政治・経済

東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、議論が進んできた電力システム改革で、電力市場の完全自由化や発送電分離が決められた。それを横目で眺めつつ、気が気でないのが都市ガス業界だ。 (ジャーナリスト/中山次郎)

200社超の都市ガス業界は戦々恐々

ガス業界も改革の波にさらされる(写真は東京都港区の日本ガス協会ビル)

ガス業界も改革の波にさらされる(写真は東京都港区の日本ガス協会ビル)

 ガス業界は電力と同じ規制業種で、料金を決める手法「総括原価方式」も基本は一緒。電力会社が立て続けに電気料金を引き上げたこともあり、総括原価方式はすっかり悪者扱いとなり、自由化後は廃止されることになった。そうなると、同じシステムの都市ガス業界も電力と同様の改革が避けられそうにない。

 現在は規制や総括原価方式に守られ、安定的な経営を続けることもできるが、苛烈な自由競争へ突入ともなれば、業界は大影響を受ける。しかも、電力会社と違って、ガスは東日本大震災後も平穏に安定供給を続けてきただけに、まさにとばっちりだ。

 「基本的には電力と同じように扱うべきだ」。7月中旬、経済産業省内で始まったガス料金制度の運用見直しの委員会で、大学教授など外部有識者で構成する委員の意見はほぼ一致した。東電をはじめ、電力会社の料金引き上げ申請に対し、国がこれまで以上に厳しく査定したのに合わせ、ガス料金の査定も同様に厳しくしようというものだ。例えば電力同様、広告宣伝費や寄付金、業界団体の会費などを料金に上乗せするのは認めないと確認した。

 オブザーバーとして参加した日本ガス協会の蟹沢俊行副会長は「広告宣伝費は都市ガス事業にとって重要な戦略」と反論。保安の確保には広告が欠かせないことや、新商品の宣伝によってガス機器の置き換えが進めば、省エネルギーやCO2排出量削減につながるなど、例を挙げてお目こぼしを求めた。しかし委員からは「電力会社と一緒。その理屈では到底、受け入れられない」(松村敏弘・東京大学教授)と一顧だにされなかった。

 しかも、この議論は総括原価方式の枠内で運用をどう見直すかの話にすぎない。まだ改革の入り口にすら来ていないのだ。その時点で既にガス業界は多くの既得権を奪われようとしている。今後、電力並みの改革論議が本格化すれば、どこまで権利を剥奪されてしまうのか、各社とも戦々恐々だ。

 ただ、先の委員会でも「ガスの特殊性をどう判断するか」という論点が出たように電力との違いも少なくない。

 東電など大手ばかりの電力会社と違って、都市ガスは全209社(公営事業者含む)と数が多く、しかも地方の中小企業が大半を占める。中には社員が数十人という小さなガス会社もある上、人口減少で事業の将来性が危ぶまれる会社もある。そうした企業にまで厳しい査定を行うのが適切なのかどうか、はたまた、彼らにとっては生死にまでかかわるガス改革が本当に必要なのか。ガス業界関係者としては譲れない線がある。

ガス会社の参入拡大に不公平と怒る電力

 そうしたこともあり、同業界では水面下でロビー活動を積極化させている。特に地方では、都市ガス会社の経営者がその地方の名士であることも多く、「政治家にガス改革を穏便に進めるよう、働き掛けているようだ」(エネルギー業界関係者)といった声も聞かれる。日本ガス協会の鳥原光憲前会長(東京ガス会長)は、「真にお客さまの利益になる改革は歓迎だし、われわれも最大限、協力する」と表明。ただ、「都市ガスは既に電力会社のオール電化やLPガスとも競争している。そうした事情をよく考慮した上で議論していただきたい」と予防線を張る。

 だが、それ以上に競合業界からはガス改革の必要性を訴える声が挙がる。既に自由化されている石油業界の代表、石油連盟の木村康会長(JX日鉱日石エネルギー会長)は「以前から石油と電力・ガスを同じ土俵に乗せてほしいと訴えてきた」と述べつつ、今のガス改革の動きについて「大いに評価している。当面は現行の枠内で料金の運用見直しということだが、その先にはガスも電力並みの規制緩和をぜひとも行っていただきたい」と要望する。電力業界も、民主党政権下で始まった電力システム改革の議論の中で、再三にわたり「ガスシステム改革も同じようにやっていただきたい」とクギを刺している。

 特に電力業界にとっては、東京ガスや大阪ガスなど都市ガス大手が電力事業を強化していることもあり、「電力の自由化が先に進めば、ガス会社にどんどん参入を許してしまう」(電力業界関係者)ことを強く懸念。「自分たちは規制に守られながら、規制がなくなった電力市場に参入してくるなんて不公平」(同)と怒りをあらわにする。

 そうした声に押されてか、経済産業省では改革後のガス業界をどうするかの検討が密かに始まっている模様だ。関係者によると、209社を規模別にグルーピング。大手、中堅・中小、そして自由化後は独力で経営ができない中小・零細に分け、業界再編を促そうというのだ。もちろん、こうした動きを日本ガス協会は看過できない。

 同協会の鳥原前会長は任期半ばにもかかわらず、6月の通常総会で退任し、大ガスの尾崎裕社長に会長職を譲った。ガス改革を控えた大事な時期での突然の交代劇だっただけに、多くの臆測を呼んだ。大ガスは規制色の強い都市ガス業界にあって、海外進出や電力事業など多角化に積極的。最も民間色の強い企業として知られている。ガス改革というさらなる民営化に対処するには、官僚的な色彩の濃い東ガスより、大ガスのトップを据えたほうが得策との判断が働いたとささやかれている。

 ともあれ、改革への号砲は鳴らされた。エネルギー業界は今後、石油と電力、都市ガス、LPガスが入り交じり、混沌とした市場へと様変わりする。これを好機ととらえ、自己変革する企業、業界しか生き残れない時代となる。都市ガス会社も規模の大小に関係なく、もはや後戻りすることはできない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る