そのことに敏感だった指揮官はいなかった。

 これは近鉄時代、西本の下でコーチを務めた仰木彬から聞いた話。

 「あれは宿毛で行われていた春のキャンプでのこと。四国とはいっても、山の麓なので2月には雪が降るほど寒いんです。それでドラム缶に火をくべていた。すると西本さんのウインドブレーカーに火の粉が振りかかった。

 危険なので、まわりが慌てて火の粉を振り払おうとすると、西本さんは〝触るな!〟と言って、こう続けたんです。〝これはワシの心の炎だ〟と。それからチームの士気が上がったのは言うまでもありません」

 私が西本にインタビューしたのは、もう今から20年程前のことだ。負け続けた日本シリーズについて訊ねた。

 悔いが残っているのかと思いきや、西本は「悔いなんて、ひとつもないね」と言い、こう続けた。

 「ボクが必死になって育てた選手たちが、王(貞治)や長嶋(茂雄)と戦っている。その姿を見るだけで、もう十分、満足したよ。こんなに成長したんかと思うと、もう勝負なんて、どうでもよかった……」

 星野も選手育成に定評のある指導者だ。楽天でも銀次、枡田慎太郎ら若い生え抜き選手が、どんどん育っている。

 2人は左打者ながら、左ピッチャーを苦にしない。銀次は打率3割2分8厘で左ピッチャー相手に3割5分。枡田は打率2割9分1厘で、左に対して2割7分9厘(いずれも9月5日現在)。

 もちろん2人とも最初からサウスポーを得意にしていたわけではない。星野が粘り強く使い続けた成果だ。

 「目先のことだけ考えれば、代えたくなることもありましたよ。しかし彼らにはこの先5年、いや10年は中心打者としてやってもらわなければならない。そこは私が腹を決めればいいことですから……」

 短期決戦に弱いのは〝闘将〟の宿命なのか、それとも他に原因があるのか。いずれにしても星野にとっては大勝負の秋である。 (文中敬称略)

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