政治・経済

永守重信

永守重信
ながもり・しげのぶ−−1944年京都府生まれ。67年職業訓練大学校卒業。ティアック、山科精器を経て、73年日本電産を設立し、代表取締役社長に就任。

 日本電産は昨年、創業40周年を迎えた。同社はこれまで積極的なM&Aを敢行し急成長を遂げてきたが、2008年に発生したリーマンショックによる世界経済の混乱とその後の円高、さらにタイの洪水などの自然災害の影響で、成長も小休止するかたちになった。しかし、この間に実施した構造改革により経営体質を強化し、次の成長への基盤を構築した。08年度までを第1次高度成長期、構造改革が完了した13年度からを第2次高度成長期と位置付け、再び成長フェーズに移行。14年度には売上高1兆円の大台が見えてきている。

 同社が短期間でV字回復を達成できた背景には、永守重信社長の強烈なリーダーシップと決断の早さがある。数々の改革を実行してきた決断について、永守社長に話を聞いた。

文=本誌・村田晋一郎 写真=宇野良匠

 

永守重信氏の戦略 軸のブレない経営で高成長を継続

永守重信氏 永守重信社長は日本電産の成長の要因として、次の4つを挙げる。まずは40年間、創業以来、創業の精神や理念、事業に対する方向性を堅持してきたこと。具体的には、モーターを中心に「回るもの、動くもの」を事業の根幹に据え、その姿勢は40年間変わっていない。

 そして次が積極的なM&Aで、成長のテコにしている。新しい事業に展開していく際に技術や人材のリソースを既に有している企業を買収し、事業を拡大する。ただし、全く異なる分野に進出するのではなく、あくまでモーターにフォーカス。既存事業とのシナジーが期待できる領域へ事業を拡大している。日本電産は、まずパソコン・事務機器などのIT・OA分野の精密小型モーターで高いシェアを獲得し、その後、家電、自動車、鉄道、船舶用の各種モーターに進出、さらに飛行機へも展開を目指している。

 成長の要因の3つ目はグローバル展開だ。創業初期の段階から海外に積極的に進出してきた。グローバルに事業を展開することで、個々の地域の景気の影響を受けにくく、全体として安定的に成長できている。

 さらに4つ目は、非同族の経営。巨大な会社をつくることを前提に、いかに優秀な人を世界中から集めるかという観点でやってきた。新卒者とほぼ同じぐらいの中途社員を採用している。M&Aで新しいビジネスに入っていくため、外部から経験者を入れる必要がある。また、創業40年の会社であることを考えると、手薄になりがちな40〜50代の年齢層の人材を中途採用で獲得できているという。

 「当社には10兆円企業にするという目標があり、そのために必要なことを全部やっている。その軸がブレない経営を続けてきたことが誇りだ」と永守社長はこれまでを振り返る。

リーマンショックの転換点で一気に改革を進めた永守重信氏

永守重信氏 大きな転換点となったのが、リーマンショックが起きた2008年以降の数年間だ。当初は10年頃に売上高1兆円の達成を目指していたが、それが遅れる原因にもなった。

 リーマンショックでは、多くの会社が世界的規模で売り上げが半分に減り、大赤字となって、経済が混乱した。また、日本にとっては円高が加速し、さらに11年にはタイで大洪水が発生した。過去にない予想外の世界経済の大きな転換や災害が起きたことで、10〜12年の3年間は日本電産の成長が停滞した。

 リーマンショックに際しては、多くの会社が赤字となる中、日本電産は黒字を維持した。その時に日本電産が進めたのが、「WPR(ダブル・プロフィット・レシオ)」と称する構造改革で、売り上げが半分になっても黒字化できる経営体質に転換した。

 こうした転換に時間をかけないのが永守流だ。構造改革に臨む姿勢ついて、次のように語る。

 「日本の企業は、時間をかけてダラダラとやるから、毎年やるはめになる。われわれはそれを一発でやる。人間の病気も一緒で、漢方薬だけに頼ると時間がかかるが、悪い部分は切除したほうが治りは早い。われわれは一度にやり切るから、完全にV字回復できる。1年我慢すれば結果は出ると思ってやったし、実際に業績も最高益まで一気に持っていっている」

 その際に永守社長は、1930年代の米国の大恐慌の時に生き残った会社を研究。さらに、その後に100年以上継続している会社を3社買収し、それらの会社が生き残ってきた事例を調べたという。その結果、生き残った会社の共通点は、グローバル展開、しっかりした経営理念、コンスタントな人材育成の3つだという。これらの3つは前述の日本電産の成長要因にそのまま当てはまる。

