政治・経済

アジアにおけるLCCの雄、エアアジアとの合弁事業を6月に解消したANAホールディングス。エアアジア・ジャパンの後継会社は、なんと国際線を主に就航するリゾート中心のLCC。はたして新会社はどこが変わるのか。 (本誌/古賀寛明)

新ブランドは「バニラ・エア」

石井知祥・バニラ・エア社長

石井知祥・バニラ・エア社長

 エアアジア・ジャパンは8月20日、東京・丸の内で11月からの新社名および新ブランド名を発表した。

 新ブランド名は「バニラ・エア」で、新会社の名称もバニラ・エア株式会社と決まった。成田国際空港をベースにするのは変わらず、国際線を中心にリゾート・レジャー路線を展開していくとのことだ。

 新社名の由来は、バニラが、シンプルで洗練された味わいから世界中の人々に愛されていることと、香りが多くの人をリラックスさせ、満ち足りた気分にさせることだそうだ。リゾートへの就航を考えればイメージは悪くない。

 また、8月1日より新社長に石井知祥(いしい・とものり)氏が就任している。ANAに入社後、営業畑を歩き、バンコクや米国に都合10年勤務するなど海外経験も豊富で、直近では、札幌に本社があるエア・ドゥで営業本部長を務めていた。

 では、新しい社名、新しいブランドと変わったが、抱えている課題にはどう対応していくのだろうか。

 エアアジアとの合弁を解消した理由は、もちろん収益があがらない状態が続いたことだったのだが、そこには2つの大きな問題があった。

 ひとつは、就航当初からの問題になっていた使いづらい予約システム。LCCの予約はウェブ上で行うものなのだが、エアアジアの本拠地マレーシアで使用していたものと統一したシステムだったため予約サイトは、英語表記が多いなど評判が悪かった。エアアジア・ジャパンとしても、改善に努めたのだが、うまく顧客獲得に結び付けられなかったようだ。

 もうひとつの問題が、成田国際空港を拠点としていることで、都心からのアクセスや午前6時から午後11時までしか離発着ができないなど制限があることだった。LCCは、2拠点間を同じ機体でピストン運行するなど効率的に機体を使用することで、コストを下げる仕組み。回数を重ねるためには、どうしても早朝からのフライトが欠かせない。しかし、アクセスが悪ければ当然、搭乗率も上がらず、運航が一度遅れてしまえば、後の便にしわ寄せがきてしまう。これでは予定が立たないビジネス客は敬遠せざるを負えない。

 今回「バニラ・エア」誕生にあたり、石井社長の話から見えてくる変更点は3つ。

 まず、当然のことながら、新たな予約システムの構築。

 もう1つが、路線競争力のアップ。競合のジェットスターと同時期に立ち上げながら機材投入、路線展開で出遅れ、ジェットスターが、13機飛ばしているのに対し、5機止まりであった。これも新会社では、2機からスタートし、来春には5機、2年後には10機体制にまで持っていく予定だ。

 最後にボトムアップ。トップダウンよりもボトムアップが会社を強くすると石井社長はいう。

 エアアジアのCEOであるトニー・フェルナンデス氏の強引なトップダウンで懲りたか、あえて言葉にするあたり、合弁会社の難しさをうかがわせる。一方のトニー氏も、日本市場への再参入を熱望しているが、航空会社との合弁には懲りたようで、単独参入を目指すようだ。

 もうひとつ、いかんともしがたい問題に対しても、今回手を打ってきた。拠点の成田空港だ。

 成田空港をベースとすることは、合弁解消時から明言していただけに運航先を再考したようだ。その解が、リゾートへの国際線就航だった。国際線であれば、距離を伸ばすことで単価を上げられ、発着自体も少なくできる。懸案の定刻発着も解決でき、もともと国際空港であるためアクセスの問題も軽減できる。

 ただ、この決定が成田の国内線就航の難しさを物語る。

 別れた先のエアアジアは、再参入では成田を拠点にすることはないといわれており、ジェットスタージャパンも、搭乗率こそ多少ましだが、広告宣伝費もかけているため内情は苦しい。

 国内線での競合がなくなることで、「当面の値上げは考えていませんが、将来的には需要と供給のバランスを見て考えます」(ジェットスター広報)とのこと。現在の低価格を維持できなければ、やはり首都圏の国内LCCは根付かなかったと言わざるを得ない。

新たな市場を生み出せるか

 12月の末に再出発する「バニラ・エア」だが、具体的な就航地は「全くの白紙」(広報)とのこと。決定は9月下旬の発表まで待たなければならない。

 使用するA320型機を効率的に飛すためには、飛行時間は4時間までが望ましいと言われている。該当する近場のリゾートといえば、グアム、サイパン、フィリピンのセブ島などか。

 また、リゾートと言えば、国内でもグループホテルなどがある沖縄も可能性は低くはないはず。しかも、ANAの貨物部門は那覇空港を拠点にしており、成田と上手く連動できれば、アジアの観光客を取り込めるはずだ。既にピーチアビエーションは、那覇を関空の次の拠点として考えており、仮にバニラが就航しても、大阪、東京とバッティングしないので顧客を奪い合うこともない。

 いずれにしても、バニラ・エア単体としてではなく、ANAのマルチブランド戦略のひとつとして見ていくほうが、未来は見えやすいのかもしれない。

 世界的に見ればLCCも大手フルサービスキャリアとの差がなくなってきている。新生バニラ・エアは、リゾートエアとしての独自性と、LCCならではの価格競争力で勝ち抜いていけるのか。

 旅客数拡大という新たな市場を確実に開拓してきたLCC。さらなる市場の創造はできるか、今後も空から目が離せない。

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