国際

高裁判事が政府の方針に叛旗

 集団的自衛権が憲法上、許容されるか否かについて、政府と司法の間で深刻な軋轢が生じている。

 〈前内閣法制局長官の山本庸幸氏(63)が(8月)20日、最高裁判事への就任会見で、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認について、「私自身は非常に難しいと思っている」と語った。憲法判断をつかさどる最高裁判事が、判決や決定以外で憲法に関わる政治的課題に言及するのは、極めて異例だ。

 山本氏は、解釈変更を目指す安倍内閣が、集団的自衛権の行使容認に前向きな内閣法制局長官を起用したため、最高裁判事に転じた経緯もあり、発言には政権内からの反発も予想される。ただ、最高裁内部では、「個別の裁判に関して見解を示したわけではなく、発言に何ら問題はない」と静観する見方が大勢。発言が進退問題に結びつく可能性はなさそうだ。

 この日の会見で山本氏は、「我が国への武力攻撃に対し、他に手段がない限り、必要最小限度で反撃し、実力装備を持つことは許される。過去半世紀、ずっとその議論で来た」と自衛権をめぐる解釈の経緯を説明。「集団的自衛権は、他国が攻撃された時に、日本が攻撃されていないのに戦うことが正当化される権利で、従来の解釈では(行使は)難しい」と述べた。〉(8月20日「朝日新聞デジタル」)

 最高裁の一部関係者が述べている「個別の裁判に関して見解を示したわけではなく、(山本判事の)発言に何ら問題はない」という見解には説得力がない。本件は、「憲法の番人」であるという最高裁判事が、安倍政権が最重要の政治課題として掲げる内閣法制局解釈の変更による集団的自衛権容認という政策に対し、公然と叛旗を翻した政治的行為だ。

 さらに山本氏は、〈その上で、行使容認には「憲法の改正しかない」と指摘。「それをするかどうかは、国会と国民のご判断だ」と指摘した。/一方で、「国際情勢や安全保障上の状況の変化などを踏まえて内閣が決断し、新しい法制局長官が理論的な助言を行うことは十分あり得ると思う」とも述べた。〉(同)

霞が関のルールを覆す人事

小松一郎・内閣法制局長官(左)/写真:時事

小松一郎・内閣法制局長官(左)/写真:時事

 安倍政権は、解釈の変更による集団的自衛権を確保することが必要であると公言している元駐仏大使の小松一郎氏を内閣法制局長官に据えた。外務省出身者が長官になるのは、初めてのことだ。霞が関(官界)の論理からするとこれは革命である。

 国会の答弁で、国内法に関する有権的解釈を行う最高責任者は内閣法制局長官長官だ。しかし、条約、協定などの国際法に関しては、内閣法制局長官に解釈権はない。

 その代わり、外務省国際局長が政府としての有権的解釈について述べる。霞が関では「国際法については外務省、国内法については外務省以外の役所が権限を持つ」という棲み分けができていた。小松氏には外務省の「へその緒」がついている。国内法も国際法もその有権的解釈は事実上、外務省が行うという霞が関のゲームのルールを大きく変化させる自体が生じたのだ。さらに日本経済に死活的影響を与えるTPP(環太平洋経済連携協定)政府対策本部の首席交渉官も外務省出身の鶴岡公二氏(前経済担当外務審議官)がつとめている。

 小松氏、鶴岡氏と筆者は面識がある。鶴岡氏とはソ連時代、モスクワの日本大使館で2年近く一緒に仕事をした。両氏がきわめて能力の高い官僚であることは間違いない。それだから、安倍首相もこの2人を信頼しているのであろう。さらに外務省の事務方トップの斎木昭隆事務次官に対する安倍首相の信頼と期待は極めて大きい。このような状況で、無意識のうちに権力中枢における外務省の影響力が強まっているのである。

 外務省以外の中央官庁は、外務省が首相官邸に巧みに取り入って、裏側から権力拡大を画策していると考えている。この不満を代弁したのが、冒頭で紹介した山本前内閣法制局長官の発言だ。最高裁、経産省などを巻き込み、内閣法制局の憲法解釈変更による集団的自衛権の容認に対して、本格的なサボタージュがなされると思う。

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