 「グローバルで戦っていかなければいけないので、海外企業がやっていることを学んでいくことが必要」という。

 また、世界経済の混乱の中で、同社を取り巻く経営環境も変化してきた。同社の成長を牽引してきた精密小型モーターの主要用途であるパソコンが、スマートフォンやタブレットに押され、市場の成長が鈍化した。また、デジタルカメラもコンパクトデジタルカメラがスマホに喰われる形で成長が鈍化している。一方で、電子化の進展や電気自動車を見据えて自動車向けなどは拡大しつつある。

 こうした状況を鑑み、「WPR Part2(WPR=ワールドクラス・パフォーマンス・レシオ)」と称する収益構造改革を実行。大規模なビジネスポートフォリオの転換を進めている。景気の影響を受けやすい製品群だけでは、浮き沈みが激しいため、M&Aでは過去にない規模で買収を積極的に実行。「精密小型モーター」に続き、「車載」「家電・商業・産業用」「その他の製品グループ」を含めた4本柱の構築を進めている。

 これまでもビジネスポートフォリオの転換は行ってきたが、ここまで大規模な転換は初めてという。この収益構造改革について永守社長は次のように語る。

 「今まで非常に良かった精密モーターの分野が少し停滞し、次の新しい事業を始めた時にはまだ芽が出ていなくて、非常にコスト負担が厳しく、成長が鈍化した。この3年間は『日本電産の成長も終わりか?』みたいなことも書かれたりしたが、その間にわれわれはきちんと次の成長基盤の構築をやってきた」

 停滞も前期までで、今後は売り上げが数兆円規模まで伸びる段階に来ているという。リーマンショックやタイの洪水、円高といった予想外の要因が続いたことが、結果的に企業を強くしたと永守社長は振り返る。

 「どこかで苦難とまではいかなくても大きな転換をする時期がないと次の成長の基盤構築ができない。成長の踊り場があったほうがその後に伸びる。その踊り場が恐らく10〜12年の期間だったのだと思う」

グローバル化を睨み一体化経営へ移行すると語る永守重信氏

 M&Aで成長を加速してきた日本電産だが、買収後の子会社同士のオペレーションも新たな展開を見せている。

 これまでの子会社の経営は、個々の事業会社が独立して動く「連邦経営」の形態をとり、それが競争力となっていた。現在は、この連邦経営を改め、グループ会社で連携する「一体化経営」に切り替えている。

 その背景については、ビジネスのグローバル化がある。日本の市場が小さくなり、世界に出ていかなければならなくなった。グローバル化に伴い、顧客も世界3極体制や4極体制をとるメーカーが相手となる。例えば欧州の自動車メーカーに製品を納入する時は、その会社はアジアでも、米国でも、インドでも生産しており、そこへ同じ部品を供給する必要がある。

 これまでは、グループ会社で小さな会社が個々に展開していたが、売上高が数百億円単位の小さな会社が単独では、人材やインフラが不足し、事業におけるリスクも高くなってくる。

 この現状を永守社長は次のように分析する。

 「部品産業では1千億円、設備産業では500億円ぐらいの売り上げ規模がないと、グローバルでは戦えない時代が来た」

 このため、グループ会社同士で連携して一体になって展開する。既に中国の平湖には14社が、ベトナムには10社が一緒に進出している。各社の営業部門がすべて同じ建物に入居し、間接部門が不要となり、管理コストも低く抑えることができる。何かリスクが起きた場合の対処も容易となる。工場についても同じ敷地内で資産を共有し、余剰設備や人員の最適配置が可能になるほか、物流面でも同じトラックを共用できるため、グループのシナジーが生かせる。個々の会社が単独では売り上げ200億円でも、グループ会社としては工業団地全体で1千億円規模になり、グローバルで戦える規模になる。このグループ間連携の利点を生かすために一体化経営に変えたという。

 今後は「100年後も成長できる会社」を目標に掲げている。その実現には、時代の変化を考慮する必要がある。

 今は世界経済に連動し、マーケットの変動性が高まっている。売り上げが1カ月後に半分に減るかと思えば、逆に倍に増えたりする。1年トータルでは以前と変わらなくても、月単位の変動は激しくなっている。

 こうした変化への対応について、永守社長はこう指摘する。

 「本当の意味でのCEO(経営最高責任者)が権限を持って、ストップ&ゴーを繰り返すことが必要になる。そういう経営手法がもっと日本に入ってこなければいけない」

 これからの経営者には、グローバル競争に対応できる決断の早さが求められてくる。

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