政治・経済

元オムロン会長の作田久男氏がルネサス エレクトロニクスの会長兼CEOに就任し再建に乗り出した。就任後のいくつかの発表からは、意思決定の迅速化がうかがえる。しかし公の場での発言から、今後の成長戦略は見えてこない。 (本誌/村田晋一郎)

具体的な再建策は提示されず

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長兼CEO

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長兼CEO

 経営再建中のルネサス エレクトロニクスが2013年度第1四半期の決算発表会を行った。6月末の株主総会で選任された作田久男会長兼CEOにとっては、ルネサスの経営トップとして臨む初めての公の場となった。

 トップとして、作田会長がどのようなメッセージを打ち出すかが注目されたが、就任後1カ月余りの状況で、まだルネサスの現状把握に精いっぱいとの印象すらうかがえた。足元の事業の説明などは、鶴丸哲哉・社長兼COOに任せ、自身はオムロンで培ってきた経営哲学に基づく理念や展望を語るにとどめた。

 「当社グループが目指す方向性」として、作田会長がまず語ったのが、組織・個人としての行動原理だ。経営、事業、個人の3つにおいてそれぞれ自律を目指すという。「自律」というキーワードは作田会長がこれまで語ってきた言葉である。

 個人の自律については、「人の持つ創造性が顧客貢献につながり競争を勝ち抜く源である」と語ったが、ルネサスはまだまだ人員削減を予定している。経営および事業の自律に関しても、ルネサスは産業革新機構(INCJ)および顧客企業にがんじがらめの状態だ。INCJの出資が決まったのは昨年12月だが、出資期限は9月末であり、同社の再建はINCJの出資後に本格化するため、いまだ中期計画が立てられていない。実質的に「経営の空白」と呼べる状況が続いている。さらに主要製品である自動車用マイコンについて、顧客である自動車メーカーに対する下請け体質が低収益の一因として問題になっている。

 作田会長がオムロンで実証してきた崇高な経営理念も、今のルネサスが置かれている状況にそのまま当てはめるのでは、ブラックジョークにしか聞こえなかった。

 また、作田会長は、企業のあるべき姿として、「世の中になくてはならない会社にならないといけない」と語った。企業価値は経済的価値と社会的価値の掛け算であると定義。現在のルネサスは経済的価値が著しく毀損しており、その回復が喫緊の課題だとした。しかしそのために何をするべきかという具体的な方策はあまり示されず、精神論が前面に出た格好だ。理想を語るのは良いが、経営塾での講演を聞いているかのような話であり、経営再建を託されたトップが発信する最初のメッセージとしては物足りない印象を受けた。

 ルネサスの問題は、日立製作所、三菱電機、NECの異なる3つの会社の半導体部門が統合したことで、組織が広範囲にわたって複雑化し、なおかつ固定費が高いこと。ビジネス面では国内顧客への依存度が高く、海外販売比率が低いため、グローバル市場の成長から取り残されていることにある。強みの自動車向けのマイコンにしても、自動車は日本メーカーが強い分野であるからこそルネサスの同分野でのシェアは高いとも言える。これらの問題の多くは、前身のルネサス テクノロジとNECエレクトロクスの時代から抱えている問題であり、ルネサス エレクトロニクスとなって以降も改善されていないことが、現在の危機的状況を招いている。

 作田会長のやや的外れなメッセージは、作田会長自身がこれらを分かった上であえて信念を貫こうとしているのか、それとも単なる認識不足なのか、今のところは分からない。

当面は固定費削減のリストラに専念

 ルネサスの課題を問われ、作田会長は次のように語った。

 「意思決定と業務のプロセスが複雑過ぎる。結果として、スピードが遅くなっている。まず、ここのところを何とかしたい」

 その意気込みは確かに表れている。作田新体制になって以降、経営面での動きは大きく3つある。1つめはワイヤレスモデム事業からの撤退、2つめは子会社の再編、3つめは鶴岡工場および甲府工場の閉鎖の決定。これらを作田会長の就任後の短期間で矢継ぎ早に発表したことから、経営のスピードが上がったと見て取ることができる。しかしこれらの施策は基本的には固定費の削減に関する内容だ。今回の工場閉鎖だけでも2700人の削減が想定されている。

 固定費の削減については、「まだ、ヒト、モノが多いと思う。ルネサスの売り上げはピーク(前身のルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスの合算)時に1兆8千億円くらいあったが、今はその3分の1くらいにまで減っている。しかし経営資源は3分の1にはなっていない」という。

 あくまで数字上の計算であって、そこまで減らすことを明言しているわけではないとしながらも、当面はさらにリストラを続けることを匂わせた。これまでも固定費を削減してきたが、今後もさらに進めて、経営資源を売り上げの適性規模とし、「しぶとい会社」にするという。

