マネジメント

地銀での7年半の勤務を経て、10年前に事業再生コンサルタント会社を創設——銀行の実態を内と外の両面からとらえてきた川北英貴が、銀行と賢く付き合うための交渉術を伝授します。

 あなたは、銀行の言いなりになってはいませんか?

 銀行の言うことには、一つひとつ裏があります。それらを理解した上で、彼らの言うことを受け入れるか否かを判断することが、銀行とうまく付き合う秘訣です。

 例えば、銀行員はよく、自分たちの商品(融資・役務・投資信託・保険など、銀行が取り扱うものすべて)を勧めてきます。今回は、彼らがなぜそうするのかを説明しましょう。

銀行員が熱心にセールスする要因

 筆者は地方銀行で7年半の勤務経験があります。その中で、最も記憶に残っているのが数値目標の多さです。課せられる目標の項目数は実に40。以下は、その一例です。

・ 銀行のメーン業務である融資残高の増大に結び付く項目

ー融資の期中平均残高の増大

ー信用保証協会保証付き融 資の期中平均残高の増大

ー新規融資先数の増大

・ 支店の収益に関する項目

ー経常収益(銀行の売上高/融資利息・手数料収益など)

ー手数料収益(振込手数料・

 手形取立手数料・外国為替 手数料、など)

・ 預金残高の増大に結び付く項目

ー年金口座の増大

ー給与振込口座の増大

・ 銀行の付随業務や、銀行関連会社の利益に結び付く項目

ー投資信託預かり残高の増大

ークレジットカード顧客の獲得

 これら目標の対象期間は、銀行の半期決算に合わせた4〜9月と10〜3月。各期間における具体的な数値目標が、銀行本部 から各支店へと割り振られ、各支店で行員ごとの数値目標へと落とし込まれます。このうち、とりわけ多くの目標を背負わされるのが、銀行で営業の役割を担う得意先係です。

 得意先係は、それぞれ担当の取引先を抱えていますが、その割り振りは地域カットで行われるのが一般的です。例えば、筆者が最初に配属された店舗では、得意先係長の配下に総勢5人の得意先係がいて、重要な取引先は得意先係長が担当。それ以外の取引先が4つのテリトリーに分けられ、各得意先係に振り分けられます。

 当時、得意先係だった私に割り振られた顧客数は約50社。そんな限られた範囲の中で、自分に背負わされた多くの数値目標を達成しなければならかったわけです。

銀行が扱う商品の多様化と、銀行員の頭の中

 旧来、銀行で取り扱う商品は預金と融資ぐらいのものでした。ところが、1998年に投資信託の取り扱いが、2002年には保険の販売が銀行で始まりました。近年では、デリバティブ商品を企業顧客に勧め、大きな損失を出すなど、銀行が扱う商品の多様化と複雑化はかなり進行しています。

 ところが、銀行員の頭にあるのは、まずは数値目標の達成で、各商品の知識を深める努力はどうしても後回しになります。結果、商品に対する理解が不十分なまま、数値目標の達成に向けて、「とにかく、売りやすい商品を売る」ことに終始します。

 先に触れたとおり、得意先係が商品を売る相手は、担当地域の限られた数の得意先だけです。その中で、商品を売りつけやすい相手は、自分たち(銀行)のほうが立場的に強いと思われる相手です。例えば、銀行から定期的に融資を受けているものの、資金繰りが厳しい会社は、銀行の融資を止められれば破綻の危機に瀕します。ですので、銀行のほうが立場的に上と言えるでしょう。

 このような会社を、得意先係は「何でも言うことを聞いてくれそうな相手」と見なし、狙ってくるわけです。

銀行員の裏事情と第1の目的

 もっとも、「優越的地位の乱用」は違法です。要するに、銀行が「資金の貸し主」という優越的地位を濫用し、企業に何でも言うことを聞かせようとするのは、不公正取引の1つとして独占禁止法で禁じられているのです。

 ですから、銀行が勧めてきた商品が不要であれば、どのような場合でも、キッパリと断るべきです。逆に、融資を止められることを恐れ、銀行から勧められるままに投資信託などの商品を購入した結果、損失を出し、経営をさらに悪化させるリスクもあるのです。

 銀行員があなたに商品を勧める背後には、銀行の厳しい数値目標があり、彼らにとっての第1の目的は、商品を売ることにほかなりません。

 また、必ずしも銀行員がしっかりとした商品知識を持った上で、あなたに商品を勧めているわけでもありません。銀行員の熱心なセールストークの背後に、こうした裏事情があることを、ぜひ、お忘れなく。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

コエンザイムQ10のCMで知名度向上、売上高1兆円を目指すカネカ--カネカ社長 角倉 護

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
65歳からのハローワーク

  • ・総論 働く上で「年齢」は意味を持たなくなる
  • ・50歳からの15年間の準備が豊かなセカンドライフを保証する
  • ・エグゼクティブのセカンドキャリア最前線
  • ・企業のシニア活用(富士通、ネスレ日本、鹿島)
  • ・副業のすすめ 現役時代の副業は定年以降のパスポート
  • ・島耕作に見るシニアの今後の生き方 弘兼憲史

[Special Interview]

 赤坂祐二(日本航空社長)

 「中長距離LCC事業には挑戦する価値がある」

[NEWS REPORT]

◆社員の3分の1を異動したWOWOWの危機感

◆迷走か、それとも覚醒か B2Cの奇策に出るJDI

◆外国人労働者受け入れ解禁で どうなる日本の労働市場

[特集2]

 開幕まで1年!

 ラグビーワールドカップ2019

ページ上部へ戻る