政治・経済

日本郵政は7月26日、アメリカンファミリー生命保険(アフラック)との業務提携を発表した。日本郵政は今回の提携で売上高の減少に歯止めをかけ、株式上場への道筋を付けたい考えだ。しかし、収益体質の改善は容易ではなく、課題が残る。 (本誌/鈴木健広)

提携による収益効果は未知数

西室泰三・日本郵政社長は上場に向けて経営基盤強化を図っている

西室泰三・日本郵政社長は上場に向けて経営基盤強化を図っている

 「郵便事業はじり貪状態で、貯金や保険も振るわない。頼みの綱はJPタワーを中心とした不動産事業のみ。先行きを考えると、それだけでは心もとない」

 金融関係者が語った日本郵政の現状だ。日本郵政は、人件費をはじめとしたコスト削減効果により、2013年3月期決算で過去最高である5627億円の当期純利益を達成した。何とかして減収増益に収めた形だが、郵便物の取り扱い数の減少は依然続いており、ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険といったグループからの受託手数料も減少基調をたどっている。今期は減益の見通しを示しており、収益体質の改善がかねてからの懸案事項となっていた。

 そういった状況で、日本郵政が打開策の1つと期待を寄せるのが、今回の提携だ。現在、1千の郵便局で販売しているアフラックのがん保険を、将来的には全国2万局の郵便局で販売する計画だ。手数料収入を一層拡大させる狙いがある。

 しかし、一方で日本郵政傘下のかんぽ生命は08年に日本生命保険と業務提携を締結、共同でがん保険の開発を進めてきた。日本生命は日本郵政とアフラックが提携発表した同じ日に、「今回の件は遺憾」とのコメントを発表。日本郵政は事務・システム構築などにおける日本生命との提携は継続するとしているが、業界関係者からは、「日生さんはやり切れない思いを味わっているだろう」「外資系との提携強化は、同業他社の国内生保にとっても悔しいはず」などの声が挙がっている。

 「抜け駆けとも言えるような提携に走った」(国内保険関係者)と揶揄する向きがあるが、日本郵政は提携でどれだけのメリットを享受できるのだろうか。西室泰三社長は、メリットとして「企業価値向上」を挙げる。同社広報部も「がん保険シェアナンバーワンのアフラックさんと一緒に組むことで、収益性向上を図る」とコメントしているが、効果がどれだけ見込めるかは未知の部分が残る。

 一方で、アフラックにとっては「販売郵便局が20倍に増えるという一点だけで大きな旨味」(同)であることは間違いない。同社は収益の大半を日本国内で稼いでおり、「収益構造だけを見れば実質的な日本企業」(業界紙記者)との声もある。業績の底上効果は抜群であるとみていいだろう。

 アフラックは今年度におけるがん保険や医療保険などの第三分野商品の販売を前年度比5%増と予測しており、「今回の提携でがん保険をより多くの顧客に届けることができる」(ダニエル・P・エイモス会長)と自信を深めている。

 前出の記者は、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉材料として利用されただけで、日本郵政にとってのメリットは思ったほどではない」と評する。両社の提携にもかかわらず、米国は依然日本の保険分野の市場開放が不十分だと批判しているという。日本郵政の事業運営は政治の思惑にいまだ翻弄され続けそうだ。

状況打開には事業の再分割が不可欠か

 そもそも日本郵政は、全国どこでも公平に利用できるとする郵便と金融のユニバーサルサービスの堅持と、競争力強化を両立させる難しさに直面してきた。例えば、郵便事業では、郵便取扱量が減少する中、離島や山間地を含む全国各地で同一のサービスを均一価格で提供することを求められている。一方で、民間企業として集配郵送にかかわるコスト削減をはじめ、収支改善策にも取り組まなくてはならない。

 サービスが後退したら国民から批判を受けるリスクがある一方、収益強化のために新規事業への参入を目指せば民間企業から「民業圧迫」という非難を受ける。現在、日本とTPPに関する協議を行う米国も、日本郵政の事業拡大に反対を表明するなど、さまざまな思惑に縛られている状態だ。

 二律背反に苦しむ中、「極めて厳しい事業環境」(日本郵政)を打破しなくてはならない。万が一日本郵政が今まで以上の経営危機に直面すれば、一定水準以上の質の高さを保ってきた郵便事業が壊滅的な状況に陥ってしまう。その上、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は合計約200兆円もの国債を保有しているため、日本の財政破綻にまで及ぶ可能性があるからだ。

 現状を踏まえると、上場計画をいったん凍結し、企業としての存在価値を再構築すべきではないだろうか。このまま上場を果たしたとしても、その後の成長ビジョンを示すことができなければ、同社株を買いたいと考える投資家は現れにくいだろう。

 具体的には、郵便事業のみを再国営化し、競争の公平性を担保しながら金融の新規業務規制の緩和を進めるべきだとの指摘もある。いずれにしても、このままでは事業が立ち行かなくなり、破綻へのシナリオが現実になってしまう。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る