 しかしこれからのルネサスは、公的資金が投入される国策会社だ。国費を投じる以上、求められるのは、いかに成長していくかである。固定費の削減は今のルネサスに必要なことだが、後ろ向きの方策でしかない。

 成長戦略について、選択と集中を徹底し、強みのマイコンを生かして展開していくと作田会長は語ったが、そのほとんどは過去のルネサス経営陣も語ってきた青写真だ。グローバル展開は、新興国を狙うとしているが、海外のビジネスを取れていないルネサスがどうすれば海外売り上げ比率を上げられるのかまで踏み込んだ内容にはなっていない。今回、作田会長が語った展望は、新生ルネサスへの期待を感じさせるものではなかった。

 明確な成長戦略を打ち出せていない以上、結局は経営の空白が続いていることになる。経営のスピードの遅さは作田会長自身も指摘しているが、ルネサス自身のスピードだけでなく、バックアップするINCJの対応の遅さも気になる。このままではルネサスは単にリストラを繰り返すだけで、体力をどんどん低下させることになる。

 成長の拠り所のひとつは強みである自動車用のマイコンだが、シェア1位の座に胡坐をかいていては非常に危ない。INCJによる支援企業には自動車メーカーも名前を連ねているが、自動車メーカー側でも最悪のケースとして、ルネサス以外の調達先を準備するシナリオを描き始めても不思議ではない。そして競合メーカーの攻勢も積極的だ。

 自動車用マイコンでルネサスを追う米フリースケール・セミコンダクターは毎年、開発者向けの会議を開催し、ユーザーに向けたアピールに積極的だが、今年は9月に開発者会議を静岡県の富士スピードウェイで行う。富士スピードウェイと言えば、トヨタ自動車のお膝元。交通アクセスの不便な彼の地で開発者会議を開催することは、トヨタへの猛烈なアピールとなると考えられる。ルネサスが手をこまねいている間にグローバル競争は加速している。

どこまで「覚悟」を体現できるか

坂本幸雄・元エルピーダメモリ社長

坂本幸雄・元エルピーダメモリ社長

 こうしたルネサスの苦境を考えると、同じく公的資金を受けたエルピーダメモリの結末から、その功罪を参考にすべきかもしれない。

 エルピーダは昨年2月に経営破綻し会社更生法を申請、7月末で米マイクロン・テクノロジーによる買収手続きが完了した。エルピーダ社長の坂本幸雄氏は退任するが、会見の席上で坂本氏は会社更生法を選択した理由について、「更正法を選択せず、銀行が入ってきて、生かさず殺さずという会社にするのは正しくない。しかも、大幅なリストラをすることになる。これは正しくないと思っていた」と語った。残念ながら、今のルネサスは坂本氏がエルピーダで想定した最悪のシナリオが進行している印象を受ける。

 エルピーダは会社更生法の申請により、株主や債権者に膨大な損害を与えたことは確かだ。しかし、マイクロンという「売り先」を確保したことで、日本に事業と雇用を残すことに成功した。従業員を1人も解雇することなく、また、この1年半の間に広島工場のコストを大幅に改善。エルピーダの名前はなくなるが、広島工場は今後もマイクロンの基幹工場の1つとして存続することになる。

 INCJの思惑に左右され、今後もリストラが必至のルネサスの状況を考えると、米国企業に買収されるエルピーダとルネサスとでは果たしてどちらかが良いのか判断が難しい。

 坂本氏は会見での去り際に、他の日本の半導体メーカーについてこう語った。

 「経営者の覚悟の度合いで決まる。覚悟の度合いは、自分たちがどのスケールまで会社を小さくするのか、もしくは残った会社をどこに売っていくかということ。日本の場合は工場を全部閉鎖してしまうが、閉鎖すれば費用も掛かり、売却する場合とでは大きな差が出てくる。閉鎖は誰でもできることで、最後の手段にするべき。その前にやることがいっぱいあると思う。事業の切り出しや工場はもっと頭を使ってやったほうがいい」

 これはそのまま今のルネサスに当てはまるだろう。

 作田会長は、ルネサスの会長を引き受けた理由を問われて、「自分がベストとは思っていないが、誰かがやらなければいけないこと」と応え、「覚悟」を語った。しかし今のルネサスが作田会長の覚悟を生かせる状況にあるのかは疑問だ。INCJの制約の下、できることがまだまだ限られている印象を受け、先々の展望が開けていない。作田会長を迎え入れたのだから、手腕を発揮しやすい環境を早急に整えることが必要だろう。

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