政治・経済

金融の激戦地、首都圏で地域金融再編の火蓋が切って落とされた。東京の代表的な地銀である都民銀行と、同じく東京の第2地銀の八千代銀行が経営統合に踏み切ったからだ。これをきっかけに、信用金庫などへの波及も避けられない情勢だ。 (ジャーナリスト/阿部公平)

地域金融再編の旗振り役は金融庁か

地域金融機関の再編ムードが一気に高まる可能性も(写真は金融庁の入る霞が関合同庁舎ビル)

地域金融機関の再編ムードが一気に高まる可能性も(写真は金融庁の入る霞が関合同庁舎ビル)

 両行の経営統合は、地域金融機関の再編を企図し続ける金融庁にとっては、またとない出来事であり、これを契機に一挙に金融再編のテンションが高まる可能性が出てきている。

 都民銀行は昭和20年代に東京都などの提唱で創設された戦後派地銀であり、八千代銀行は八千代信金が普通銀行への転換を実現して誕生した。いずれも、東京都内の地域金融機関として活動してきた経緯がある。

 ただ、首都圏、中でも東京都内の金融競争の激しさはいよいよすさまじくなっている。メガバンクが中小・零細企業にまで食指を伸ばしているのに加えて、地銀よりも小規模で、本来、零細企業取引を主軸においてきた信用金庫の中でも経営体力のある金庫は逆に中小・中堅企業との取引に領域を拡大させてきている。

 いわば、都民銀行、八千代銀行など地銀クラスは、それらの動きにはさまれたサンドイッチ状態にあった。決して、順風満帆だったわけではない。都民銀行、八千代銀行ともに、東京都の地方銀行とはいえ、その活動エリアは中心部の23区内よりも、23区外の多摩・川崎などの地域にある。かつては、そのエリアで独壇場のような立場にあったものの、次第に他の金融勢力の侵入が激しくなってきていた。そこで、具体化したのが今回の経営統合というわけであり、両銀行は昨年から水面下で話し合いを続けてきたようだ。

 一方、金融庁は今回の経営統合を背後で後押ししてきた経緯がある。金融庁は地域金融再編に向けて意欲的であり、その中でも金融庁トップの畑中隆太郎長官は積極的な再編論者として知られている。

 同氏は、現在、長官3期目に突入し、トップとして「最後の仕上げの局面」(関係筋)に差し掛かっている。したがって、今回の都内再編を材料に、他の地域でも再編ムードを煽ることは間違いないといわれている。

 そうした中で、金融関係者が注目するのは、同じく東京都内の地銀である東日本銀行の動向にほかならない。都内では、都民、八千代、東日本の3銀行がATMなどの業務提携を結んでいる。その仲間内で、2銀行が統合に走り、1銀行が残された形になっただけに、「いずれ、東日本も参加する」という見方が早くも浮上してきているのだ。

 両行の経営統合は、合併方式ではなく、金融持ち株会社方式だ。つまり、クローズド型ではなく、今後も統合参加銀行を受け入れやすいオープン型になっている。これも「東日本を招き入れるための姿勢の一端」と多くの金融関係者が受け止めている。東日本銀行は、歴代トップが財務省(旧大蔵省)出身者という経歴を有している。そうした性格も再編にはプラス材料とみられている。

 さらに、都民銀行、八千代銀行の店舗ネットワークは、隣県の有力銀行、横浜銀行とも一部で重なっている。その意味では、トップ地銀、横浜銀行にとってもこの統合は無関係とはいえない。

ライバル地銀や信金にも再編ムード

 そこで、これまた浮上していきたのが横浜・東日本の統合説だ。東日本と同様に、横浜銀行もトップは財務省出身者だった。しかも、こちらは、歴代、事務次官経験者だったという優等生銀行であり、金融業界における発言力、官界への影響力ともに自他ともに認める存在だ。かつては、首都圏での絶対的な優位性確保を目的に、都銀との経営統合まで画策した経緯があるほど、横浜銀行の底流には、都内への本格進出意欲がある。その橋頭堡として東日本は格好の存在とも言える。

 ただし、横浜銀行のような強敵が本格参入すれば、都民・八千代のせっかくの経営統合もその効果は半減しかねない。それを阻止するためには、是が非でも、東日本を自らの陣営に招き入れなければならず、そのためには、東日本に対して、一定の有利な条件を統合計画の中に盛り込む必要が出てくるかもしれない。

 「東日本は洞ヶ峠を決め込むことができる」

 ある有力地銀トップがこう見ることもうなずける事情があるわけだ。

 ただし、都内に限らず、地域金融機関の経営環境は決して芳しくない。その上、場合によっては、金融円滑化法の3月終了の影響が今年度後半から不良債権増加という形でジワジワ拡大してくるとすらみられている。そうした中では、経営体力を強化するための経営統合はやはり、有力な経営上の選択肢となっている。

 別の地銀幹部は、「東日本銀行としても、ゆっくりと見物しているような余裕はないはずだ」と指摘する。

 今回の統合劇のインパクトはそれだけではない。都内の信金業界にも少なからず余波を及ぼすことは間違いない。

 取引マーケットが重複しつつある中で、一方が巨大化によるメリットを享受できるとなれば、やはり、他方も同様の構えで応じざるを得なくなるもの。その意味では、都内の信金業界にも一挙に再編ムードが高まってくるかもしれない。

 既に、都内の有力信金の中には、他の金庫のみならず、経営状況の良好な信用組合との合併の絵図面を描き始めているところがある。そうした動きが加速することは容易に考えられる。

「再編の動きはひとたび表面化すると、一挙に拡大する」(地銀幹部)

 酷暑の中で再編ムードに一挙に火がつくことになるのかどうか。金融業界にとっては熱い夏になりそうだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る