政治・経済

ネット社会の進展が、あらゆる業界に大きな変革をもたらしたのは周知のとおり。一般には馴染みが薄いが、この時流は著作権という分野でも新しい動きを生み出している。(本誌/大和賢治)

音楽著作権への民間参入が可能に

荒川祐二・ジャパン・ライツ・クリアランス社長

ジャパン・ライツ・クリアランスの荒川祐二社長

 2001年10月、60年以上も運用されてきた著作権の管理・仲介事業に関する法律である仲介業務法が廃止され、新たに著作権等管理事業法が施行された。

 これにより、音楽界では、それまで音楽著作権協会(JASRAC)が独占していた、第3者に使用許諾を与えたり、著作物使用料を徴収する「音楽著作権管理業務」が自由化され一般事業者の参入が可能となった。

 新法施行の背景にあったのは、近年急速に拡大したデジタル化の進展。ネット環境が整ってきたことで、音楽流通でも着メロに代表されるノンパッケージ型という、全く新しい形態の中で、著作権が利用されるという動きが加速しはじめたためだ。

 さらに、音楽家の中で、欧米流に作品によっては無料で使用できるなど、自らの考えに合った事業者を選択する権利があってもいいのではないかという意見も顕在化、JASRACという1団体が著作権管理を一元的に行う、という状況を疑問視する声の高まりも要因の1つに挙げられる。

 著作権等管理事業法の施行により、JASRACの強大な既得権益は開放されることとなった。多くの民間企業にとってこの権益は垂涎の的ではあったが一方で、事業基盤やシステム等、後発組にはハードルが高く、参入企業は限定されることとなろう。

 00年12月に創立されたジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)は、新規参入組の中でも安定した収益を得られる事業基盤を確立した企業だ。

 同社が、事業基盤の確立に成功したポイントは、大きく2つある。ひとつは著作権管理を「録音権」と「インタラクティブ配信」に限定したことだ。

 音楽著作権を簡単に説明すると次のようになる。まず音楽著作権は演奏権、録音権、貸与権、出版権の4つの支分権から構成されている。

 録音権とはCDやDVD等メディアに複製・録音する行為。貸与権とは楽曲をレンタルする権利、出版権とは歌詞や楽譜をプリンティングメディアに使用した時にそれぞれ発生する権利である。分かりにくいのが演奏権。カラオケで歌う行為、音楽家がライブなどで歌う行為、さらには、ホテルやカフェなどのBGMといった具合に広範にわたる。

 これらを横断する形になるのが「インタラクティブ配信」(図参照)だ。これを一言で表現すると支分権に対し使用形態ということになる。

 例えば楽曲を放送した場合、テレビのスイッチを入れたら音楽が流れてきた。これは演奏権。しかし、ここの大元を辿れば、放送局が自社で楽曲をテープに固定・複製、それを送信することで演奏権が生じる。言うなれば、権利をまたぐことになる。

 「インタラクティブ配信」も同様。楽曲がサーバーに既に固定・複製されているものをリクエストすることで、ユーザーに送信される。ここでは録音権と演奏権をまたぐことになる。

 なぜ、「録音権」と「インタラクティブ配信」の2つに業務を絞ったことがJRCの勝因になったのか。同社の荒川祐二社長は次のように説明する。

 「演奏権の中で著作権料を徴収する場合、困難なのはスナック等社交場で歌われているものを把握することです。全国の店舗を1軒ずつ回るという作業は、後発の民間企業には不可能です。違う見方をすると、これまでお役所的に支払われてきたものを、店舗に法改正からの状況を説明してJASRACから弊社に変えてもらうことは理解されませんし、ほぼ不可能です。しかし、インタラクティブ配信という中では、サーバー等のログを見れば、どの楽曲がどこで何回使用されたかということを簡単に把握することとができるのです。録音権にしても例えばCDの出荷枚数は数えることが可能なものです。われわれの原理原則は数えられるものをきっちり数え、透明度を高くした上で権利者に分配をしていくことにあります。弊社として、これを実現できるのが録音権とインタラクティブ配信ということです」

音楽著作権の徴収を独占してきたJASRACとは共存共栄

 これまで音楽著作権の徴収を独占してきたJASRACに対する批判や不信感の温床は、どこまで透明性が担保されているのかという点にあった。JRCは、すべてにおいてカウントが可能となる録音権とインタラクティブ配信であれば、音楽家が以前より漠然と感じていた不信感の払拭が実現できるであろう、という判断から2つに絞ったというわけだ。

 JRCの地道な努力は次第に音楽家たちにも浸透し、現在では坂本龍一はじめ、Mr.Children、松任谷由実など、日本を代表する音楽家の4万曲を管理するまでになった。

 JRCが業容を拡大することはイコールJASRACの権益を侵すことになる。当然、そこには敵対関係が生まれていると誰もが想像するが、実際は、

 「JASRACが60年以上もの間、作り上げてきたルールはわれわれがいきなり参入してゼロベースにできるはずはありません。新規則を行使して業界の秩序を乱すことには何の意味もありません。われわれは既存の秩序を守りながら、〝らしさ〟を発揮するにはどうしたら良いのかということを創業当時から考えてきました。確かにJASRACとは競合ですが、ある意味では良い関係を継続しているのです」と荒川氏は、あくまでも共存共栄であることを強調。

 続けて、「今後もさらに複雑化することが予想される著作権に対し、JRCに任せれば安心だと皆から思われる存在になりたい」と最後に抱負を力強く語った。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る